日本パラ射撃界初の快挙だ。9月1日にフランス国立射撃場(シャトー・ルー)で行われた射撃の混合10mエアライフル伏射(SH2)で、水田光夏が銅メダルを獲得。水田は「予想をはるかに超える結果で、自分でも驚いた」と言う。メダル獲得を支えたのは、どんな環境でもぶれない平常心と、楽しむ気持ちだった。
「このままじゃ、ダメ」からの進化東京大会に続き、2度目のパラリンピックとなった水田。今大会も、車いすやコート、テーブルなどの用具に合わせてピンク色に染めたツインテールと、パラリンピックのシンボル、スリーアギトスなどを描いた「パラリンピック仕様」のネイルという華やかなコーディネートで会場に現れた。
「もともとあまり緊張しないタイプ。環境が変わっても、いつも通り撃てるのが強み」と水田は自己分析する。東京大会を経験して、「出るだけじゃダメ。ファイナルに出たい」と、意識が変わった。そのために取り組んだことの1つが、コンディショニング問題の克服だ。前大会では、呼吸管理などコンディショニングのトラブルから、思うようなパフォーマンスが発揮できず、本選で敗退した。
今大会も水田のまわりはピンクのアイテムが多かった。背中にはお守りも「(試合中の酸素吸入は認められていないため)酸素吸入は試合の前後に行う。(射撃の際は)息を止める時間を短くするとか、呼吸のリズムをしっかり作っていくなど、繰り返し練習をした」というように、1年かけて、課題を克服。また、より射撃に集中できるよう、弾込めを付き添いに任せるとともに、テーブルにお気に入りのものを置いたり、ネイルを飾ったりするなど、好きなものに囲まれて射撃ができる環境を整えたことで、着実に成長。国際大会の舞台でファイナルに進出する機会も増えていった。
今大会の目標を、自己ベストの更新とファイナル進出に設定。本選では、これまでの取り組みの成果を十分に発揮した。
射撃は10発を1シリーズとして、6シリーズ計60発を撃ち、得点の高さを競い合う。1発目から順調に得点を重ねたものの、4シリーズ目では「いつも通り撃ってるつもりだけど点数的に伸びなかった」という。
弾込めを任せることでより集中できるようになったしかし、うまく気持ちを切り替え、次のシリーズはこの日、自身最高の107.2点をマーク。最終の6シリーズ、59発目に10.1点、最後の60発目に10.3点を撃ったのは、ご愛嬌といったところ。終わってみれば、自身が持つ日本記録638.3点に迫る636.5点をたたき出し、6位でファイナル進出を果たした。
ほかの選手の射撃も楽しめたファイナルは、楽しもうと思って臨んだ。会場に入ると、揺れているように感じるほどの熱気と大声援に包まれたというが、それに圧倒されることなく、「パラリンピックならではだなあ」と冷静に観察しつつ、楽しめてしまうところが水田の強さだろう。
ファイナルは、8人が一斉に撃ち、点数が低い順に脱落する勝ち抜き方式。最下位が複数いる場合は、シュートオフで脱落者を決めるのだが、ほかの選手のシュートオフを観客と一緒に楽しみつつ、自分の射撃も楽しめた、というから、ここでも強心臓ぶりがうかがえる。
会場は、揺れを感じるほどの歓声が響いたという「10.6点以上は撃たないと」と思っていたというだけに、東京大会の金メダリストであるドラガン・リスティッチ(セルビア)とのシュートオフで、10.3点を撃った際は、さすがに苦い顔を見せた。しかし、なんとかこの対決を制すると、続くマルガリダ・ラパ(ポルトガル)とのシュートオフもくぐり抜け、銅メダル以上が確定。ここで、いつも冷静な水田の瞳に、うっすらと涙が浮かんだ。
「まだ途中だったが、3位以上が決定したとわかってからは、泣きながら撃っていた」
最後の1発は10.5点で終了。2位との差はわずか0.8点。笑顔を浮かべつつ、どこか悔しそうでもある表情が印象的だった。
受け取った大会マスコット「フリージュ」を見つめる水田これからのことはまだわからない、としつつも、射撃は続ける。
「『ていねいな射撃』を大きな目標としている。そこは変わらずにやっていきたい」
置かれた状況を丸ごと楽しめる水田だからこそ、次は頂点にたどり着くかもしれない。そう思わせてくれる好ゲームだった。
ボランティアや観客と交流も。パリから遠く離れた会場はアットホームな雰囲気だったようだtext by TEAM A
photo by Takamitsu Mifune