パリ2024 パラリンピックでブレイク必至のスター候補を紹介するシリーズ“TOP PROSPECT(有望株)”もついに最終回。第8回の今回は、“車いす陸上の超新星”小野寺萌恵の素顔に迫ります。

小野寺 萌恵(おのでら・もえ)|陸上競技
4歳のとき、急性脳炎の後遺症で車いす生活に。中学2年生で競技を始める。2021年のアジアユースで国際大会デビューし、2023年3月に世界選手権初出場。2024年5月の世界パラ陸上競技選手権(神戸)では100m(T34)で表彰台に上がった。岩手県出身。

――風を切って走る車いす陸上に「ハマっている」という小野寺選手。普段は、どこで練習しているんですか?

小野寺萌恵(以下、小野寺):地元の岩手で練習しています。花巻の陸上競技場で走ったり、自宅のリビングでローラーを使って車いすレーサーを漕いだりすることにもハマっています。


――練習仲間はいるんですか?

小野寺:地元には選手がいないので、基本練習は母と2人なんです。だから国内外の大会に出場し、競い合うことは貴重な経験です。ヨーロッパの選手がパリの本番会場で練習していると聞いて、私も本番会場で練習してみたいなと思いました。

リハビリで水泳に取り組んでいましたが、「陸上競技のほうが合っていると思った」と言います――T34クラス(脳性まひ)の100m、400m、800m、1500mの日本記録を持っている小野寺選手は国内トップ選手。パリではメインの100mのほか、800mにも出場します。

小野寺:チャンスがあればいろいろ出てみたいなと思います。普段一緒に練習する人がいない分、得るものが多いかなって。

岩手県の補助で購入した車いすレーサーを使用。整備も県内の車いす販売店で行い、多くの人の思いを乗せて走っています――昨年から国際大会に出場するようになりました。海外遠征は慣れましたか?

小野寺:そうですね。飛行機でもどこでも寝れるので、時差ぼけの心配はあまりないです。赤ちゃんの頃からよく寝る子だったらしいんです。2つ上の姉と比べても、どんなにうるさくても寝ていたとかで。

今は自分のそんなところが海外遠征で役に立っていいのですが、普段は、眠くなりすぎないように、練習後にお昼寝をしたりしています。

趣味は音楽を聴くこと――趣味は?

小野寺:TikTokを見たり、音楽を聴いたりするのが好き。音楽が好きな理由は、なにか考え込んでしまいそうなときも、自然に気持ちが切り変えられるから。

音楽の話をするとき、20歳らしさがのぞきました――よく聴く曲は?

小野寺:キンプリ(King & Prince)が好きなんです。それだけ聴いていてもいいくらいなんですが、自宅でスピーカーで聴いているので、なんとなくいろいろな曲を聴くようにしています。back numberの『水平線』とかも聴きますね。

「キンプリのファンクラブに入りたいけれど……」いまはガマン。陸上競技に注力するようにしています――自宅で練習することも多いとのことですが、音楽をかけながらレーサーを漕いでいる……?

小野寺:はい、音楽がシャッフル再生されるように設定しているので、最初はその曲に合わせて走ろうと思ってやってみるのですが、やっぱりテンポが合わないからやめよう……となることもあります。テンポが遅い曲はよくないですね(笑)

4歳のとき、長く入院していた影響なのか「サバの味噌煮」「ほうれん草のお浸し」というような和食を好んで食べるそうです――好きなキンプリの場合、小野寺選手がレーサーを漕ぐ際のリズムに合う曲は?

小野寺:『TraceTrace』ですね。大会前にこれに合わせて練習すると、いいタイムが出るときがあるので。

――大会前のゲン担ぎがあれば教えてください。

小野寺:自分で「たらこクリームパスタ」を作って食べることです。

――料理は好きなんですか?

小野寺:いいえ、それ以外は作れません。バジルソースも作ってみようと思ったことはあるけどうまくできなくて。料理に興味はあります。

ロンドンで行われた世界パラ陸上の映像を見てパラ陸上に興味を持ったという小野寺選手。ついに大舞台にデビューします――――好きな食べ物は?

小野寺:メロンです。パラリンピック日本代表に決まったとき、お祝いで贈ってくれた人がいて。おいしかったですね。

「負けたくない」が原動力――――ところで、ぜひ聞きたいことがあります。実は、陸上競技場で小野寺選手の笑顔をあまり見たことがありません。涙をこらえている姿も印象的なんですが……。

小野寺:(国際大会で)自分が1位になれないことはわかっています。私の100mの記録は18秒46だけど、世界のトップ選手は16秒31。差は一気には縮まりません。でも、やっぱり負けたくないって思うんです。(初めて世界選手権で表彰台に上がった)神戸でも、3位で終わった悔しい思いが出てきちゃいました。

――――初めてのパラリンピックになるパリ大会の目標を教えてください。

小野寺:自分と同じくらいのタイムの選手には負けたくない。パリは自分に合った漕ぎやすい走路だったらいいなと思います。できるだけいい順位を狙いたいです。

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今回の取材を通じてストイックなイメージだった小野寺選手の無邪気な一面を見ることができました。パリはもちろん、それ以降の大会も注目したい選手です。

text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda