今回で第46回を迎える『鳥人間コンテスト2024』が、9月4日(水)夜7時から放送される。

MCのナインティナイン・矢部浩之、実況の羽鳥慎一ら出演者も大興奮だった今大会。強豪チーム・東北大学WindnautsのOBであり機体の設計を担当、そして4年連続で番組解説を行う桂 朋生さんに、鳥人間コンテストをさらに深く視聴できる裏ネタや、「あの名言」の秘話、今年の機体のトレンドなどを伺った。

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4年連続で番組解説を行う東北大学WindnautsのOB・桂 朋生さん

鳥人間コンテストでの優勝を目指し名門・東北大学Windnautsへ

――桂さんを知らない方に向けて、まずは鳥人間に出場しようと思ったきっかけを教えてください。

桂:小学生の頃から旅客機のパイロットに憧れていたので鳥人間は見ていまして、いつか鳥人間で優勝したいと思っていました。高校生の時にちょっと勉強をサボってしまい(笑)、浪人してしまったんです。どうせ浪人するなら東北大学を目指したいなと思っていた時に、(東北大学が)36kmのフライトで優勝したっていうのもあって、もう絶対東北大学に入ろうと決めました。

――無事に東北大学に進学し、すぐに鳥人間部に入ったのでしょうか?

桂:迷うことなく入部しました。一年生のうちに誰が設計するか、誰がパイロットをやるかっていうのは決めてしまうので、これも迷うことなく設計に手を挙げました。今でこそロードバイクを趣味にしていますが、高校は軽音学部ということもあり、当時は全く体力に自信もなかったので(笑)。

――2011年、桂さんが大学3年の時には、中村パイロットの伝説の名言「桂ァ!今何キロ!?」が飛び出しました。周囲で様々な反応があったと思いますが、当時はどう思っていたのでしょうか?

桂:中村は練習中に隣の部室からクレームが入るほどうるさいやつというのはわかっていたので、あまり変わったことをしたという認識はなかったんです。往復したかったのに対岸で落ちて悔しかったという記憶だけがあり、放送を見ても僕たちは「いつも通りだな」という風にしか思ってなくて、周りの反響にじわじわ驚いていきました。正直、優勝はしたんですけどフライト自体は悔しかったのもあって、知らない人にも呼び捨てされていじられたりもあって、その後2、3年はあまりいい気はしなかったですね(笑)。当時は結構面食らってしまったんですけど、今となってはそれで名前を覚えてもらいやすいとか、あれをかっこいいと思ってくれて鳥人間を始めた学生さんもいるので、結果的には良かったかなと。

鳥人間コンテストのレベルは「上がってきている」

――鳥人間の解説自体は2021年からされていますが、話が来たときはどう思いましたか?

桂:最初はYouTubeのネット配信を今年からやるからそれの解説をお願いできればとお話をいただきました。ネット配信はマニアしか見に来ないから、専門用語をバンバン出して、好きなこと喋ればいいやって感じで正直だいぶ気楽に受けたんです。でも鈴木さん(当時の特設スタジオの解説者)が中国から帰ってこられなくて、テレビ側だよってなったんです。心の準備をする暇が一切なく、動揺もなにもなく、「うわぁ、そっかー」ぐらいの感じでしたね(笑)。

――ありがとうございます。ここからは鳥人間をより楽しく視聴できる裏ネタを聞いていきたいのですが、桂さんから見て今年の琵琶湖のコンディションはどうだったでしょうか?

桂:典型的な夏の琵琶湖、晴れの日のコンディションでした。地面が熱されて、その熱された地面から上昇気流が発生し、それに吸い込まれるように湖側から風が出て、その風がまた湖に落ちる。そして湖の真ん中から風が吹き出してくるという状況で、予測が少し難しかったかなと。でもどちらかというと、チームが苦労していたのは風以上に暑さだったのかなと思います。

――今年は風をうまく読んでいるチームが多かったように思います。

桂:よく把握してきているなと私も思います。毎年「なんでこっちに飛んじゃうんだろう」ってチームがたくさんあり、正解だっていう方向に飛ぶことを見る方が少ないんですね。でも今年はこっちで正解だねというチームが多かったです。気温さえ朝から晩まで変わらなくて、風だけが変わるだけだったら、もっと記録が出るんじゃないかと思うほど、全体的なレベルが上がっています。

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今年も出場し学生記録の更新を目指す東北大学Windnauts

機体のトレンドは「軽量化」と「操縦性」のバランス

――毎年いろいろな機体のチームが出てきていますが、こういう機体を作るチームが多くなってきているといった、トレンドがあったりするのでしょうか。

桂:やはりここ数年好記録を出している機体の影響から、機体の軽量化と、コックピットを綺麗に流線形に作ることが一気に進んでいる印象です。今って SNSで情報がつながりやすくなったりして、よく飛んだ機体の情報が手に入りやすくなっています。なので数字的なところがやっぱり横一線になってきたので、とにかくみんな軽く作ろうと頑張っています。ただ、似たような同じ形や重量でも設計や製作の差は出るもので、一部の飛行機は例えば舵を切った時に、お尻の部分が大きくたわんでしまって抵抗だけが増えるような難しい機体になっていたり、失速しやすい機体になってしまっています。結構みんなわりと過酷なというか、無理な機体のダイエットをしているのがトレンドかなと思います。

――昨年は見ているのが怖いぐらい軽量化しているというお話もありました。

桂:そうですね。その結果、操縦性も悪いということもあり、ねじれて落ちることがすごく多かったですね。そういう意味では昨年に軽量化が一番流行したのかなと思います。今年はその反動で、「東京工業大学 Meister」がわざわざシャフトを一本増やして剛性を上げていたり、軽量化の揺り戻しで、操縦性がいい飛行機が流行になってくるのかもしれません。

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東京工業大学 Meisterはシャフトを一本増やし、剛性を上げた機体に
――今年の大会を見て、印象に残った整備シーンや操縦シーンはありましたか?

