神戸~高松間を航海するジャンボフェリーに乗りながら、海・船について学べる「親子交流海洋教室」が8月25日に開催された。参加したのは、兵庫県内に住む親子29組58名。普段は入れない船内を見学できるバックヤードツアー、船や港について学べる特別授業、船乗りには欠かせないロープワーク教室などが盛り込まれ、大盛況となった。
歴史のある神戸港
夏休み最後の日曜日となったこの日。国土交通省 神戸運輸監理部、神戸市港湾局、神戸海事広報協会の主催による「親子交流海洋教室」が開催された。神戸市港湾局の関係者によれば、募集期間(7月11日~7月29日)には県内の小学3年生~中学3年生とその保護者 約470名が応募。競争倍率は8倍弱だったという。
その冒頭、まずは上甲板で神戸市 港湾局の関口直樹氏が「神戸港」についてレクチャーを行う。明治維新の頃に”近代港”として外国に開かれてから約150年の歴史を持つ神戸港。しかし1300~1500年もの昔から、すでに港としての使われ方をしてきたと説明する。「六甲山系が北風を遮ります。また和田岬が潮流を防ぎます。このため波が立ちにくい、天然の良港だったんですね」。
近年は埋め立て工事も進んだ。大きな貨物船はいま、南東に浮かぶポートアイランドを利用している。そこで西側は再開発が進み、神戸ポートタワー、大規模ホテルなど、にぎやかな神戸ハーバーランドを形成するようになった。
明石海峡大橋をくぐる
このあと、船内に戻ってひと休憩。フェリーの「のびのび席ANNEX」が貸し切りということで、畳の上で寛ぐ親子の姿があった。ひと心地ついたところで、今度は神戸運輸監理部の岡村知則氏が「明石海峡大橋」についてレクチャーを行う。神戸市と淡路島を結ぶ明石海峡大橋が完成したのは1998年のこと。その桁下高は65mあるが「あまり背の高い豪華客船は通り抜けられませんね」と岡村氏。もともと船長だった経験から「いま潮の流れはゆっくりですが、漁船が多い時間帯なので、船長は注意が必要ですよ」と臨場感たっぷりに話す。
明石海峡大橋をくぐったら日本標準時子午線を通過することも伝え、「そのとき東経135度に建つ明石市立天文科学館が見えるので注目してみてくださいね」と呼びかける。
そこで上甲板に戻ると、夏の直射日光に入道雲。けれど、気持ちの良い海風も吹いている。進行方向の左側にはNYKと書かれた大きな船が出現した。岡村氏は「あれは自動車を運ぶ運搬船です。航路は狭いので、同じ方向に進む船があった場合は、無線などで『先に行きます』あるいは『先に行ってください』というやり取りをします」と解説する。
遊漁船に手を振ったあと「私もこの海峡で釣りをした経験がありますが、カンパチ、鯛、サバがたくさん釣れました。サバが美味しかったですよ」と笑顔。そうこうしているうちに、いよいよ明石海峡大橋が近づいた。
ほどなくして、日本標準時子午線を通過した。
ブリッジ見学に興奮!!
