3月24日に行われた、大学対抗eスポーツ大会「マイナビeカレ ~esports全国大学選手権 2024~」の決勝大会。繰り上がりで出場した神奈川工科大学「ケアオウム」の3人は、大会をどのように感じたのでしょうか。彼らのバックグランドを追ってみたいと思います。
マイナビeカレ2024の決勝に進出した神奈川工科大学
「マイナビeカレ ~esports全国大学選手権 2024〜」(以下、マイナビeカレ)の採用タイトルは「Apex Legends」。激しい試合が続いた予選大会を勝ち抜き、決勝大会に進出したのは20チームです。神奈川工科大学の「ケアオウム」は予選で惜しくも敗れたものの、繰り上がりでこの20チームのうちのひとつとなりました。
とはいえ、実力が足りなかったわけではありません。上位10チームには入れなかったものの、総合成績15位と健闘。ときにはチャンピオン争いにも絡み、確かな存在感を示しました。その背景には、チーム3人の努力と神奈川工科大学の環境があったのです。
今回は、神奈川県厚木市にある神奈川工科大学のキャンパスにお邪魔し、「ケアオウム」の3人、そして情報ネットワーク・コミュニケーション学科の塩川茂樹氏、理事の久保田昌彦氏にお話を伺いました。
クラブ内の実力者を集めた「ケアオウム」
――はじめに、3人の自己紹介をお願いします。
SoySnaCK:4年生のSoySnaCKです。ゲーム歴は9年くらい、主に使っていたキャラはコースティックで、基本的にIGL(In Game Leader/前線で支持を出す役割)に従っています。もともとキーボード&マウスだったんですけど、二カ月くらい前からパッドにコンバートしました。
asano:3年生のasanoです。中学生の時に荒野行動をやってて、高校二年生の始めにApex Legendsを始めました。基本的にIGLをやっていて、部内ではコーチ役もしています。大会ではレイスを使いましたが、使うキャラはホライゾン、ヴァルキリー、パスファインダーあたりが多いです。
WonderfulSenon:3年のWonderfulSenonです。小学校からスマホゲームをちょっとずつやっていて、中学2~3年くらいでPCを買ってからはFortniteやIronsightをプレイしていました。Apex Legendsも結構初期からずっとやっています。ゲーム内ではサポートキャラを使うことが多くて、後衛からアシストする幹事の立ち位置でやってました。大会ではジブラルタルを使っていましたが、普段はワットソンやライフラインを使っています。
――3人はどういうきっかけでチームを組むことになったのですか?
asano:マイナビさんから部長に連絡をいただいて大会を知ったのですが、それから部内でモチベーションと技術力が高いメンバーを集めた感じです。
SoySnaCK:オフラインで対戦する機会はなかなかありませんから、メンバーに選出されたときは「よし、やるか」という気持ちになりましたね。
――「ケアオウム」は繰り上がりという形で決勝大会に出場しましたが、決勝進出が決まった時のお気持ちは?
SoySnaCK:最初、予選で敗退した時はがっかりして2日間くらい寝込んじゃいました(笑)。ちょうど休み時だったので昼過ぎに起きて、二人に連絡したら「繰り上がったよ俺ら」と言われたときは無茶苦茶うれしかったですね。
WonderfulSenon:僕が最初に気づいて二人に送ったんですけど、SoySnaCK先輩は寝てたので、asanoと二人で「え、これほんと?」みたいな感じで騒いでました。
マイナビeカレ2024 決勝大会は「悔しい」の一言
――今回の決勝大会はオフラインというのが大きな特徴だったと思います。会場の雰囲気はいかがでしたか?
asano:すごく興奮しました! 「こういう場でゲームができるんだ」「自分がいつもモニター越しに見ている世界にいるんだ」という感覚があって、テンション上がりました。
SoySnaCK:入場シーンが結構ハデで、その時はなんとも思ってなかったんですけど、あとから見ると「こんな世界にいたんだ」という感動がありました。
WonderfulSenon:熱気があって、どのチームも緊張と興奮が混ざったような空気感があって楽しかったですね。
――それでは、決勝大会を終えた率直なご感想をお聞かせください!
asano:もう本当に「悔しい」の一言です。やっぱりオフラインの経験がなかったので、自分たちのパフォーマンスがなかなか出せませんでした。当日は会場にギリギリに着いちゃって全然練習できませんでしたし、緊張も相まって序盤から崩れてしまいました。そのままズルズルいっちゃった感じです。
――決勝大会でのプレイを振り返って、思い出すシーンはありますか?
asano:1ラウンド目から屋根裏にいる敵の裏を取れたんですけど、緊張のせいかボルトを全弾外しまして……あれは一生のトラウマです。一番良かったのは3ラウンド目ですね。5位まで残れたんですけど、いま思い返しても後悔しかないです。
SoySnaCK:喋る量は減っていたし、味方に対する励ましの言葉も足りていなかったと思います。緊張する場だからこそ、声を掛け合わないとダメだったなと。
WonderfulSenon:僕はメンタルがちょっと弱いという自覚があって、プレイにも影響が出てしまいました。大会に近いスクリムとかでちょっとずつ経験を積んで、自信を付けたいと思いますね。
――大会の中で、他大学のチームとの交流などはありましたか?
