加工所を開設する前に考えること

農産加工品を製造する前には、どんな商品を誰に向けていくらくらいの価格で販売するのかなど事業計画を立てます。今回は加工所開設に絞っての内容ですが、商品作りのイメージをしっかり持ってから加工所開設について検討をしてください。ここでは加工所を開設する際に事前に決めておくことについてご紹介します。

筆者が初めて設置した加工場

どこに加工所を開設するのか

加工所をどこで始めるのかを最初に検討します。新築して加工所を始める方もいますが
最初の一歩としてはリスクが大きすぎます。まずは既存の建物を使い小さく始めることをおすすめします。製造する商品にもよりますが、一般家庭の台所ほどの広さでも十分に加工品製造は可能です。自身で空き物件や空きスペースを持っている場合はそれを活用できないか検討します。もしそういった物件がなければ賃貸物件も視野に入れます。筆者は空き家を活用し、加工場を運営しています。条件を満たせば許可が取れるのでまずは小さく始めてみたい方にはおすすめです。

どんな機械を導入するのか

加工所の場所が決まれば次は導入する機会や備品について検討します。製造する際に使う機械がある場合はどのくらいの大きさのものなのか、電気を使う場合は必要な電圧を確保できるかなども確認しておく必要があります。また大型の冷蔵庫などを設置する場合はきちんと配置できるかも想定しておきます。

予算を立てる

加工所の改修費用や機械などの備品購入費など、全体でいくらくらいまでなら出せるかも算出しておきます。改修費用を抑えたい場合はDIYを取り入れます。また調理器具も同じ用途のものでも値段はさまざまです。始めは手軽な価格帯のものから使い始め、軌道にのればより本格的なものに変えていくなど臨機応変に対応していきます。

必要な営業許可の種類を確認する

加工所を始めるためには、製造する商品にあった営業許可を取得する必要があります。
ここでは、農産加工品を製造する際に必要となる場合の多い営業許可の種類について紹介します。令和3年6月より新たな営業許可制度がスタートし、新たに加わった営業許可や、統合により対象食品が拡大された業種などもあるので、既に何らかの営業許可を取得されている方も再度確認が必要です。

菓子製造業

従来の菓子製造業とあん類製造業が統合されました。菓子製造業の許可を受けた施設で調理パンを製造する場合、惣菜製造業又は飲食店営業の許可は必要ありません。

アイスクリーム類製造業

アイスクリムーム、アイスキャンディー、アイスシャーベットなどを製造する営業です。

清涼飲料水製造業

生乳を使用しない清涼飲料水の製造をする営業です。

みそ又はしょうゆ製造業

みそ若しくはしょうゆを製造する営業又はこれらと併せてこれらを主原料とする食品を製造する営業です。

惣菜製造業

煮物、焼物、揚物、蒸し物、酢の物若しくはあえ物又はこれらの食品と米飯その他の通常主食と認められる食品を組み合わせた食品を製造する営業です。

複合型惣菜製造業

惣菜製造業と併せて食肉処理業又は菓子製造業、水産製品製造業又は麺類製造業に係る食品を製造する営業です。HACCPに基づく衛生管理に取り組むことで、通常の惣菜製造業よりも高度な衛生管理を行うことを条件として、食肉処理業、菓子製造業、水産製品製造業(魚肉練り製品を製造する営業を除く。)及び麺類製造業の営業許可の取得を免除するものです。

漬物製造業

漬物を製造する営業又は漬物と併せて漬物を主原料とする食品を製造する営業を指します。

密封包装食品製造業

密封包装食品(レトルトパウチ食品、缶詰、瓶詰その他の容器包装に密封された食品をいう。)であって、その保存に冷凍又は冷蔵を要しないものを製造する営業を指します。

参考:

食品衛生責任者について

食品衛生責任者は、営業施設において食中毒や食品衛生法違反を起こさないように食品衛生上の管理運営を行う者のことを指します。飲食店や食品加工を行う製造業を営業する施設は、営業施設ごとに食品衛生責任者を定めなければなりません。下記の項目のいずれかに該当する人は、食品衛生責任者になることができます。

食品衛生法に基づく資格(食品衛生監視員、食品衛生管理者)を取得する為の要件を満たす人

衛生関係法規に基づく資格(栄養士、調理師、製菓衛生士、と畜場法に規定する衛生管理責任者又は作業衛生責任者、食鳥処理衛生管理者、船舶料理士)も持つ人

食品衛生責任者養成講習会を修了した人、あるいはそれと同等以上の講習会を受講した人

飲食業の経験が無い方などは、食品衛生責任者養成講習会を受講するのが良いでしょう。
筆者自身も受講し、食品衛生責任者となりました。講習会の実施時期等は最寄りの保健所に問い合わせてください。前述の営業許可と食品衛生責任者配置が、営業の条件となります。

