35年周年! 黎明期のノートPCが分解展示されていた
Dynabook社がこの夏に秋葉原でイベントを開催したのは皆さんも聞き及んでいると思います。
ワークショップで画像生成AIを活用して一枚の写真を超現実的にブラッシュアップしていったり、動画生成AIを利用して仮想キャラクターに歌わせるミュージックムービーを作ってみたり、東大卒業生のクイズ王に生成AIが作ったクイズを講評させたりと、dynabookシリーズとAI技術の組み合わせによるイマドキな内容に多くの人が興味を示したのか、メインステージをはじめとしてなかなかの賑わいを見せていました。
それはさておき。
そんな最新技術を体験できるイベント会場の一角に、Dynabook初号機……、いや初号モデルともいえる「DynaBook J-3100 SS001」の“分解”展示がありました。その脇には2024年夏における最新かつ最上位モデル「dynabook R9」も分解展示されていたので、DynaBook/dynabookの35年間にわたる進化を中身から確認できるようになっていました。
ノートPCの分解展示は今となってはそれほど珍しくなく、PC各メーカーも新製品の発表会や技術系ITイベントの自社ブースでは必ずといっていいほど用意されています。
dynabook R9の“中身”も、報道に限らずイベントの同社ブースで直接目にした人は少なくないでしょう。dynabook R9には申し訳ないのですが、ある意味、「見慣れちゃったー」な存在かもしれません。
しかし、DynaBook J-3100 SS001となると、中身を見る機会かかなり限られているのではないでしょうか。
このモデルが登場した1989年、ノートPCの内部にアクセスしてユーザーレベルで何かできることは“ほぼ”なかったので、よほどの知的好奇心もしくは蛮勇を持ち合わせていないと、自らノートPCの底面を固定しているネジをドライバーで外してボディを分解し、基板をむき出しにするという暴挙に挑むことはなかったのです(CPUを基板から“はがして”CyrixやAMDの互換CPUに交換したりHDDをメーカー設定ドライブより大容量のモデルをベアドライブの状態で入手して換装したり、といった冒険はもう少し後のモデルでその方法が広まることになる)。
それゆえ、DynaBook J-3100 SS001の中身をその目で見る機会は(少なくともユーザーとしては)少なかったと思います。このイベントで「DynaBook J-3100 SS001の中身、はじめてみたー」という人も多いのではないでしょうか。
超個人的好奇心に抗えず、筆者もDynaBook J-3100 SS001の中身をじっくりと観察してみました。
DynaBook J-3100 SS001の中身をじっくり見ると
基板はボディの前端から奥までびっしりと広がっています。ただ、右側の中央から奥はフロッピーディスクドライブが占めているため、基板の形状としては逆L字といえます。
基板には半導体がこれまたびっしりと実装。近年の基板なら半導体の形状や実装方法などで、「ああ、これはあれだな」と容易に判別できるのですが、DynaBook J-3100 SS001が登場した1990年代初頭におけるノートPCの半導体実装方法はほとんどがQFPやDIPです。
(サイズの大小はあれど)その姿は共通しており、かつ、現代のSoCのように複数の機能が統合されて1つのダイにまとめられですっきりとしたレイアウトではなく、今では統合された複数の機能がそれぞれ別の半導体として基板にずらりと並ぶため、「ああ、このチップはアレ用だね」と一目で把握するのが難しくなっています。
それでも、展示用に分解されたDynabook J-3100 SS001(分解用機材を調達するのに苦労されたとのこと……)の基板には「CPU」「メモリ」「電源」などなど、ラベルが用意されていたので、「おおお! カタログで名前は知っていたけれど、こんな姿をしていたのね」と確認して、隣に展示されているdynabook R9分解展示に用意されたラベルを参考にその違いに驚くことができました。
CPUは「Intel 80C86」で、展示機材には沖電気のライセンス生産チップが載っていました。80C86はいわば「省電力型8086」です。このころから消費電力の抑制は重要だったのですね(そりゃそうだ)。
DynaBook J-3100 SS001のカタログスペックでは動作クロックが10MHzとなっていますが、展示機材の刻印には「M80C86A-2」となっていることに注目したいところです(沖電気の公式データシートがないので推測になりますが、バイヤーのWebサイトでは動作クロックを8MHzとしているところが複数ありました)。
メモリとラベルの置かれたエリアには「TC514256AJL-10」と刻印された半導体が4×3=12個実装されています。これでシステムメモリ容量1.5MB。当時のOSであったMS-DOSの最大領域は640KBなので余ります。この余った領域を「RAMディスク」として使うことで高速でアクセス=読み書きできる小容量のHDDのように使うことができました。
この他にも、“たぶん”BIOSを収納しているだろうROM群や、“きっと”CPUのキャッシュメモリとして使っているはずなSRAM群、“もしかすると”グラフィックスコントローラーや入出力コントローラーとして機能するっぽい半導体群が所狭しと並んでいました。
歴代DynaBookの収集も大変なんです
イベント会場には歴代のDynaBook/dynabookも展示されていました。
その内容は2月に開催された「dynabook Days 2024」と共通ですが、法人ユーザーを対象としていたdynabook Days 2024とは異なり、今回は秋葉原の夏休みということで、より多くの一般ユーザーにも35年に渡る歴史と進化を知ってもらえる機会となったようです。
来場者からも「DynaBookの実物ってこんなに大きかったんだー」という声が少なからず聞こえてきました。
ただ、会場にはJ-3100の祖でもある世界初のラップトップPCから始まる歴代モデルの年表も掲げられていましたが、たくさん並んでいる中で、進化の過程で節目となる「エポックメイキング」的なモデルが見当たらないものも少なくありません。
例えば、(超個人的な視点かもしれませんが)、解像度がVGA(640×480ドット。それまでは640×400ドットのCGAだった)となって見やすい白液晶画面を採用した「DynaBook V386 J-3100SX-VW」(超個人的にはCPUをピン互換のCyrix486SLCに換装できたのもエポックメイキング)や、TFT液晶カラーディスプレイとリチウムイオンバッテリーを採用して本体の重さが2キロを切って米国で高い評価を得た「PORTAGE T-3400CT」(超個人的には米国並行輸入で購入すると価格がなぜか20万円を切ってチチブデンキで購入できた大容量のベアドライブに換装できたのもエポックメイキング)も展示さえていません。
Dynabook社の“中の人”に聞くと、東芝には資料として歴代のモデルが保管されているものの、Dynabook社としては同社設立前のモデルは当時所有しておらず、その後地道に収集されているとのこと。それでも、“前世紀”ごろの状態にいい機材はなかなか見つからないといいます。
「え、私、自分で初めて購入したPCのDynaBook J-3100 SS02EやDynaBook V386/J3100 SX-VX(ただしCPUは換装しちゃっていますけど)やPORTAGE T-3400CT(ただしHDDは換装しちゃっていますけど)をまだ持っていますよ」
「ええっ、本当ですか! 後ほど連絡させていただけますかっ」
ということで、もしかするとそのうち、歴代DynaBookのなかに私の所蔵機が加わっているかもしれません。