NTT DX パートナーとマクアケは8月1日より、地域メーカーの新商品開発を成功体験に変える「新商品プロデュース事業」を開始する。事業の柱となるのは「架空商品モール」と「新商品コンサルティング」というふたつのサービスだ。
地域企業の新商品開発を支援する「新商品プロデュース事業」
NTT東日本グループの一社であるNTT DX パートナーは、地域経済の活性化と産業振興支援を通して地域の人材育成、DXの推進支援などを行っている会社だ。
その目的は「地域循環型社会の実現」。ICT分野で培ってきた技術やノウハウによって、地域企業や自治体の持つ可能性や魅力を引き出し、自走するための支援を「DX、人づくり」という切り口で行っている。
地域企業にとって、新事業、新商品の企画・開発ニーズは大きい。既存事業の改善を進めることである程度の利益は出しているものの、「利益が頭打ちになる前に、新商品の開発にチャレンジしておかなければならない」という危機感を持っている会社はやはり多いからだ。
だが、野村総研による中小企業庁委託「中小企業の成長に向けた事業戦略等に関する調査」(2016年11月)によると、新事業展開を実施した企業において、“成功した”と回答したのは全体の約3割、かつ“経常利益が増加傾向にある”と回答したのは約半数。収益化のハードルは高いと言わざるを得ない。
その背景には、必要な技術・人材の不足、新事業・新製品開発のノウハウ不足、マーケティング力不足などの課題があるようだ。大別すると「何から始めればよいかわからない」「商品化の判断が難しい」「十分に売れない」の3つと言えるだろう。
このような地域企業を支援するため、NTT DX パートナーとマクアケが8月1日より開始するのが「新商品プロデュース事業」となる。
NTT DX パートナー 代表取締役の長谷部豊氏は、これを「新商品開発を成功体験に変えるサービス」と説明する。
「地域社会には高い技術をお持ちの企業さんがたくさんあります。しかし、世の中のニーズを調査する、新商品のアイデアを考える、商品を宣伝するなどはやったことがない企業さんが多くて、非常に不安を抱えているでしょう。私たちはアイデアの製品化から発売、そして販売拡大までを一気通貫で支援し、最後まで伴走していきたいと考えています。最初の一歩を踏み出すというところを、ぜひご相談いただきたい」(NTT DX パートナー 長谷部氏)
AIに技術を学習させ商品を作り評価する「架空商品モール」
「新商品プロデュース事業」は大きくふたつの柱で構成されている。ひとつ目は「架空商品モール」、ふたつ目は「新商品コンサルティング」だ。
「架空商品モール」は、端的に言えば「新商品開発の前に需要を可視化できるサービス」。
まず、その企業が持つ技術力をAIに学習させる。次に、生活者(一般ユーザー)がAIアバターとのチャットを通じて架空商品を生み出し、モールに商品をシェア。最後に、モールに並ぶ架空商品を生活者が評価し、需要を可視化させるという流れだ。この「架空商品」の需要を踏まえ、企業は採用判断を行う。
NTT DX パートナーの朴在文氏は、「いろいろなメーカーさんの支援をさせていただく中で、やはり新商品開発はすごく大変だと感じました。そのうえで、開発期間そのものをコンテンツにし、開発する前にファンが集まるかどうかを検証する仕組みが必要だと思いました」と、架空商品モールを作ったきっかけについて話す。
「『アイデアの総数を増やす』『アイデアの品質を高める』という2点を実現するには、どうしても人の力だけでは限界があります。そこで生成AIという技術を使い、もっと気軽にアイデアを生み出すという手段に行き着きました」(NTT DX パートナー 朴 氏)
「架空商品モール」の強みは、アイデアを募る中で、自然に商品のファン候補を得られる点にあるそうだ。大企業と異なり、新商品を開発しようとしている中小企業にはまだ顧客基盤がない。生活者が開発前からプロジェクトに参加し、中小企業とともに商品を作っていく過程を楽しむことで、完成前からフォロワーが得られると見込んでいる。
もちろん、アイデアが採用された際の報奨金なども検討されているので、生活者が楽しみながら商品を作り、それによって具体的な利益を得ることも可能だろう。
ブランディング、マーケティング、広報などを支援する「新商品コンサルティング」
