パリ2024オリンピックは連日の熱戦の末に閉会式を迎え、8月28日から始まるパラリンピックにバトンが渡された。アスリートたちを迎える選手村も、この後、多くのパラアスリートとスタッフを迎えるための準備に取りかかることになる。
パリ2024大会の選手村が置かれているのは、フランスの多様性を象徴する街セーヌ・サン・ドニ。「史上もっとも持続可能な大会」をめざすパリ大会は、この街になにを残すのだろうか?
※写真は、パラリンピックのシンボルマークであるスリー・アギトスが掲げられた凱旋門。

どうなる?54ヘクタールの巨大な選手村のゆくえ工事段階から環境への配慮を徹底

パリ2024オリンピック、パラリンピックの選手たちが過ごす選手村は、パリの北の郊外セーヌ・サン・ドニ県のサン・ドニ 、サン・トゥアン、リル・サン・ドニという3つの自治体にまたがっている。選手村の広さは54ヘクタール、村内には五輪史上初となる育児室の設置や、既存の映画撮影スタジオ「シテ・デュ・シネマ」を改装した巨大な食堂やトレーニングルームが話題を呼んだ。

選手村の室内は環境に配慮したつくりで、3年前の東京2020大会でも使われた段ボールベッドが再び導入された。大会終了後、ベッドのフレームはフランス国内で再利用され、マットレスはNGO団体や学校などに寄付される予定だという。
選手の部屋にエアコンがないことが問題視され、結局多くの国の選手団がオプションでエアコンをレンタルするという事態になったものの、床下に埋め込まれたパイプを使う地熱冷却システムによるエコロジーな暑さ対策が立てられた。建設時にも木材やリサイクル素材が多く使われ、温室効果ガスの排出量を30%削減する工程が採用された。そして選手村内はバリアフリーで設計されている。

多様性の街に受け継がれるエコタウン3つのコミューンにまたがって作られた選手村

選手村のあるセーヌ・サン・ドニ県は失業率が10.5%と高く(国全体では7.5%)、治安の大きな問題を抱えていた。フランスでの地域の格差は、単なる貧富の差だけでなく移民などの要素がからみ、深刻な分断の問題をはらんでいる。パリに旅行に来たことがある人なら、パリ市内の街並みと、シャルル・ド・ゴール空港への道中に見える空き地や古い集合団地が並ぶサン・ドニ市の景観のギャップに驚いた人もいるだろう。長らく避けられてきた地だったが、1998年、FIFAワールドカップ会場であるスタッド・ド・フランスが誕生したことで街の活性化が始まる。今回のオリンピック閉会式の舞台であり、パラリンピックでも陸上競技の会場となるこの巨大スタジアムは、周辺地域の開発や雇用促進をもたらした。
そして今回のパリ2024大会では、工業団地や廃屋が並んでいた土地が選手村に生まれ変わり、そのレガシーがそのまま街と住民に受け継がれることになる。

もともとオリンピックの選手村は、1924年パリ大会で選手用の宿泊施設が準備されたのが始まり。1932年ロサンゼルス大会からは食堂などの施設が加わり、現在見られるような総合的な設備を備えたものになったという。
100年前パリに造られた木造の選手村はすぐに取り壊されたが、「史上もっとも持続可能な」パリ2024大会の選手村の建物は、大会終了後ただちに2800戸の集合住宅とオフィスに変わる。集合住宅のうち40%程度は低所得層に向けた低家賃住宅や学生寮になるという。6ヘクタールの公園と緑地スペースや地熱冷却システムは、気候変動に対応した快適な住まいを約束するだろう。学校や体育館も整備され、およそ6000人が暮らすエコタウンとなる予定だ。

根本にあるのは、大会のために選手村の施設を作ったのではなく、大会期間中の数ヶ月間場所を借りていて、大会以降は街の住民に返すという考え方だ。多国籍の住民が多く暮らすセーヌ・サン・ドニの発展は、多様性の尊重にもつながっていく。オリンピック・パラリンピックをきっかけに生まれるサステナブルな街の未来に注目したい。

text by Yuka Miyakata(Parasapo Lab)
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