公開中の映画『ブルーピリオド』で“ユカちゃん”こと鮎川龍二を演じる高橋文哉にインタビュー。山口つばさ氏による同名漫画を実写化した同作は、からっぽだった高校生・八虎(眞栄田郷敦)が、1枚の絵をきっかけに美術の世界に本気で挑み、国内最難関の東京藝術大学を目指す姿を描いている。
高橋が演じたユカちゃんは八虎の同級生で、八虎が美術部に入るきっかけを作り、自身も日本画で東京藝術大学を目指している。女性的な容姿でスカートなどを着用しており、高橋は役作りのために8kg減量。原作者からも太鼓判を押された一方で、「見たことのなかった次元でのお芝居」だったとも振り返る。
※本インタビューには作品内容のネタバレを含みます。ご注意ください。
映画『ブルーピリオド』で“ユカちゃん”こと鮎川龍二役の高橋文哉
――今回、高橋さんが演じたユカちゃんが「かわいすぎる」と話題で、ご自身では反響を感じられていますか?
出演を解禁してビジュアルをお届けする時は緊張しました。『ブルーピリオド』は出演の解禁とビジュアルの解禁が同時だったので、原作のファンの方はどう思うのかな? と。やっぱり「かわいい」と言っていただきたいので、その一心でドキドキしましたが、すごく褒めていただけて。僕としてはやるべきことは全部やったつもりで、「お前では足りない」と言われたら「すみませんでした」と言うしかないと思っていたので、いい反応をいただけてありがたかったです。
――原作の山口つばさ先生も「ユカちゃんがよかった」と言ってましたね。
現場で山口先生とお会いしたら、「緊張する」と言ってくださったんです。「自分が思い描いたユカちゃんがここに存在していることが本当に不思議だ」と。頑張ってよかったなと思います。
――大変な役だったんじゃないかと思いますが、演じるにあたって勉強したことや気をつけたことはありますか?
気をつけたことはたくさんあるのですが、1番は「どれだけそこに存在していることに説得力を持たせるか」でした。ユカちゃんを演じるにはビジュアルがすごく大事になってくるので、しっかりとナチュラルであり、リアルであるように、作り物ではないものを作らないと。観ている方が、一瞬でも違和感を持った瞬間に負けだと思っていたので、守らなきゃいけないものだなと感じ、責任を持って演じていました。
この作品、この役をやる上で、気をつけないといけないことはたくさんあると思っていました。僕の言葉一つもそうですが、ユカちゃんが思っているものを1人の人間としてしっかり理解してあげること以外に、他にやることはないなと思ったので、理解することが1番大事だなと。なので、原作では初恋の女の子がいるとか、今は男の人が好きとか、感情を具現化して作品に落とし込んで、自分の言葉で言えるようにしていました。
――それは、どのように努力されていたんですか?
感覚なので難しいのですが、本当に心から変えるような感じでしょうか。「この役だから、こういうことをやるだろう」ではなくて、自分がユカちゃんをまず理解しないといけない。もちろん、役に体型を近づけるなど、やらないといけないことはありましたが、何をやるよりも前に、鮎川龍二、ユカちゃんという役をしっかりと理解しないと、と。
その上で僕が大事にしていたのは、「かわいくなりたい」という気持ちでした。もう、すべてはかわいくなるため。僕に「かわいくなりたい」という感情が芽生えた時に何をするかをとにかく考えて、すべてやりました。ふだんの僕だったら、たとえば7時に家を出るなら6時55分に起きるのですが、『ブルーピリオド』の撮影の時は、1時間前に起きてスチームを浴びて炭酸パックして半身浴して……もはや、ユカちゃんには「大事な日」とかないんですよ。毎日なので!
ありのままの姿になるところもあったので、体づくりはそのために頑張ったようなものでした。ビタミンを飲んだり白湯を飲んだりして、エステもヨガもネイルもして、体重制限や食事制限もやりました。前の作品がクランクアップした瞬間から、『ブルーピリオド』の台本を読み込んで、原作やアニメも見て、何をやろうかなと考えた時に「かわいくなりたいな」と。本当に心から思ったんです。なので撮影現場に行っても、郷敦くんや監督やカメラマンさん、いろんな人たちが「かわいい」と言ってくれるのがうれしかったです。すぐ「今日かわいいですか?」と聞いていました(笑)。撮影前と撮影後で人が変わるような感覚がありました。
ネットでも「かわいくなりたい」と調べて、「かわいくなるためにするべきこと100」と書いてあったら、すべてやりました。ストレッチをするとか、脂っこいもの食べないとか、肌に気を使うとか、姿勢に気を付けるとか。家でもヒールを履いて廊下をずっと往復して、そのままヒールでコンビニに行ってみたりしていました。
――先ほどもおっしゃってた「ありのままの姿になる」シーンがありましたが、体作りも意識されていたんですか?
もともとラインはちゃんとしたいなと思っていたのですが、セルフヌードのシーンもあったので、ラインだけでは足りなかったんです。絞るだけではダメで、インナーマッスルを鍛えないと。特に「お尻は大事にしないと」と思っていたのでジムに行って、お尻だけ1時間鍛えたりしていました。家でできるストレッチやトレーニングはたくさんありますし、毎日やっていました。本当に、あの時期はすごく楽しかったです。肌もスチームを当てると次の日起きた時に、違うじゃないですか? 今まで「女性は努力しているんだなあ」くらいにしか思っていなかったのですが、その大変さと、そこまでする意味を理解できました。
――ちなみに今も続けているんですか?
今は、もうやっていないです(笑)
――たとえば、またかわいくなる役が来たらノウハウが活かせたりするんでしょうか?