「新商品コンサルティング」は、架空商品の採用を決めたのち「架空商品を実商品へと育て、拡大させていくサービス」だ。内容は大きく「商品開発・ブランディング支援」「戦略策定・マーケティング支援」「広報支援」「新商品のデビュー戦」の4つとなる。
マクアケが担うのは、この「新商品コンサルティング」だ。同社は、170個以上の新商品を上市に導いた新商品企画伴走サービス「MIS」や、39,000件以上の新製品や新サービスを生んだクラウドファンディングサービス「Makuake」を通じて、地域企業の課題解決に取り組む。
マクアケで専門性執行役員/R&Dプロデューサーを務める北原成憲氏は、「NTT DX パートナーさんとコラボレーションさせていただいたきっかけは、両社のビジョンが非常にシンクロできているというところでした。その中で、NTT DX パートナーさんの強みであるDXから、AIを活用した新しいサービスを立ち上げると伺い、強い関心を持ちました」と、協業の理由について語る。
新商品コンサルティングから誕生したブランド「stone+」
実際に「新商品コンサルティング」の支援を受けた企業のひとつが国広産業。国広産業は創業52年の奈良県の会社であり、B2B事業で培ったバレル研磨技術がウリだ。
国広産業代表取締役社長 影石崇氏は、「バレル研磨は主に金属部品の加工に使われており、プレス後のバリ取り、塗装やメッキをかける前の平滑処理などに用いられています。自動車部品や眼鏡のフレームなどさまざまな産業分野において比較的安定的に注文をいただいてきましたが、昨今のコロナ禍やEV自動車へのシフトなどで事業環境が変化し、新しいチャレンジをしていく必要に迫られました」と、そのいきさつについて述べる。
だがこれまでバレル研磨に特化してきた会社であるがゆえに、自社で新しい商品をクリエイトし販売していくノウハウがない。そこでNTT DX パートナーの支援を受け、新商品の開発を始めることにしたという。同社が立ち上げたのは、石材を使ったインテリアブランド「stone+」。コンセプトは「石から感じられる感動を皆様の生活に」だ。
開発された新商品は、洞窟内の残響、風合いのある音色を楽しめる石素材の無電源スピーカー「stone speaker」と、バレル研磨技術で磨いた石同士を擦ることで香りを広げる「aroma stone」の2点。
Makuakeでクラウドファンディングを行った結果、「stone speaker」はMakuake総合ランキングで936件中の5位を、「aroma stone」は702件中の6位を獲得し、幸先の良いスタートにつなげることができたという。
会場にはこの2商品に加え計10商品が展示。このうち実際に商品化されているのは3商品のみで、国広産業、長谷川醸造へのコンサルによって誕生し、残り7商品はクローズドコミュニティへのヒアリング等によって生まれたアイデアを3Dプリンターで出力した架空商品イメージとなる。あたかも実在していそうなリアルさに、来場者も驚きを隠せない様子だった。
地域企業の技術力を地域の活性化につなげたい
「架空商品モール」は8月1日よりアルファ版の限定公開をスタートし、まず企業の技術力をAIが学習する機能やAIアバターが提供される予定だ。同時に、企業向けの選考案内や、全国各地での1日ワークショップ開催を予定しているという。
一般公開されるベータ版は12月のリリースを予定しており、ここで需要の可視化機能やSNSとの連動、アンケート機能やログイン機能が追加されるだろう。
一方「新商品コンサルティング」は8月1日よりサービスを開始し、地域企業への展開をスタートさせる。今後は自治体との連携も検討されており、地域メーカー数社の挑戦を総合支援しつつ、ふるさと納税への出品につなげ、自治体の収益へ還元する取り組みも行っていくという。
「地域企業の技術力は本当に素晴らしいのですが、その技術力がいま、さまざまな理由で失われようとしています。そういった機運を変える新しい仕組みを作り、技術力を活かした新商品が日の目を見て、ひいては地域の雇用が増加し、最終的には地域の活性化につながる。そういった地域社会の一助となるようなサービスを作っていけるよう、頑張りたいと思います」(NTT DX パートナー 朴氏)
NTT DX パートナーとマクアケ、地域企業と自治体、そして一般生活者まで巻き込んだ商品開発サービス。そこからどんなストーリーが生まれ、どんな新商品が誕生するのか。今後の展開から目が離せない。