勝敗が決したとき、アスリートはその表情にさまざまな思いを凝縮させる。9月1日に行われたバドミントン女子ダブルス(WH1-WH2/車いす)決勝。里見紗李奈/山崎悠麻ペアは、東京2020パラリンピック決勝の再現となった劉禹彤/尹夢璐ペアとの戦いに終止符が打たれると、一瞬だけ悔しさをにじませながらも、すぐに清々しさを漂わせながら目と目を合わせた。

満足はしていないが納得できる試合

スコアは0-2(17-21、19-21)。2021年の東京パラリンピックに続く連覇は果たせなかったが、試合内容にはここまで重ねてきた努力の成果がはっきりと出ていた。

「この3年間、単複(シングルスとダブルス)で金メダルを目指して練習し続けてきたので、やっぱり悔しい。めちゃくちゃ悔しい」

里見は率直な思いを口にしながらも、続いて出てきた言葉には、どこか充実感もあった。

「東京大会以降、すごく差がついてしまったと思う相手だったが、互角に戦えたと思っている。満足はしていないけど、納得はできる試合だった。自分の中でもよく頑張ったと思える試合だった」

山崎も涙ながらに頷いていた。

「本当に悔しい。ただ、今までは点数が離れていたが、今日は離されずについていき、リードする場面もあった。(里見)サリちゃんが頑張ってくれているなかで、自分のミスが目立ってしまったのは悔しいけど…」

悔しさが残る銀メダルとなった

里見・山崎ペアは、パラリンピックでバドミントン競技が初採用となった東京大会でこのクラスの初代女王に輝いたが、その後はこの中国ペアに対して分が悪かった。とりわけ、東京大会以降に攻撃力を伸ばしてきたWH2の尹夢璐への対応には苦しめられた。大会前は「金メダルまでは獲れないかもしれない」という不安が、それぞれの心を揺らしていた。

気持ちを確かめ合った合宿初日

パリ2024パラリンピックに向けて、フランス・ナントでの合宿が始まった初日。2人は目標として定めるものが何であるかを話し合い、互いに本音をぶつけ合った。

「メンタルが折れていたこともあった」と言う山崎は、2人で気持ちを確認し合った時間をこのように振り返る。

「口では『獲りたい』と言ってきたけど、本当に金メダルを獲りたいのか、意思統一ができてなかった。合宿の初日にサリちゃんが『話そう』と言ってくれて、2人で『頑張ろう』という気持ちになった。それがあったからここの場に立つことができたと思う」

中国ペアと戦う“ユマサリ”ペア

「中国ペアに対して恐怖心があった」という里見にとっても、この話し合いは重要な意味を持っていた。

「気持ちがブレていただけだったとは思う。でも、話せたことで気持ちが固まった。話し合いを持って絶対によかった」

それ以降は戦略を練るために意見をすりあわせる際の“密度”が上がったという。

最後の最後まで「ユマサリ」らしく

こうして迎えた決勝。第1ゲームは立ち上がりに4連続失点したものの、そこから落ち着きを取り戻して一時はリードも奪った。このゲームは17ー21で落としたが、持ち前の粘り強いラリーから里見が敵陣にコントロールショットを決めるなど見せ場も作った。

激しいつばぜり合いとなった第2ゲームは終盤まで互角に渡り合い19-21。最後はコートの深い位置に打たれた球を必死に下がりながら食らいつこうとした山崎が里見とぶつかりながら返球。甘くなった球を前に落とされたところで激戦は終了した。

試合後、山崎はパリ大会が最後のパラリンピックとなると明かした。

「サリちゃんと組んで7、8年。その前はパラリンピックの決勝戦で金メダルを獲るという気持ちも作れなかったけど、サリちゃんと出会って一緒に頑張ってきて東京で金メダルを獲った。金メダルを目指すという気持ちができた」

汗と涙をタオルで拭きながら、パートナーへの深い感謝を伝えた。里見も感情がこみ上げた。

ペアを組んで7、8年。2人で戦う最後の大会となった

「最後のラリーで私が前に振られて後ろを取れなかったとき、どうにかして繋げようとして悠麻さんが後ろに入って、車いすが当たった。悠麻さんの気持ちがそれで伝わった。勝ちたいよね、って思った。前に落とされちゃったんですけど、『ユマサリ』らしいなって思って、その気持ちがすごい嬉しかった」

東京大会で歴史を切り拓いた2人は、パリ大会で歴戦譜に新たな1ページを加えた。妥協することなく互いの心をぶつけ合い、力を合わせて頂点への道を探り合った。

「ユマサリ」の挑戦に、スタンドを埋めるパリの観衆から温かい拍手が降り注いだ。

「ユマサリ」らしい戦いを見せた

edited by TEAM A
text by Yumiko Yanai
photo by Hiroyuki Nakamura