いくつかの班に分かれて、バックヤードツアーも行われた。まず訪れたのは食堂。ここでは朝、昼、晩の食事を済ませるという。若い乗組員は「自分も含めて、この船に乗っている人間はほぼ全員が香川県の出身です。みんな、うどんが大好き。だから、いつでもうどんを食べられるようにしています」と話して親子の笑いをとる。
「あおい」の乗組員は15名ほど。船長、一等航海士、二等航海士、三等航海士、機関長、一等機関士、二等機関士、三等機関士などを中心にしたチームで、仕事内容もバラエティに富んでいるという。「そんな仲間たちとコミュニケーションを図る、大事な場所にも食堂はなっています。ここでお菓子を食べたり、ときにはゲームをやったりするんですよ」。
そして操船中のブリッジ(操舵室)も見学した。たくさんの計器を前に、興奮する子どもたち。双眼鏡を手にとって前を走る運搬船の様子を確認したり、電子海図に見入ったりと、初めて目にするあれこれに興味が尽きない。先の神戸運輸監理部の岡村氏は、立派な神棚が設置されていることに触れて「海上安全の神様として知られる、こんぴらさんです。今日も無事に航行できますようにと、毎日、手を合わせています」と紹介する。
畳の席に戻るとクイズ大会が行われた。全問正解すると、「あおい」をモチーフにしたボディ用スポンジがもらえるという。そこで、意気込んで参加する子どもたちだったが――。なかなかの難問が続いた。「船の18ノットは、ペンギン、キリン、ラクダ、どの動物と同じくらいの速さでしょう」「ジャンボフェリーは、飛行機、電車、ヘリコプター、どれを運んだことがあるでしょう」「船が止まってしまう原因でイチバン多いものは、雷、大雪、大雨、霧、どれでしょう」といった問題に、親子で頭を悩ませる。
それでも5名もの子どもが見事に全問正解。賞品を手にした。
穏やかな天候の下、まったく揺れもせず、ただひたすら静かに瀬戸内海を航行していくジャンボフェリー。ここで岡村氏は、再びマイクを手に取った。「みなさん、将来の夢は決まっていますか?夏休みの体験ってとても大事で、将来の人生にも影響をおよぼすことがあるんです」という語り口。自身は中学生の頃、林間学校で湖にカッターボートを浮かべて友だちと漕いだときの思い出が原体験になっている、と振り返る。
そのうえで「神戸港には、私たちの暮らしを支える様々なものが運ばれています。神戸の町には、美味しいパン屋さんもたくさんありますが、では神戸港に入る小麦運搬船のなかでイチバン大きなものになると、1回の入港でコッペパンいくつ分の小麦を運んでいるでしょう。正解は、5億個くらい。船には、そんなにたくさんの荷物を運ぶ能力があります」。このあと、海で働く様々な船、そして船内で働く人たちについても言及。「みなさんも、この夏の体験を大事に持ち帰ってください」と呼びかけた。
やがて船は、小豆島・坂手港に入港。わずか10分ほどの間で人や車両が乗り降りすると、フェリーは再び出港する。
難しいぞ!! ロープワーク教室
そして高松港に向かう残りの時間を使って、ロープワーク教室が開催された。指導にあたったのは神戸海洋少年団。まずは手旗信号のデモンストレーションを披露した。手旗信号は15パターンほどの組み合わせでカタカナを作り、遠くの人に言葉を知らせる手段だという。
そしてロープワーク教室がスタート。舫(もやい)結び、止め結び、錨結び(アンカーベンド)といった特徴的な結び方が紹介されると、親子で夢中になった。
このあとフェリーは高松東港に着岸し、無事に「親子交流海洋教室」は終了。参加者はJR高松駅の周辺でフリータイムを過ごしたあと、貸切バスにて神戸・三ノ宮に帰着した。最後に、あらためて神戸運輸監理部の岡村知則氏に話を聞いた。
過去には航海練習船の「帆船みらいへ」で開催してきたという、親子交流海洋教室。昨年からジャンボフェリー「あおい」で行っている。子どもたちからは「初めてフェリーに乗れて嬉しかった」「ブリッジに入らせてもらって貴重な体験だった」といった声が届いていると明かす。「操船中の舵を握らせてもらった子もいたようです。今後の人生に、何か影響を与えてくれるものになっていたら嬉しいですね。それは海への職業的志向だけでなく、海、船に対する深い理解も含めてですが――。そして実は、今日『ボクは大きくなったら海の学校に通いたいんです』っていう子も現れてくれました。あれは嬉しかったですね」と岡村氏。
イベント後には関係者で取り組みを振り返り、来年度以降の内容に反映させていきたい、と意欲を示す。「こういった活動を地道に続けていくことで、海事人材の確保につなげていきたいという思いがあります。来年も開催しますので、ぜひ、たくさんの人に応募してもらえたらと思います」と話していた。