桂:印象に残ったのは「東京工業大学 Meister」で、手堅く距離を伸ばすというコンセプトがしっかり機体の隅々に反映されていました。例えば翼を大きく反らせたりシャフトを追加したり、というのは操縦性には繋がりますが数値上の軽さや効率は多少犠牲になります。彼らならもっと軽く数値上優れた機体も作れると思いますし、その方が設計者としては気持ちは楽であるにもかかわらず目標のためにこのような選択が出来ることは素晴らしいなと思いました。あとは先尾翼という主翼が後方にある機体の「横浜国立大学 横浜AEROSPACE」も印象的でした。先尾翼自体は昔からあって、初めて人力飛行機でドーバー海峡を横断した飛行機もこの先尾翼なんですよ。別に無謀なものではないんですけど、鳥人間とは結構相性が悪かったりして、実はかなり心配して見ていたんです。でもうまく機体を操って上手に飛んでいました。

――設計を担当していた桂さんだからこそ「機体のこういうところに注目してほしい」というポイントはありますか?

桂:機体がテレビに映った時に、直線は直線、曲線は曲線、光の反射にムラがない機体だったら好記録を期待してもいいかもしれません。例えば車だったら地面に付いて重さでバランスを取っていますが、飛行機っていうのは宙に浮いてしまっているんで、空気との付き合いになるんです。なので、頭からつま先まで空気が乱れるところがない飛行機っていうのが一番いいんです。機体を動かすのに必要なパワーも低いですし、安定もします。どこを見てもピーンと直線で、なめらかで、硬そうに見える機体に仕上がっているかを見てほしいですね。

機体制作と設計者のゴールは「パイロットを安全に飛ばせること」

――飛行機を飛ばしてプラットホームに残っているメンバーたちがすぐに泣く姿を見て、桂さんが「その気持ちめっちゃ分かります」とおっしゃられたことが印象的でした。

桂:機体制作をするメンバーと設計者のゴールって、大記録を出すことではなく、狙い通りパイロットを安全に飛ばせることなんです。飛び出す瞬間が一番不安で、そこを乗り越えて泣くっていうのは、彼らとしてはもう半分あそこで満足しているということなんです。パイロットが一人悔しがっていて、周りは笑ってるっていうシーンがよくありますが、パイロットだけが頑張っていたわけじゃなく、パイロットが力を出し切れる飛行機を作ったらもう満足なんです。私も何回も出ましたけど、何回やったって慣れるものではなく、毎回吐きそうになっていました(笑)。

――鳥人間を初めてみる方へ、ここを見れば魅力がわかるシーンはありますか?

桂:今までの話と矛盾してしまうかもしれませんが、あんまり難しいことを考えずに見ていただけたらなと。番組でも各チームのいろんな背景を取り上げてくださってますし、私も一生懸命専門的なことを言うんですけど、そういう難しいことは置いておいて、単純に長くてかっこいい飛行機が、人の力だけで華麗に飛んでいく姿を楽しんでもらいたいですね。そこに理屈とかは求めずに、まずそこを入り口にしていただけたら。そこでちょっとでもかっこいいと思っていただけたら、VTRでのパイロットの影の努力や、私が解説しているような難しいところ、変なことにちょっとずつ興味を持っていただけたらいいなって思っています。

――解説者として気をつけていることはありますか?

桂:気持ちが入ってしまうのを一生懸命抑えることですね。例えば東工大は私の大学時代からずっとライバルだったので、「もっと頑張れよ!」とか思っちゃいますし、母校に肩入れにならないようにとか、そういうものが出過ぎないように気を付けています。私も年齢が若くはないとはいえ、ぎりぎり今の現役の世代と繋がりを持てていまして、そこから情報を取りにいけるのは強みだと思っています。それゆえに、繋がりのあるパイロットがテイクオフに失敗して即着水になってしまった時は、もう帰りたいぐらいに落ち込んでしまいますが、そこは出さないように(笑)。

あとは専門用語を使わないこと。疲れてくるとつい忘れてしまいがちですが。

――最後に視聴者にメッセージをお願いします!

桂:これから大学に入るとか、これから物づくりをしてみたいという方に、鳥人間に興味を持ってもらえたら嬉しいです。番組で伝わる面白さが10だとしたら、実際にやってみると100ぐらいに感じるはずです。ちょっとでも面白いなと思っていただけたら、いろいろなチームがあるので門を叩いてみてほしいですね。あるいは自分でチームを立ち上げて挑戦していただけたら。

また、鳥人間に参加している人たちって。ただひたすらに、がむしゃらに飛びたい人たちなんです。だからもしかしたらちょっとふざけたような、ちょっと砕けたチームもあると思うんですけど、それはあくまでチームの個性を出すための方法であって、飛ばしたい、飛びたいというのは共通なんです。お馬鹿が大真面目にトライしているところを見ていただきたいですね。

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「滑空機部門」「人力プロペラ機部門」の2部門を合わせて32機がエントリーし、奇跡のビッグフライトまで飛び出した今年の『鳥人間コンテスト』。

機体の美しさやパイロットの頑張りはもちろん、プラットホーム上の機体製作者の涙にも注目して放送を見れば、さらに面白さが倍増するはず!

『鳥人間コンテスト2024』は9月4日(水)夜7時〜(読売テレビ・日本テレビ系 全国ネット)で放送される。