米クアルコムが、Snapdragon Xシリーズのコンピューティング向けチップセットの発表会をベルリンで開催しました。独自に設計開発したCPU「Oryon」(オライオン)を8基搭載する標準価格帯のPC向け「Snapdragon X Plus 8コア」です。
現地時間の9月4日には、CEOのクリスチアーノ・アモン氏が登壇するプレスカンファレンスを実施。Snapdragon Xシリーズのファミリーに新しく加わるチップセットの概略が紹介されました。
10万円台のCopilot+ PCを実現するSnapdragon Xシリーズのチップを発表
クアルコムは、Oryonを載せたコンピューティング向けSnapdragon XシリーズのフラグシップであるCPU 12コア構成の「Elite」を、2023年10月のSnapdragon Summitで発表しました。続いて今夏には、CPU 10コアのSnapdragon X Plusが加わっています。
同社が新たに8コアのチップセットを投入する背景には、コンピューティングデバイス向けSnapdragon Xシリーズのラインナップを拡大し、PCメーカーによる700~900ドル(10万~13万円)前後のAI PCの市場にSnapdragonの存在感を示そうとする狙いがあります。アモンCEOは、発表会の壇上で新しいチップセットの位置付けを次のように語っています。
「Copilot+ PCによる革新的なAIコンピューティング体験をすべてのPCユーザーに届けたいという思いを、クアルコムはSnapdragon Xシリーズの企画を立ち上げる段階から抱いている。8コアのSnapdragon Xは、その歩みを大きく前進させる。クラス最高のパフォーマンス、AIとバッテリーライフのいずれにも妥協することのない快適さを標準価格のPCに提供するチップセットだ」
Snapdragon X Plus 8コアのチップセットは、マイクロソフトが「Copilot+ PC」の要件としているNPU単体で40~60TOPSという性能を満たしています。クアルコムの公称スペックによると、NPUは1秒間に45兆回の演算ができる「45TOPS」(Trillions Operations per Second)の実力があります。これは、最上位チップセットであるSnapdragon X Eliteと肩を並べるスペックになります。
また、クアルコムによる最新のAdreno GPUをチップセットに組み込んだことで、搭載するPCは最大3台までの外部モニター接続にも対応します。
Snapdragon X Plus 8コアのシリーズは、搭載するCPU/GPUの性能が若干異なる2種類のユニットがあります。
- X1P-46-100:最大3.4GHz マルチコア動作クロック(4.0GHz シングルコア ブースト周波数)、2.1 TFLOPS GPU、45TOPS NPU
- X1P-42-100:最大3.2GHz マルチコア動作クロック(3.4GHz シングルコア ブースト周波数)、1.7 TFLOPS GPU、45TOPS NPU
最初にスタンダードクラスの「X1P-42-100」を搭載するPCやタブレットなどのデバイスが出荷を開始し、上位クラスのチップである「X1P-46-100」が年内をめどに商品化される形になります。
クアルコムのイベントでASUSが新製品を公開
Snapdragon X Plus 8コアを載せた「Copilot+ PC」の商品化は、クアルコムの発表に合わせてベルリンでイベントを開催したASUSとAcerがいち早く実現しています。一部の機種は欧州で9月から購入できるようになりました。ほかにも、近くPCを提供するパートナーとしてDell Technologies、HP、レノボ、サムスンの名前が挙がっています。
アモン氏は「アプリケーションから最大のAIパワーを引き出すと同時に、消費電力は低く抑える。新しいチップはマイクロソフトが今年の6月に国内で一斉に発売したSnapdragon搭載の『Copilot+ PC』の層を厚くする。ラップトップPCの薄型化と軽量化にも寄与するだろう」とメリットを説きます。
クアルコムはベルリン市内のホテルで、Snapdragon X Plus 8コアの性能を披露するベンチマークテストのセッションを実施しました。
会場にはベンチマークテストのリファレンスとして、スタンダードクラスのチップセットである「X1P-42-100」を載せて発売されるASUSのノートPC「ASUS Vivobook S15」が展示されました。発売は9月の予定。ASUSは先んじて、Snapdragon X Eliteを搭載する同型のCopilot+ PCを日本でも6月に発売しています。
ASUSでは、この15.6インチの有機ELタッチスクリーンを載せたクラムシェル型のCopilot+ PCを、欧州では推定価格899ドル(約13万円)で9月に発売します。このほかにも、同じSnapdragon X Plus 8コア/X1P-42-100を搭載する13.3型デタッチャブル2-in-1の「ProArt PZ13」は、9月に日本でも販売を開始する見込みです。
ベンチマークテストの会場に参加したASUSの担当者は、Snapdragon Xシリーズのチップセットを搭載する同社のCopilot+ PCの開発について「上位のEliteと、標準価格帯のPCを提供できる8コアのSnapdragon X Plusの製品に市場の関心が集まると考えている。いずれ、その両方に注力することにもなるだろう」とコメントしています。
10コアのSnapdragon X Plusにもテコ入れ
クアルコムが開催したプレスカンファレンスの壇上で、CEOのアモン氏は“One more thing”として、10コアのSnapdragon X Plusが搭載するCPUのパフォーマンスを引き上げるアップデートを発表しました。最大4.0GHzのシングルコアブースト機能を来年前半までに追加します。12コアと8コアのSnapdragon Xシリーズの間に挟まれることになる10コアのチップの存在感を引き上げる施策となるのか、要注目です。
プレスカンファレンスのステージには、マイクロソフトからWindows+ Devices部門のバイスプレジデントであるパヴァン・ダブルリ氏が出席。同社も、新しいSnapdragon X Plusシリーズのチップを搭載するエンタープライズ向けの「Surface Pro」と「Surface Laptop」を9月10日から発売することを明らかにしました。
「Lunar Lake正式発表! Core Ultra 200Vシリーズのラインナップを早速チェック」の記事で速報した通り、米インテルもベルリンで「Intel Core Ultra シリーズ2」の発表会を開催し、マイクロソフトのCopilot+ PCに全力投球する姿勢を前面に打ち出しました。秋以降はAI PCの周辺がますます熱くなりそうです。