藤井聡太王座に永瀬拓矢九段が挑戦する第72期王座戦五番勝負(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は9月4日(水)に神奈川県秦野市の「元湯陣屋」で開幕。対局の結果、角換わり早繰り銀を用いて難解なねじり合いを抜け出した藤井王座が124手で勝利し防衛に向け好スタートを切りました。
待望のリターンマッチ
昨年とは立場を入れ替えての五番勝負。前日会見に臨んだ永瀬九段は「挑戦が決まってから、どんなときも藤井王座との対局を考えていた」と気合十分です。振り駒が行われた開幕局は両者の息が合って角換わりに進展、後手の藤井王座は△3三金型早繰り銀と呼ばれる積極策を打ち出しました。角換わりの中でも定跡の整備が進んでいない形です。
藤井王座の作戦は今年4月に伊藤匠叡王との間で指された叡王戦第2局でも採用しているもの。深い研究を身上とする先手の永瀬九段もさほど時間を使わず淡々と指し進めます。腰掛け銀に構えたのち自陣に馬を引き付けたのが永瀬九段の主張で、長引けば後手の生角との働きの差が出てくるという大局観です。
終わってみれば快勝
藤井王座が左辺の端攻めに出て徐々に戦いの機運が高まります。永瀬九段が2筋に香を据えて玉にプレッシャーをかけた手が藤井王座の本格的な攻めの呼び水となりました。歩の手筋を駆使して拠点を作ったのが平凡ながら厳しい攻め。桂による急所の王手が入ったことで後手からの攻めが切れなくなりました。
素直に指しては苦しい永瀬九段も必死に逆転の順を探りますが、藤井王座の見切りはこの日も冴えわたりました。金のタダ捨てから角のタダ捨てという尋常でない勝負手に対しても藤井王座が慌てる様子はありません。終局時刻は20時30分、最後は敵玉への寄せがないことを認めた永瀬九段が投了。
全体を振り返ると永瀬九段に力を出させぬまま終盤の入り口から怪力を発揮した藤井王座の快勝譜に。藤井王座はそれでも「やろうと思っていた作戦だったが(中盤は)自信がなく、駒組みにもう少し工夫が必要だった」と振り返りました。注目の第2局は9月18日(水)に愛知県名古屋市の「名古屋マリオットアソシアホテル」で行われます。
水留啓(将棋情報局)