営業許可を取得するための設備基準

営業許可を受けるためには、業種ごとに定められた設備基準を満たしていなければなりません。施設工事に着手する前に、設計図面を持参して保健所で必ず相談することをおすすめします。営業施設の設備基準については以下のとおりです。

洗浄設備として食材専用の洗浄シンク、食器・器具等の洗浄用シンク及び消毒用シンク(2槽以上)、従業員専用の手洗い設備

コンロ等の上部には、ばい煙、蒸気等が排除できるように換気扇に直結した金属板性のフード

食食品や食器、器具などを衛生的に保管できるような戸棚等

冷蔵、冷凍設備は食品を保管するために十分な大きさを有したもので、温度計を設置

また、製造スペースは他の部屋等とドアなどで完全に仕切る必要があります。
これらの条件を満たせば許可を取得することができるので、空いているスペースや空き家を安く借りるなどして、必要最低限の投資で小さくスタートすることもできます。
そして、許可取得後も加工場の衛生管理に努めます。

筆者が製造する加工品

食品表示法

食品関連事業者は、「食品表示法」の法律を守り正しい表示をする義務があります。加工食品の表示は、容器・包装の見やすい箇所に原則8ポイント以上の大きさの文字で表示をすることが推奨されています。食品表示関連法規は多数あり、短い間隔で改正があるため、常にチェックすると共に、自治体や保健所が開催する研修会も積極的に受講しましょう。法令などにより食品の特性に応じて個別表示基準があるので、関係機関に十分に確認が必要です。

かつおコーンの表示シール

名称

 
一般的な名称を表示 自身で付けた商品名とは異なります

原材料名

添加物以外の原材料は、全ての原材料を重量の多い順に記載します。また、複合原材料(2種類以上からなる原材料)は()書きでその内容を記載します。

アレルギー表示は量に関係なく表示します。

1番多い原材料には産地の表示が必要です。生鮮品の場合は産地、加工食品の場合は製造地を記載します。

添加物

添加物に占める重量の割合の高い順に記載します。

内容量

内容重量か、内容体積か、内容量を記載します。

消費期限又は賞味期限

品質が急速に劣化する食品には「消費期限」、それ以外には「賞味期限」を記載します。
具体的には、消費期限は概ね5日以内で食べることができなくなる食品です。主に弁当、惣菜、生菓子類などが該当します。賞味期限は劣化が比較的に穏やかで、主にスナック菓子や缶詰などが該当します。

保存方法

開封前の保存方法を表示します。

製造者、販売者

表示内容に責任を持つものの氏名、又は名称及び住所を表示します。製造者と販売者が同一の場合は販売者の記載は省略できます。

栄養成分表示

熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量の成分を表示します。

PL保険(製造物賠償責任保険)について

PL保険の正式名称は「製造物賠償責任保険」です。この保険は製造・販売した商品の欠陥によって誰かの身体や財産、生命に侵害を与えてしまった場合に、保険加入者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害賠償金や訴訟費用などを補償するものです。掛け金は売上額等によって変わるので保険代理店などに確認をしましょう。

筆者が製造している様子

農家が自ら食品加工するメリットとデメリット

筆者自身も農家で、自ら農作物を加工し販売しています。農家が自ら食品加工するメリットとしては、農産物に付加価値を付けて販売することができるので青果で販売するより利益が大きくなります。また、加工品は青果に比べ賞味期限が長いので販売期間を長く設定することができます。天候等に左右されやすく収入にばらつきが出やすい農業ですが、加工品を販売することで年間通して安定した収入を確保することができます。また、加工品は個性を出しやすく、自身の農作物のPRにも大変役に立ちます。一方デメリットとしては、販路を確保できないと在庫だけが増えてしまう点です。製造した商品が大手メーカーや他の生産者も販売しているもので類似品が多い場合は消費者に手に取ってもらうのも一苦労です。加工品を製造する際は必ずどんな客層にアプローチするかを考え、ある程度の販売先を想定しておくことが大切です。まずは青果の卸しで既に取引のある店舗などに加工品の取り扱いをお願いしてみるところからスタートしましょう。

まずは小さく始めて、徐々に規模拡大を

ここまで、加工場の整備や商品の表示、保険など加工品製造に必要となる情報をお届けしてきました。まずは小さく始めて、反響が出てきたら加工場の規模を拡大するなど着実にステップを踏んでいくことが賢明です。本記事が農家の方の加工品製造の一歩につながれば幸いです。