日照時間が長い夏のパリ。日が傾き始めた8月28日20時(日本時間29日3時)、市の中心部に位置するコンコルド広場でパリ2024パラリンピックの開会式が行われ、開幕が高らかに宣言された。会場は観客で埋め尽くされ、2大会ぶりに有観客で開催される大会の盛り上がりを大いに予感させるスタートとなった。
ショーでパラリンピックの意義を問いかける大会史上初、競技場外での開催となった開会式は、2016年リオ大会にフランス代表として出場した水泳のテオ・クランが大会マスコットのフリージュのぬいぐるみで覆ったタクシーでパリを走り、フランスのパラリンピアンたちを乗せてそれぞれの思いを聞いていく映像からスタート。コンコルド広場にいるフランスのエマニュエル・マクロン大統領とIPCのアンドリュー・パーソンズ会長が握手すると、会場でショーが始まった。
ショーは、相反する2つのグループによるパフォーマンスで構成されていた。
パフォーマンスの舞台はコンコルド広場の特設ステージphoto by Hiroyuki Nakamura
ひとつは黒のスーツとサングラスのグループ「ストリクト・ソサエティ」で、画一的な動きで硬直的な現代社会を表現。もう一つは16人の車いすなど障がいのあるパフォーマーのグループで、カラフルな衣装とのびやかなダンスで、開放的な精神を表現していたようだ。
2つのグループはなかなか交わらず、不協和音が鳴り響く。そんな中、タクシーが到着。カウントダウンと共にテオ・クランがステージに現れ「ウエルカム トゥ パリ!」と叫ぶと同時にトリコロールカラーの煙が打ち上げられ、会場のテンションも一気に上がる。
会場にやってきた無数のフリージュをつけたタクシーphoto by Takamitsu Mifune
自認男性である歌手クリスティーヌ・アンド・ザ・クイーンが登場し、ステージ上をかけめぐりながら障がいのあるパフォーマーたちとパフォーマンス。すると、「ストリクト・ソサエティ」は混乱するが、やがて何かに気づいたようにサングラスを外す。まさにそのとき、フランス航空宇宙軍が凱旋門あたりからコンコルド広場に向けて飛行。トリコロールカラーの煙で夕暮れの空を彩ると、3時21分ごろ、いよいよ選手入場が始まった。
フランス航空宇宙軍の機体が夕暮れの空を舞うphoto by Takamitsu Mifune有観客だからこその盛り上がりがワクワク感を増幅
選手は、凱旋門からコンコルド広場を結ぶシャンゼリゼ通りを行進し、フランス語のアルファベット順に入場する。
選手入場では、各選手団の衣装も楽しみの一つ。特に今大会は女性選手の割合が多いこともあり、女性選手の華やかな装いが目を引いた。例えば、インドネシアやカザフスタンは、キラキラと光るヘッドアクセサリーを、ウクライナは花冠を着けて登場。リビアの女性旗手は、光沢のある白の衣装の上から、金色のアクセサリーで全身を飾っていた。
伝統的な衣装も観客を楽しませてくれた。メキシコはつばの大きな帽子・ソンブレロや、プロレスのマスクを着けて行進。植物を利用した民族衣装風ワンピースのフィジーや、伝統的な化粧を顔に施し、藁(わら)の腰飾りを揺らして踊りながら登場したパプアニューギニア、鍛え上げられた裸の上半身に伝統的なアクセサリーをまとったソロモン諸島は、南国の文化を色濃く感じさせてくれるものだった。
客席を埋め尽くした開会式。観客が作り出す熱気に興奮が倍増photo by Hiroyuki Nakamura
現代的なデザインや試みも興味深かった。例えば、「進行中の伝統」をテーマに据えたというフィリピンは、環境に配慮し、バナナの葉から作られた生地を使用したという。ニュージーランドは、ラグビーのオールブラックスを彷彿とさせる黒をベースとしたジャケットとパンツに白のTシャツがひときわスタイリッシュ。ウガンダのベストは、半分が黒、半分が赤と金の変則的な縞模様という大胆なデザインで、唯一無二。衣装ではないが、カナダにはキックボードに乗って参加した選手もいて、開会式を心から楽しむ様子が伝わってきた。
日本代表選手団が登場したのは、76番目。日が沈みかけたころだった。
旗手を務めた水泳の西田杏と、陸上競技の石山大輝を先頭に、田口亜希団長をはじめとした選手団がにぎやかに行進。西田は、「オリンピックでも使われていたコンコルド広場で開幕し、バトンが渡されたようでとてもワクワクする開会式でした」。石山は、「旗手に選んでいただいて、あらためて光栄です。深夜の時間にもかかわらず日本で多くの方に応援をいただきました。緊張よりもワクワク感が強かったです」と、それぞれコメントしている。
堂々と旗手を務めあげた石山大輝(左)と西田杏photo by Takamitsu Mifune
選手入場の間、会場中が音楽に合わせて拍手をし、体を揺らし、歓声を上げていたのも印象的だった。最後に開催国フランスが入場すると、『オー・シャンゼリゼ』に曲が変わり、観客と選手が一体となって大合唱。会場全体が揺れているかのような盛り上がり。無観客で行わざるを得なかった東京大会を振り返ると、有観客の中で大会が開催できることの意義をあらためて感じずにはいられなかった。
国旗を振って入場する車いすテニスの小田凱人photo by Takamitsu Mifune熱闘を予感させる「インクルージョン革命」
選手入場後は、パリ2024大会組織委員会のトニー・エスタンゲ会長と、IPCのアンドリュー・パーソンズ会長がそれぞれあいさつ。
「パラリンピアンの皆さんが革命家。パラリンピックには変革をもたらす力がある。私たちの革命が今夜始まる」(トニー・エスタンゲ)
「世界最大の変革をもたらすパリ大会へようこそ。コンコルド広場はかつて革命の中心地だったように、今度は友人を受け入れるインクルージョン革命の場になる」(アンドリュー・パーソンズ)
強く握手を交わすトニー・エスタンゲ氏(左)とアンドリュー・パーソンズ氏photo by Takamitsu Mifune
その後、マクロン大統領が開会を宣言すると、ショーが再開。なかなか交わらずにいた二つのグループが、そろいの白いスポーティな衣装を着て登場。全員がクラッチ(杖)を持つなど、すべてのアスリートが区別なく参加できる新しいスポーツを協力してつくり出していく。最後は全員が達成感を共有して喜び合い、一つになったところで、パラリンピック旗が掲げられた。
クライマックスの聖火リレーでは、マルクス・レームらパラリンピアンがコンコルド広場からチュイルリー公園へ聖火を運び、最後は気球を模した聖火台に聖火を灯した。
今大会でも活躍が期待されるドイツ代表のマルクス・レームphoto by Takamitsu Mifune
コンコルド広場でパラリンピックの開会式を行う意義、パラリンピックがインクルーシブな社会の実現に果たす役割、そして、スポーツの大会としてのパラリンピックと真のアスリートとしてのパラリンピアンの魅力をわかりやすく発信できた開会式になっていたのではないだろうか。パラリンピアンたちが人生をかけて挑む11日間の熱闘を、余すところなく見届けてほしい。
期待を膨らませてくれた開会式となったphoto by Takamitsu Mifune
text by TEAM A
key visual by Hiroyuki Nakamura