9月1日に行われるパリ2024パラリンピック・ブラインドフットボール日本代表戦の初戦がNHK Eテレで公開生放送される。しかも、NHK初のパラリンピック番組“全盲アスリート解説者”として、元日本代表選手・加藤健人(愛称:カトケン)の出演が決定! “見えない”試合をどのように解説するのか。カトケンに意気込みを聞いた。

加藤 健人(かとう・けんと)|ブラインドフットボール
1985年、福島県生まれ。小学3年から高校までサッカーをしていたが、高校3年時に遺伝の病気で視覚障がいに。2005年、20歳でブラインドフットボールに出会う。2007~2021年日本代表。現在も埼玉T.Wingsの選手として活動中。

見えないからこそ聞き取れることがある――パリの試合生解説の話は、いつ決まったんですか?

カトケン: 正式にお話をいただいたのは、今年の1月のことです。パラサポWEBの取材で日本代表合宿に行った際、NHKの方も来て、そこで。視覚障がい者スポーツであるブラインドサッカーとゴールボールは、今まで選手が音だけを頼りに解説したことはなかったそうなのですが(注:弱視の元選手による解説は過去にあった)、今大会で新たな試みとしてチャンレジしたい、とのことでした。

正式にオファーをいただいたときは、びっくりしたけど、うれしかったです。実は昨年、日本代表が自力でパリ出場を決めたことをきっかけに、自分にも何かできないかと考えていました。その一つが、伝える側になるということ。そこで、取材記事を掲載しているパラサポWEBと、試合中継の可能性があるNHKに相談させていただいたのですが、まさかどちらも本当に実現するとは思っていませんでした。

――試合解説の経験は?

カトケン: もちろん、ないです。自分から相談しておいてなんなのですが、よくよく考えてみると、映像が見えない中で何をどう伝えたらいいのか……。正直、最初はイメージが湧きませんでした。

――見えない状態でどんな解説をしてくれるのか、読者や視聴者も興味津々だと思います。どのように解説しようと考えていますか。

カトケン: 実況の方の問いかけに対して、自分が答えるという方法もあると思うんです。でも、それだけだとちょっと、というのが自分の中にあって。あれこれ考えても仕方ないので、とにかく一度やってみようと、NHKに行って、実況の方と一緒に東京パラリンピックの試合映像を見てみました。すると、選手たちやゴールキーパー、監督、ガイドの声が聞こえてきた。なので、それを聞き取って何が起きているかをイメージし、言葉にしてみたんです。

例えば、初戦フランス戦で、黒田智成選手がゴールを決めたシーン。黒田選手がシュートを打つタイミングで、中川英治コーチ(現・日本代表監督)が「シュート!」と言っていました。自分はそれを聞き取って、「このタイミングで打ちました」と話したり。監督がベンチにいる選手の名前を言っているのが聞こえた際には、「選手が交替するのでは」というように、先読みをしたり。指示以外にも、ゴールキーパーが選手を励ましていたら、そう伝える、などです。

こういう声は、実況や周りの方々にもなんとなく聞こえてはいても、はっきりとはわからなかったとのことで、「新しい」と喜んでもらえました。

ブラインドフットボールは言葉が大切、と言われていて、知っている方もいると思うのですが、本当のところは伝え切れていなかったのかもしれません。だからこそ、今回の実況を通じて、ブラインドフットボールにおける言葉の大切さについてお伝えできたらと思います。

選手ではなく取材者として足を運んだ練習場。緊張していたら元日本代表監督の魚住稿ハイパフォーマンス・ディレクター(右)が声をかけてくれた!

――実況の方との呼吸も大切になりそうですね。

カトケン: パリの実況を担当される方とは、今年7月に大阪で行われたジャパンカップで一緒に試合を見ながら練習をしたんですよ。そうしたら、改めて課題が見つかりました。

例えば、ブラインドフットボールのピッチの両サイドには、腰ほどの高さの壁が設置されていて、その壁を使いながらプレーするのも戦術の一つなのですが、その壁の位置をどう表現するか。手前と奥側なのか、右と左なのか。細かいところですが、共通のイメージを持つために、表現を統一したいと思っています。

また、東京大会と違い、パリでは観客が入るため、試合中の音がどこまで聞き取れるか未知数ですし、何が起きてるのか、わからないこともあると思うんです。そんなときは、自分から「ゴールキーパーが○○選手を呼んでいたのですが、○○選手にパスが行きましたか?」と質問。それに対して、実況の方が「○○選手がボールを持ちました。その奥の□□選手にパスを出しました」と説明する、といったように、対話形式で進めるところがあってもいいかもしれません。

本番前にすり合わせをしてから臨むつもりなのですが、今までとは一味違う解説になる可能性が高いかな、と思っています。

初取材ではブラインドフットボール日本代表の中川監督に話を聞いた言葉で伝える力を武器に――そもそも伝える側に挑戦してみようと思ったのは、なぜですか。

カトケン: 小学3年生から高校生までサッカーをしていたこともあって、感覚派というよりは、いろいろと考えてプレーするタイプなんです。今これが起きたから、これをしなきゃいけない。ここでなぜこれをするのか……。そうしたことを言語化できることは、自分の良さだと思っていて。その言語化の力を活かせるのが、取材や解説だと思いました。

また、日本代表がパラリンピックに出場するのは、東京に続き2度目になります。自分もパラリンピック出場を目指しましたが、かないませんでした。でもその分、パラリンピックへの思いは誰よりも強いのでは、と自負していますし、だからこそ、今回、このように伝える側になったことで、違う意味でパラリンピック出場がかなえられたのでは、とひそかに思っています。

日本代表選手時代から通い慣れた練習場。駅から約15分の道のりは完璧に覚えていました――解説者としてこれは絶対に伝えたい! ということは。

カトケン: ブラインドフットボールを知らない人には、まずは知ってもらうということ。さらに、「アイマスクを着けてるのにすごい」だけではない、競技、スポーツとしての魅力もお伝えしたいです。

たしかに、見えない分、難しさがあるのは事実です。足元に来たボールをうまく止められなかったり、目の前にあるボールがなかなか取れなかったり、選手同士が激しくぶつかったり。見える人にとっては、「なぜ、こんなこともできないんだろう」と不思議に思うところもあると思います。それがなぜか、解説したいです。

また、サッカーなので、どうしてもボールを持っている選手やシュートシーンに目が行きがちです。もちろん、うまくトラップしてシュートを決めたときは、そのすごさをお伝えできたらと思います。それとともに注目していただきたいのが、シュートに至る過程です。実は、攻撃時も守備時も、選手同士が声を掛け合ってチーム戦術に沿った位置取りをしていますし、ゴールはたまたま蹴ったボールが入るのではなく、プレーがつながった結果、生まれます。ゴールが決まったら、その前に何が起きていたかもお伝えし、その面白さを知っていただけたらうれしいです。とはいえ、ゴールが決まったら自分もうれしくて、皆さんと一緒に喜んじゃうかもしれませんが(笑)

日本代表と一緒に自分も戦っている気持ちで、選手たちの良いプレーを伝えられるよう、いい準備をしてがんばります!

ブラインドサッカー専用コート「MARUI ブラサカ!パーク」で行われた強化合宿を視察――どんな解説になるのか、楽しみにしています! ありがとうございました。<Eテレパラリンピック解説 公開生放送>

日時:9月1日(日)17:00~
場所:東京ポートシティー竹芝
※観覧募集は終了しています
ゴールボール男子日本代表戦 予選 vs エジプト
ブラインドフットボール日本代表戦 予選 vs コロンビア

text by TEAM A
photo by Hiroaki Yoda