俳優の柳楽優弥が主演を務める、映画『夏目アラタの結婚』(9月6日公開)の原作者・キャスト・監督コメントが27日に届いた。
『夏目アラタの結婚』原作者・乃木坂太郎氏が思いを明かす
公務員が死刑囚に獄中プロポーズするという衝撃的な幕開けから始まる、累計発行部数260万部の大人気コミック『夏目アラタの結婚』。原作者の乃木坂太郎氏は連載開始直後からすぐに実写化のオファーがあったと明かし、これまでそのオファーを断っていた理由を「『真珠の歯』の再現に関しては躊躇している雰囲気の企画がほとんどでした」と語る。
本作のヒロイン・真珠の特徴であるガタガタの歯は映像化において、かなり高いハードルだった。乃木坂氏自身も、あえて女優のイメージを損なう可能性もあるビジュアルに「実際、漫画を連載開始する際にもヒロインがこの歯で大丈夫なのかと危惧する意見もあったので、それは一般的な意見として十分理解出来ました」と語る。一方で「あの『歯』は自分の人生を奪われ続けた真珠の存在証明の象徴なので作者としてはそこは絶対に譲れない点だったのです」という。
しかし、古林茉莉プロデューサーはオファーの際に「歯は再現します。可能な限り原作に寄り添った映像化をしたいです」と断言。 乃木坂氏は「メモ帳を手に熱心に作品のキャラクターやテーマについて質問してくる姿勢に、『夏目アラタの結婚』という作品を預けてみようかなと決心しました」とついに実写化をOKした。
そして、真珠役として黒島結菜が決定。このキャスティングに乃木坂氏は「主演の柳楽優弥さんと黒島結菜さんには、この厄介な物語に出演して頂いて感謝してます。かつて被虐待児を演じた柳楽さんが児童相談所の職員であるアラタを演じることに、個人的には感慨深い思いです。前述の理由により真珠を演じる方はいないと思っていたので、黒島さんには本当に感謝です」と語る。
肝心の真珠の歯は5カ月かけてマウスピースで作り上げられた。黒島は「撮影前に歯の合わせからスタートして、何個か試作品を作っていただきました。自分の口に合う形から歯茎の位置や歯の隙間、歯の色の入った汚さというか……どこまでボロボロにするかいろいろと試作品を作って、1番ベストなものを5カ月間かけて作りました」とこだわりを明かす。「歯で印象って全然変わるんですよね。原作の不気味さやちょっと怖い感というのが一番鍵になると思ったので、そこはしっかりやりたいなと思いました。最初は自分じゃないみたいで、ほんとに歯が違うだけでこんなに顔つきって変わるんだなと思って……でも嬉しかったです! これがあるおかげで真珠に近づけたので」と、特徴的な歯は品川真珠というつかみどころないキャラクターを演じるうえで重要なアイテムとなった。
真珠の歯という課題を乗り越えたが、さらに制作するうえでもう一つの問題があった。脚本に着手する時点でまだ原作漫画が連載中だったことだ。そこで、本作のテーマやキャラクターの背景についてじっくりとミーティングする時間が設けられた。「単行本で9巻に入ったあたりだったでしょうか、古林Pに今後の展開について詳しく教えてほしいと言われました。当然その時点でラストまでの構想はあったのですが、話してしまうと『伝えた通りの展開にしなきゃ……』と自縛に陥る可能性が高いと思いました。キャラクターは生き物なので心情次第で展開が変わることはよくあるのですが、『こっちの展開の方が良いけど、映画の方には違うこと言っちゃったから変えづらいなあ……』なんて悩むのは、何より漫画を追いかけてくれている読者には不幸なことだと思うのです。そんなわけで映画のチームには後半の展開を自由に作っていただく事にしました」と、乃木坂氏はあえて映画独自の展開になるように提案したと語る。
「ピエロメイクの色とか、意外なほど細かい点について原作者の意見を求められましたがそこは全てチームが良いと思う方向性で、とお任せしました。誰かの意見で物を作るのって自分は大嫌いだから、映画のチームにもそうあって欲しかったんです」という乃木坂氏の意思を受けて、制作陣はこの作品のテーマは“結婚とはなにか”であり、未知の人物について知ろうとすることの怖さや人間同士のやりとりを描いた大きい意味での“ボーイミーツガール”の話である、というヒントをもとに、未完の物語のゴールに向けて脚本をブラッシュアップさせた。
そうして完成した本作を見た乃木坂氏は「面会室の掛け合いを見ると2次元が3次元になる化学変化が起こっていて、なるほどなと膝を打ちました」と絶賛。さらに、そのクライマックスを迎えた後に流れる主題歌のオリヴィア・ロドリゴによる「ヴァンパイア」の歌詞を、乃木坂氏が「夏目アラタの結婚」の世界観に合わせて自ら意訳監修。一人称が真珠と同じ“ボク”となっているなど、本編を見終わった観客を最後までゾクゾクさせる仕掛けとなっている。
原作者・乃木坂氏の協力もあってついに完成した映画『夏目アラタの結婚』。乃木坂氏は「制作、監督、脚本、撮影、照明、衣装、美術、記録、音楽、主演者の方々など、全ての映画に関わった方々に感謝します。 漫画と映画のふたつの『夏目アラタの結婚』、どちらも楽しんで頂けたら幸いです」とメッセージを送っている。
(C)乃木坂太郎/小学館 (C)2024映画「夏目アラタの結婚」製作委員会