過酷な環境での使用を想定したトヨタ自動車のSUV「ランドクルーザー70」は、日本で暮らす一般人の日常使いに向いているのか? こんな疑問を解消するべく、ランクル70に試乗してきた。街乗りや高速道路を走った印象を含め、レポートしていきたい。
ランクルは3つのラインアップで展開
トヨタのSUV「ランドクルーザー」には非常に多くのバリエーションが存在する。現行モデルのラインアップは、高級で快適な本格SUVのフラッグシップ「ランドクルーザー300」、プラドの愛称で親しまれたライトユースモデルの後継「ランドクルーザー250」、最も無骨なヘビーデューティーモデル「ランドクルーザー 70」(いわゆるナナマル)の3つだ。
ナナマルは「ランドクルーザー70 バン」として1984年に登場し、翌年には乗用車テイストを強めた「ランドクルーザー70 ワゴン」が追加となった。そのワゴンはのちに「プラド」を名乗り、悪路走破性と快適性を両立させたライトユースモデルとして人気を博した。ランドクルーザー250がプラド系列の最新モデルとなる。
その一方でナナマルのバンは一時生産がストップし、長らく休眠状態だった時期がある。300と250の2モデルがあれば、国内の需要を満たせると考えていたのだろう。しかし、無骨なスタイリングのバンは人気が高く、多くのファンの要望を受け2014年に期間限定で日本市場に復活。生誕30周年記念モデルとして、バンとダブルキャビンピックアップの2つのバリエーションを販売した。
個人的な話にはなるが、2014年にこの限定モデルを購入しようと試みたが、残念ながら買えなかった。私のようにナナマルを入手できなかった多くのランクルファンにとって、今回の再々販はうれしいニュースとなったことだろう。
現行モデル(2023年発売)であるナナマルのパワートレインは、直列4気筒の2.8Lディーゼルエンジンだ。最高出力は204PS、最大トルクは500Nmを発揮する。このパワーによって、車両重量2,300kgのナナマルを軽々と走らせることができている。
ボディサイズは全長4,890mm、全幅1,870mm、全高1,920mmと大柄で、実車を前にすると数値以上に存在感がある。トランスミッションは使い勝手を考慮し、オートマチックトランスミッション(AT)のみの設定としたそうだ。
段差はふわりと乗り上げる
かなりの存在感があるとはいったが、不思議なことに、ひとたび運転席に乗り込むと大きさをあまり感じない。おそらくフロントガラスやAピラー、窓枠などが垂直基調で、視界が広いからだろう。走らせていて大きさはほぼ気にならなかった。
エンジンを始動すると、ディーゼル特有の振動と回転音が小気味よく全身に伝わってくる。アクセルを踏み込むと野太いエンジン音がうなりをあげるが、決して不快ではない。
特に驚いたのが、高速道路での合流時だ。2トンを超える車重でも軽々と加速できた。もちろん街中でも、アクセルをほんの少しだけ踏めば、もたつきなくスムーズに発進できる。このあたり、大柄なSUVにしては想像以上に軽快な動きだった。
乗り心地も悪くない。縁石に乗り上げても、高速道路での路面のつなぎ目を乗り越えても、突き上げ感はほとんどない。セダンのような乗り心地とまでは言えないが、クッション性がよく、段差をふわりと乗り超えていくような印象だ。
ハンドリングはSUVらしさがある。つまりキレ角があまく、かなり遊びがあるのだ。悪路走行時にハンドルをとられないようにするため、こうした味付けのハンドリングになっているわけだが、オンロードでの直進安定性にはやや欠ける。まっすぐ走り続けるには絶えずハンドルの微調整が必要だし、カーブや交差点では、思った以上にハンドルを切らないと曲がり切ってくれない。セダンやクーペなどとはまた違った操作感だが、そこが本格SUVの醍醐味でもある。
車体が大きく視界もいいので、長距離ドライブでも疲れにくく、運転そのものを楽しむことができた。
とはいっても、車体の大きさがデメリットになることもある。例えば都市部の路地などでは走りにくいし、車幅の狭い車庫には停めにくい。立体駐車場には入れないことすらあるだろう。
ツール感にワクワク!
内装は全体的に、プラスチックを多用したかなり素っ気ないものになっている。だが、そこも従来のナナマルのイメージを受け継いでいるポイントだ。クルマを道具として捉えるのであれば、無駄な装飾は必要ない。ツール感満載の車内に、最近ではあまりなかったワクワク感を覚えた。
基本的に、日本に住んでいる人であれば(特に都市部であれば)、本格的なSUVが「必要」になる機会はめったにないはず。クルマを走らせるうえで過酷な路面環境、例えば砂漠や山岳地帯を突っ切るような道路がほとんどないからだ。
ナナマルも日本で乗るにはオーバースペックな代物と言えるが、これを普段使いするのも決して悪くないと思う。車体の大きさを除けば、乗り心地にしても、車内の快適性にしても、アクセルを踏んだときのレスポンスにしても、ほとんどストレスがなかったからだ。試乗する前は、河川や山岳地帯などで割り切って乗るクルマであり、乗り心地も悪くて加速力も弱く、普段使いには向かないだろうと思っていた。しかしナナマルは、かなり快適に乗りこなすことができた。都市部を中心とした街乗りに使っても十分に満足できるだろう。
剛性や強度を確保するため、ナナマルは耐久性に優れたラダーフレームを採用している。内外装は無駄な装飾がなくシンプル。それでいて、燃費を改善したり、ATを採用したりするなど、使い勝手は向上させている。つまり、変える部分は積極的に変えつつ、守る部分は守って伝統をうまく継承している。熱狂的なナナマルファンだけでなく、SUVの購入を検討しているユーザーにとっても新型ナナマルは最良の選択肢となるに違いない。