でも、たぶん同じ役作りはしないです。もし必要になったとしても、今回行ったエステやネイルサロンは、絶対に使わないと思います。そうじゃないと、違う人間にはならないかな、と。またやってみたいなとは思います。
――印象的だったのが、水族館でユカちゃんが「世間がいいっていうものにならなきゃいけないなら、俺は死んでやる」というシーンがすごく印象的でしたが、気持ちなどが重なる部分はありましたか?
水族館のシーンはすごく大事で、ユカちゃんの心の中が出てくるシーンだったので、もう「何も考えずにセリフだけ覚えていく」「その場で出てきたものしか信じない」という気持ちで挑みました。「世間がいいっていうものにならなきゃいけないなら、俺は死んでやる」というセリフも、いい言葉ですが、自分に厳しい言葉でもあり、すごく強い信念がないと言えない言葉だと思います。
撮影ではいろいろなカット割りがあり、そのシーンの“バックショット”を撮るときに、自分でも覚えていないのですが、号泣していたんです。バックショットだから、スタッフさんも後ろからしか見てないわけです。僕には本当に、目の前の水槽の魚と、八虎の横顔しか視界に入っていない。だから本当にその空間が孤独で、誰にも見られていないから出せる感情、出せる表情があって、どんどん気持ちが湧き出てきて、すごく苦しかったんですけど、気づけば本番が終わって「号泣してるわ、自分」と俯瞰的に思って。そしたら萩原(健太郎)監督も「このシーンは、この1カットで大丈夫です」とOKを出してくださって、「えっ!?」と驚きました。その後はもう、監督は水槽の魚の寄りカットを撮ってました(笑)。でも、僕の気持ちが萩原監督に伝わったのかなと。もし前から撮られていたら、ここまで気持ちがあふれなかったかもしれないです。
――普段はカメラに囲まれていますもんね。
その中でもやらないといけないのが役者の仕事なのですが、あの瞬間は、ユカちゃんの感情とリンクしすぎて、もはや「勝手にやってやろう」とすら思ったんです。セリフの間とか台詞とかも、変えちゃえ! と思って。それを認めてもらって、嬉しかったです。
料理の道を断ち、芸能界入り
――実際には高校の頃は料理の道を目指されていたそうですが、撮影しているときに自身の高校生活を思い出したりはしなかったんですか?
まったくしていないです。絵画練習はたくさんしましたが、ユカちゃんの気持ちのことしか考えていなかったので。ユカちゃんが試験の際にバツを描いて教室を出ていくシーンでは、「練習したい」と言って何枚も描かせてもらいました。監督にも「どういうのがいいですか?」と見せて。その瞬間の感情をバツの二画に表さなければいけなかったですし、あれこそユカちゃんの作品だと、僕は思っています。『ブルーピリオド』の中で、鮎川龍二としての終止符だったし、名付けるなら「弱さ」という作品だと思います。
――夢もテーマも作品だと思うんですが、大きいことでも小さいことでもこれまでに「夢が叶った」と思ったことはありますか?
夢は、あんまりないんです。このお仕事を始めてから夢を持たなくなりました。すべてが目標です。小さい頃には「料理で生きていきたい」という本気の夢を持っていましたが、結局、自分で芸能界という別の道を選択しました。だから僕は、夢を持つことだけが正解じゃないと思っていて、今持っているのは、現実的な“目標”です。たとえば「『仮面ライダー』になりたい」というのも、夢ではなく目標で、実際に仮面ライダーになれたのは「目標を達成した」という感覚でした。
――その選択には、どのようにして至ったんですか?
料理をずっとやっていても芸能界には入れないけど、芸能界に入れば、その先に料理をする道もあるなと、高校生ながらに考えたんです。料理は今でも好きですし普段からやっていますが、料理だけをする人生は、この先ないと思います。自分で決めちゃったので。
――本当にお忙しいと思いますが、どういうことがモチベーションになっていますか?
最近は「自分が頑張る先に待っていること」を考えるようにしています。例えば「おいしいごはん屋さんに行くぞ」と決めたら、そのために頑張るし。「作品を届けた時の、応援してくださる方々の顔が楽しみだな」とか、「感想を聞くために頑張っているな」という時期もあるし、例えばラジオだったら「夜遅いけど、生放送を喜んでくれるだろうな」とか、そういう気持ちで乗り切っています。
――最後に作品を楽しみにしてくれてる方にもメッセージをいただけたら。
この仕事を始めて、僕が見たことのなかった次元でのお芝居でしたし、僕が知らない世界の役作り、知らない世界の努力でした。作品にかける思いや熱量は、僕が言うまでもなく皆さんに受け取ってもらえると信じています。この作品は「情熱は武器だ」というキャッチコピーで、「情熱」という言葉を使うのは簡単だけど、「情熱を持つ」のは本当に難しいので、小さなきっかけとしてでも、火種になるのが『ブルーピリオド』だったら嬉しいです。熱さを体験しに、劇場に来ていただきたいなと思います。
■高橋文哉
2001年3月12日生まれ、埼玉県出身。2019年、特撮ドラマ『仮面ライダーゼロワン』の主人公に抜てきされ、俳優デビューを果たす。近年の出演作に、2021年のドラマ『最愛』や映画『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜ファイナル』、『牛首村』(22年)、W主演映画『交換ウソ日記』(23年)、主演ドラマ『フェルマーの料理』(23年)など。2024年は『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』、W主演映画『からかい上手の高木さん』、放送中の主演ドラマ『伝説の頭 翔』の他、今後は映画『あの人が消えた』(9月20日公開)、映画『少年と犬』(25年春公開)を控える。