第83期順位戦B級1組(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)は、4回戦計6局の一斉対局が8月22日(木)に各地の対局場で行われました。このうち名古屋将棋対局場で行われた羽生善治九段―斎藤慎太郎八段の一戦は斎藤八段が104手で勝利。貴重な後手番勝利で今期3勝目を挙げています。
おっとりとした斎藤流
ともに2勝1敗で迎えた本局は早くも昇級戦線の山場。B級1組における過去5年間の戦いでは、10名の昇級者のうち8名が9勝3敗の成績の成績を残しています(ほかに菅井竜也八段の11勝1敗と藤井聡太竜王名人の10勝2敗)。羽生九段の先手で始まった本局は両者の息が合って角換わり腰掛け銀に進展します。
先に工夫を見せたのは後手の斎藤八段でした。右玉に囲って先手からの仕掛けを封じたのは千日手をいとわぬ待機策。穴熊への移行を果たした羽生九段が4筋の歩を突っかけてきた瞬間、敵陣深くへの角打ちで馬を作ったのが後手番らしいもたれ戦術でした。相手の攻めを引っ張り込んでやり込めるのがその方針です。
受けて作った快勝譜
戦いが夜を迎えたころ、斎藤八段はさらに丁寧な受けでリードを奪います。銀の力で敵飛の働きをおさえてからじっと自玉に手を戻したのが悠然とした呼吸。手番を得た羽生九段に有効な攻めがないのを見越しており、実際ここを境に形勢の針は斎藤八段の方に振れ始めました。
攻め続けるよりない羽生九段が歩の王手の連打で迫ったとき、一見狭く見える8筋に玉を逃げたのが斎藤八段読み切りの決め手。後手玉は金さえ渡さなければ詰みのない形で、逆に後手からは銀を使った穴熊崩しの一手が待っています。終局時刻は23時1分、最後は自玉の受けなしを認めた羽生九段が投了。
これで勝った斎藤八段は3勝1敗と白星先行、敗れた羽生九段は2勝2敗の五分の成績に。他局の結果を見ると唯一全勝だった近藤誠也七段が敗れており、昇級枠争いは混戦模様になっています。
水留啓(将棋情報局)