asano:特別な交流はなかったですね。でも隣の席にいた関西学院大学の「親指撲滅隊」とはちょっと話したかな。ゲームとは全然関係ないんですが、彼らが本当に良い体をしていて「筋肉ヤバいっすね!」という話をしてました(笑)。
――今回はプロゲーマーやストリーマーがアンバサダーとして参加されたのが大きな特徴でしたが、「ケアオウム」のアンバサダーを務めた「えでん」さんとはどんなお話をしましたか?
asano:アンバサダーが決まる前から「えでん」さんの配信は見ていて、優しい人だなと思ってたんですけど、実際話をしてもすごく良い人でした。緊張していた時に励ましてくれたり、「もっと中入り速くしたほうがいい」とアドバイスをいただいたりしましたね。それを実践したおかげで、3ラウンド目は5位まで上れたと思います。
SoySnaCK:結果がいまいちだったので本当に申し訳ないと思ってたんですけど、そこでも優しく声をかけてくれたのが印象に残っています。
asano:決勝が終わった後にお話しする機会があったんですけど、そこで「今度またマイナビeカレで決勝まで上がれたときは絶対えでんさんを指名します!」と伝えました。
――決勝大会を経て、変わったこと、気づいたことをお聞かせください。
asano:伝えることへの努力ですね。大会中に「自分が考えていることを正確に言おう」「短く伝えよう」と思いまして、そこから話すときは気をつけるようにしました。
SoySnaCK:環境って大事だなって思いました。デバイスは普段自分たちが使っているものを使えましたが、場所はもちろん、用意された椅子とか机とかもぜんぜん違うものなんですよね。やっぱり最初はやりにくさを感じたり、違う結果が出たりと新鮮でした。環境に順応できるのも能力なのかなって。
ゲームと大学生活をどうやって両立させるか?
――ここから、みなさんの大学生活について伺いたいと思います。学業や活動などの大学生活とゲームはどのように両立されていますか?
SoySnaCK:大会の練習をしていたときはすごく忙しくて、できるだけ効率よくゲーム以外の時間を削減していました(笑)。とにかく切り詰めて、食事時間も最低限にして、ゲームをやりながら食べられる食事を作ったりしましたね。普段、ゲームをする時間は2~3時間ほどですが、その時期は最低8時間くらいプレイしていたと思います。
WonderfulSenon:大会の活動時間に関わらず、部活動は夜の9時くらいから始まるので、授業時間内に終わる課題はすべてやって、残ったものは帰宅してすぐに終わらせて、なるべく早く切り替えてゲームをしていましたね。
asano:え~、両立できてないです! ゲームも好きなんですけど、外に遊びに行くのも好きなので、やりたいことがいっぱいあって……。いつもテスト前に友達に「教えてください!」ってご飯を奢ってます(笑)。
――みなさんがeスポーツを通して「得たもの」とはなんですか?
asano:中学校や高校の部活動のように、チームを組んでみんなで上を目指すっていう「青春」です。
SoySnaCK:僕は中学・高校で体験できなかったスポーツ系の部活を体験できたということですね。
WonderfulSenon:友達ができました。実は、人付き合いが結構苦手で……(笑)。コロナ禍の影響で授業でもグループワークみたいなのが少なかったので、人と関わる機会がなさ過ぎたんですよ。なので、部活内で一緒に好きなことをやれる友達ができたことが一番の成果でした。
――神奈川工科大学に入学された理由を伺ってもよろしいですか?
asano:家を出たかったというのが一番の理由ですが、あまり文系科目が得意ではなかったので、理系科目で入れて資格が取れる大学を調べて、ここになりました。
SoySnaCK:僕は、オープンキャンパスで「燃料電池コンテスト」という“自分で何か作って体験しよう”みたいなものをやっていたのを見て、この大学にしました。しばらくやっていなかったのですが、たしか今年復活したはずです。
WonderfulSenon:自分はいま、情報学部の情報メディア学科に通っています。工学部などで情報工学っていうのはよく見るんですけど、情報学部っていうのは結構珍しいと思って、メディア寄りの勉強ができるのかなと思って選んだ感じです。
――将来、どのような仕事をしたいと思っていますか?
asano:やりたいことはいくつもあって、まだ決め切れてはいないのですが、とりあえず電験(電気主任技術者試験)をとって、電気系の会社に行くか、家業を継ぐかですかね。就職がキツくなったら泣きつくと思います(笑)。
SoySnaCK:燃料電池と全然関係なくて申し訳ないですけども(笑)、いま卒業研究で水素を出す微生物の研究をしてまして、微生物で何か人を救うみたいな分野はちょっと面白いかなと思っています。
WonderfulSenon:最終的には働きたくないんですけど(笑)、ゲームに関わるサウンドエンジニア的なお仕事は面白そうだなって思っています。いま学部のほうで取っている音楽系の授業がそんな感じで、ちょっと興味がわいた感じです。
――最後に、マイナビeカレのような大会への出場を目指す同世代に向けて、メッセージをお願いします!
