アストンマーティンは6月に同社のビスポーク部門であるQ by Aston Martinが手掛けたヴァリアントを発表。日本でも8月9日にアストンマーティン青山にて一部メディアに向けて公開。Head of Q Special Project Sales - APAC & Tokyo Brand CentreのSam Bennet(サム・ベネッツ)氏も来日し、ヴァリアントについて説明がなされた。ちなみにベネッツ氏はヴァリアントのベースとなるヴァラーの開発も担当した。
【画像】フェルナンド・アロンソからの依頼で誕生したスペシャルモデル、アストンマーティン・ヴァリアント(写真10点)
ヴァラーよりもハードなモデルを
そもそもヴァリアントはヴァラーをベースにアストンマーティン・アラムコ・フォーミュラ1チームのドライバー、フェルナンド・アロンソの個人的な依頼がきっかけで誕生したたった38台のスペシャルエディションだ。
基本的なレイアウト、フロントエンジン・リアドライブ、マニュアルトランスミッション、5.2リッターV型12気筒ツインターボエンジンはヴァラーと共通ながら、最高出力は715PSから745psへとパワーアップ(最大トルクは753Nmで共通)。
ボディは一見ヴァラーに近いようだが、100%カーボンファイバー製でAピラーより後ろ(除くドアとルーフ部)は一体成型で剛性を確保。トランクリッドも廃された。また、大型のスプリッターや固定式リアウイング、F1からインスピレーションを得たサイドシルなどでV12ヴァンテージの2倍のダウンフォースを確保。さらにフロントグリルはボディ一体となっている。
シャシー剛性を高めるために3Dプリンターを使いリアのサブフレームを作成したほか、トルクチューブやトランスアクスルなどはマグネシウム製だ。これらは軽量化にも効果を生んでおり、リチウムイオンバッテリーもモータースポーツ仕様に変更するなどでトータル約95kg(ヴァラー比)の軽量化に成功。
同時にサスペンション関係も見直されヴァリアントではマルチマティック社製アダプティブ・スプール・バルブ(ASV)ダンパーを装着。伸び側と縮側それぞれ別に電子制御で調整が可能というもの。このサスペンションセッティングとドライビングモードは個別でドライバーの好みでセッティングが可能とされた。
アロンソ選手が挑戦状をたたきつけたからには
ヴァリアントが生まれたのは冒頭に記した通りアロンソ選手からQ by Aston Martinに向けた「挑戦状」だったとベネッツ氏は語る。もともとヴァラーは公道を主眼に開発。一方のヴァリアントはサーキットメインだ。「公道9、サーキット1がヴァラーだとすれば、ヴァリアントは公道1、サーキット9という割合」だと明かす。これを踏まえて重量やサスペンションセッティング、エンジンパワーだけでなくボディの素材の選択も含め作り上げていったのだ。
そこで最も重視されたのは”数値よりもフィーリング”だ。ドライバーと車とが一体になれるように、安全運転支援システムは完全にオフにできるように設計。ベネッツ氏いわく、「そのときのすべての責任はドライバーの頭と足」と笑うように、スキルがかなり問われる過激な仕上がりのようだ。
そういった”気分”は、見た目でも表現されている。そのひとつはシフトレバー周りで、ギアのリンケージが透けて見えるようになっている。「ドライバーにこの車のメカニカルな部分を見せることで、”感情的”なつながりが持てるようにした」と説明。そのギアのフィーリングは”かっちり感”に溢れ、アクセルレスポンスもかなり敏感に仕上げられてる。そうすることで、ドライバーと車の一体感を生み出そうとしているのだ。
ヴァラーは110周年を記念して110台限定で作られた。ではヴァリアントの38台の意味は何だろう。それはヴァラーとヴァリアント共通のモチーフとなった1970年代に活躍したV8ヴァンテージのハードモデル、マンチャーのVINコードからとられた。これは生産国やメーカー、グレード、オプション、そして車体番号などから構成されるもので、38はマンチャーを指すコードなのだとか。
同時に、この車を購入するであろう人数もグローバルで38人ほどではないかという予測もあった。現在その人たちに打診しほぼ割り当ては終了。今後その結果を鑑みながらQ by Aston Martinとして各ユーザーの好みに合わせて仕上げていくという。因みに日本にも割り当てはあるそうだ。
今回アロンソ選手はQ by Aston Martinに挑戦状をたたきつけたわけだが、ではオーナーになるのかを聞いてみたいところ。ベネッツ氏は、「仕様などは明かせない」としながらも、38台のうちの1台はアロンソ選手が購入したとのこと。先日開催されたグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードでアロンソ選手がヴァリアントをドライブし、終始笑顔だったとのことなので、標準でもかなりお気に入りの仕様に仕上がっているようだ。そこからさらにアロンソ選手の好みが加わるというのだから、興味深い。
なお、それぞれのユーザーへの納車は2024年第4四半期に開始予定で、価格は明らかにされていない。
文:内田俊一 写真:アストンマーティン
Words: Shunichi UCHIDA Photography: Aston Martin