マツダは新型車「CX-80」を2024年秋に発売する。日本国内向け商品としては同社で最もサイズが大きく、最も価格が高いクルマとなる3列シートのSUVは、いったいどんな仕上がりなのか。どんな使命を帯びているのか。実物を見ながら開発陣に話を聞いてきた。
サイズ感は? CX-8と比べてみた
「CX-80」はマツダが日本に投入する「ラージ商品群」の第2弾。3列目シートを備え、最大で7人が乗れる大型SUVだ。販売地域は日本および欧州。価格は現時点で非公開となっている。
マツダの3列シートSUVといえば、2023年末に生産終了となった「CX-8」がある。CX-80はCX-8の後継モデルと考えてよさそうだ。
日本で発売済みの「CX-60」と同じプラットフォームを使っているが、CX-80はCX-60比で全長とホイールベース(前輪と後輪の間の距離)がかなり大きくなっており、そのぶん、室内空間には余裕が生まれている。CX-8と比べてもCX-80は一回り大きいが、取り回しのよさ(最小回転半径)は変わっていないとのこと。ボディサイズと最小回転半径の比較は以下の通りだ。
CX-80 | CX-60 | CX-8 | |
全長 | 4,990mm | 4,740mm | 4,925mm |
全幅 | 1,890mm | 1,890mm | 1,845mm |
全高 | 1,705mm(ルーフレールまでだと1,710mm) | 1,685mm | 1,730mm |
ホイールベース | 3,120mm | 2,870mm | 2,930mm |
最小回転半径 | 5.8m | 5.4m | 5.8m |
なぜガソリンエンジン車(お手頃グレード)がない?
エンジン縦置きプラットフォームに搭載するパワートレインは「3.3L直列6気筒ディーゼルエンジン」「3.3L直列6気筒ディーゼルエンジン+モーターのマイルドハイブリッド(MHEV)」「2.5L直列4気筒ガソリンエンジン+バッテリー+モーターのプラグインハイブリッド(PHEV)」の3種類。CX-60にはあるガソリンエンジン車を用意しない理由とは? 主査(開発責任者)の柴田浩平さんに尋ねると以下の答えが返ってきた。
「将来的にできなくはないのですが、現時点では必要ないと思っています。CX-8ではいろいろなエンジンをラインアップしたのですが、市場の反応はかなりはっきり出ていました。このクラスのクルマでは、やはり3.3Lディーゼルが主力になると思います。余裕や豊かさを大事にするクルマですから、一生懸命にエンジンを回さないと走らないというのではなく、ゆったりと気持ちよく、余裕をもって乗っていただきたいんです。攻めようと思えば攻められるんだけど、あえて攻めずにゆったり乗るという感じでしょうか」
ゆったりと乗るCX-80はPHEVとも相性がよさそうだ。モーター走行は静かだし、バッテリーの重みも加わって乗り味が重厚になりそうだからだ。このあたりについて柴田さんは「相性はいいでしょうね。(PHEVのみの装備となる)AC1,500Wの電源を使って、出先でいろいろと楽しんでいただけるとも思っています」と話していた。
「2列目リッチ仕様」の可能性は?
3列目シートは緊急用(急に多人数で乗らなくてはいけなくなった場合など)の「エマージェンシー3列」ではなく、「大人がしっかり座れる」空間として作り込んだと話すのは、開発チームでパッケージングを担当した髙橋達矢さんだ。
3列目に実際に座ってみると、クォーターウィンドウ(横にある窓)がCX-8よりも大きくなったことにより、視界の面でも居住性(居心地のよさ)が向上していた。サンルーフ装着車であれば、前方視界はさらに広がる。
今後の展開として期待したいのは、3列目シートを思い切って取り外し、2列目シートの居住性を存分に高めた「2列目リッチ仕様」の登場だ。CX-80を4人乗りにして、後席2席を独立した「エグゼクティブシート」のような仕立てにすれば、マツダ版ラグジュアリーショーファーカーが完成する。
マツダが豪華な2列目シートを作るとすれば、どんなアイデアが飛び出すのだろうか。シートのマッサージ機能や目の前に広がる超大型ワイドスクリーンなど、すでに他社がやっているようなラグジュアリー表現は避けて、マツダ独自の空間づくりをしてくれれば面白そうなのだが……。
そんな風に勝手な想像をふくらませていると、柴田さんからは「面白いと思いますね。今のCX-80は『素直に作った状態』なので、いろいろな可能性があります。あの空間をどう使い切るかというのは、我々の腕の見せ所ですから」とのコメントが。ということは、マツダ版ラグジュアリーカーの登場に期待していいのかも?
上級志向ユーザーの受け皿になれるか
3列シートSUVのCX-80は「CX-8の後継モデル」として重要な役割を担うが、もうひとつ、マツダが狙っているのは「上級志向なユーザー」の取り込みだ。「CX-80では、マツダのフラッグシップとして独自のポジションをしっかりと強化、確立していきたいと思っています。高価格帯なので、上級志向のお客様にもしっかりと振り向いてもらって、マツダを愛し続け、購入し続けてもらいたいんです」というのが柴田さんの考えだ。
例えば「MAZDA2」や「ロードスター」などでマツダ車に乗り始めた人が、ライフスタイルの変化で大きなクルマに乗り換えていって、ある時点で「もっと上級なクルマに乗りたい!」と思ったとき、マツダ車に選択肢がないと判断されてしまうと、その人は輸入車も含む他ブランドへと移って行ってしまう。「残念ながら、マツダでは『もっといいブランドへ』ということ(つまり、ユーザーが他ブランドに流出してしまうこと)がけっこう多いので、それは食い止めたいですね」と柴田さんは話していた。
CX-80は「上級志向のマツダユーザー」の受け皿としての重要な役割を担うクルマなのだ。