asano:怒られちゃいそうですけど……勉強も大切なんですが、やっぱり部活動って多分いましかできないと思うので、「本気でやれ!」って感じですね。
SoySnaCK:ゲームにもよると思うんですけど、Apex Legendsは1人のゲームじゃないので、信頼できる仲間は大事だと思います。ぜひ仲間を作ってください。
WonderfulSenon:僕は「なによりも楽しんで欲しい」ですかね。結果がどうであれ、楽しんだら勝ちかなって思います。
eスポーツで社会人に必要な要素を学んでほしい
「ケアオウム」の3人が所属しているクラブは、神奈川工科大学の公式クラブ「KAIT eSports」です。その始まりは2020年11月、コロナ禍で外出自粛が求められていた時期に大学内で立ち上げられたeスポーツプロジェクトでした。
その狙いは、「eスポーツを通じた地域貢献」と「研究資産・教育資産のeスポーツ活用」にあったそうです。神奈川工科大学はNTTe-Sportsとの連携協定を結び、三つの大きな柱を立てました。
一つ目は、公式クラブ「KAIT eSports」。それまでサークルだったeスポーツの同好会に正式名称を付け、資金面などの支援を行いました。
二つ目は、eスポーツ研究センター「KAIT TOWN」。工学的な視点からeスポーツの環境整備を行う施設で、現在はゲームにおけるネットワークや、競技者の視線計測、マウスやキーボードの操作奇跡などが研究されています。
三つ目は、「eスポーツ教育」。まだ授業の提供までは行えていませんが、競技の運営やイベントを通じた、学生の社会活動を提供しながら、地域貢献を行っています。現在は、来校した方へのレクチャーや、地域の小・中学生へのeスポーツ普及などの活動を行っています。
KAIT eSportsの顧問を務める、神奈川工科大学 情報ネットワーク・コミュニケーション学科 教授の塩川茂樹氏は、もともと陸上競技をしており、オリンピックを目指していたフィジカルスポーツ畑。ですが、eスポーツの競技的な側面に興味を持っており、プロジェクトの立ち上げに関わることになったそうです。
「eスポーツなら、フィジカルスポーツにあまり親しんでない学生であっても、スポーツでの交流や仲間の居る環境が得られますし、コロナ禍でもそういった体験をさせられるのではないかと考えました。主体性やコミュニケーション能力の形成など、社会人になってから必要な要素を学ぶ上で、サークルやクラブの経験はすごく大きいと思います」(塩川氏)
また、eスポーツに関する体験は、eスポーツ業界で仕事をすることにならずとも、社会人として大きな糧になると塩川氏は言います。例えば、eスポーツを通して学べる工学や情報学の知識、自分たちの手でeスポーツ配信を行うことでわかるさまざまな仕事とスキル、イベント運営を通じた成功体験、これらの経験から生まれるモチベーション……こういった経験が社会人としての力を養うそうです。
eスポーツへの投資を加速させる神奈川工科大学
こういった考えのもと、eスポーツプロジェクト及び、神奈川工科大学の地域との連携強化を担うべく3月に建てられたのが「KAIT TOWN」です。その建設費はおよそ8億円。KAIT eSportsへの投資と合わせると10億円弱の投資が行われています。
神奈川工科大学の理事(庶務担当・管財担当)であり、経営管理本部 庶務担当部長を務める久保田昌彦氏は、「これだけの投資をするからには、学生の集客を狙いたいという気持ちが無いわけではありません。でも当大学は『こんなことをやりたい』『社会で話題になってるならやろうよ』といった想いに対して、積極的に取り組む風土があります」と話します。
「一番はやはり学生さんが熱中できる場所、喜ぶ時間を大学が提供するという点です。これから、イベントの運営とか音響とか通信とか、いろんな授業での活用も実施していければと思っています」(久保田氏)
2024年7月末の時点で、公式クラブ「KAIT eSports」の部員はもうすぐ100名に達するそうです。これは同大学内で野球部に次ぐ規模となります。今後は学内という枠を超え、地域のお年寄りや小学生に向けたeスポーツ体験なども検討されています。厚木市も大きな期待を寄せており、竣工式には厚木市長も参列したと言います。
「我々はeスポーツのすそ野を広げることでの貢献を目指しています。そのためにも、オフラインの場を大事にしたいと思っています。中学・高校でのeスポーツのオンライン体験に加え、大学ではeスポーツを通した人との直接的なコミュニケーションを体験してもらいたいと思います。興味がある方には、ぜひとも当大学にお越しください」(塩川氏)