80年代にスローガンとして「楽しくなければテレビじゃない」と打ち出したフジテレビ。そのフジテレビが再び、別の楽しさを追求している。その象徴的なひとりが清水俊宏さんだ。報道局の経済記者であり、会社公認のYouTuberであり、また株式会社ポーラと共同開発で冷凍宅食惣菜『わたしのための、BIDISH。』を販売するなど、従来のテレビ局にとらわれない働き方をしているのだ。これは話を聞きたい。

インタビュアーは、『ダウンタウンDX』を20年以上演出してきた読売テレビの西田二郎。「西田二郎のメディアの旅」今回は、前編からのつづき。テレビ局がテレビを超えたビジネスを展開する経緯について語っている。

【構成・鈴木しげき】

ニュース配信をビジネスにする模索が楽しかった!

西田 : 当時、話題になりましたカタカナで『ホウドウキョク』(フジテレビが2015年から2019年まで運営していたニュースサイト)。けど、課題もあったと?

清水 : やっぱり24時間ニュースチャンネルをずっとやり続けるのは、コストの面がなかなか見合わないという点があります。お金が無尽蔵でしたらやり続ければいいんですけど、テレビだってコンテンツを作り続けて24時間やり続けるのは大変なのに、配信ではこちらもそんなに知見があるわけでもないですから、マネタイズをどうするのかっていうのはなかなかわからないんですよ。テレビっていいものを作ったら営業が売ってきてくれるじゃないですか。

西田 : そうですね。

清水 : 同じように、いい報道を出し続けていれば、ビジネスは成立するって勝手に思ってたんですよ。けど、やり続けてるうちにこれは簡単じゃないなと。そのうちに『ホウドウキョク』のプラットフォームであるドコモさんのNOTTV (2012年から2016年まで運営していた携帯電話端末向けマルチメディア放送)が終了することになって。それで次は自分たちでクライアントを探しながら、配信だけでやっていくのかどうかって課題に直面するわけです。

西田 : なるほど。

清水 : 業界のインパクトは大きかったし、いろんなところで取り上げていただけて、成果はあったと思うのですが、けど本当にこれをやり続けるのか? 本当にこれが正解なのか? それを探らなきゃいけない段階だと感じました。当時、僕は報道畑にいながらデジタル担当でもあったわけですが、その時に報道の人間だけでやってても、これは持続可能ではないよねとみんなが思い始めていたんです。そこで、『ホウドウキョク』を報道局から切り離して、ビジネス推進局に移そうと。

西田 : おー、なんとも不思議な現象が!

清水 : 当時のビジネス推進局はFOD(フジテレビが運営するビデオ・オン・デマンド)だったり、アニメライツだったり、情報を出すことでお金をいただくという部署で。

西田 : そこに『ホウドウキョク』も入ると? で、清水さんも行くの?

清水 : はい。

西田 : へぇー。

清水 : 報道のコンテンツって、ちょっと特殊でビジネスになるからあれやれこれやれと言っても「それは無理だよ」と報道局がブロックしがちなんですね。

西田 : でしょうね。けど長い時間の配信サービスとして、ちゃんと骨太のビジネス体制もとれるように考えようというわけですね。行ったら行ったでどうでしたか?

清水 : それがもうめちゃくちゃ楽しくて!

西田 : 軋轢もなく?

清水 : 最初はいろんな人が心配してくださったんですよ。ネットビジネスのことはわからないので。だからとにかく聞きまくったんですね、いろんな人に。FODの小さな会議や分科会にも出させてもらって。お恥ずかしながら当時「KPI(キー パフォーマンス インジケーター)」とかも全然わからないわけです(笑)。視聴率と同じで、今日は配信を何人が見てくれたとか手前の数字は見てましたが、何人が見てくれるとビジネスとして成立して、次の展開に行けるのかみたいなことは頭に入ってなくて。そういうことを1個1個勉強していきましたね。

西田 : へぇ~。

清水 : 当時、ビジネス推進局は上司にも恵まれてて、「日本だけで考えてもしょうがないから、ちょっとアメリカの状況を見てこい」って言うので行きましたよ。ニューヨークでABCニュースなどテレビ局系と、当時人気だったハフポスト、BuzzFeedに行って、そこから西海岸へ飛んでサンフランシスコでFacebookとTwitterとGoogleへ行って。さらにロスへ行って、ディズニーなど配信プラットフォームも見てきました。

西田 : 横断してきたわけですか。

清水 : そこでわかったのが、24時間ずっとやり続けてるチャンネルはアメリカでも閉じたり苦戦してたりしてて、「これは将来の日本の姿だなぁ」と思いましたね。じゃあ、どうしたらいいのか。当時、日本では地上波でやったニュースは一言一句変えてくれるなという声がまだあって、でもそれはやっぱり出すところに合わせて最適化していくべきで。例えば、世論調査で「支持率が上がりました下がりました」なんて話題は5秒のインフォグラフィックでいいんじゃない? とか。いろいろ模索して、短尺動画だったり、逆に3時間のTwitterでのライブ配信をやってみたり。

西田 : あらゆるネットの動画表現を経験していくわけですね。

清水 : はい。この対談の最初に「アイデアの総量は移動距離に比例する」と言いましたけど、アメリカへ行ってアイデアは本当にたくさん生まれましたね。日本国内でもいろんなメディアやプラットフォームさんにお話しに行って、たくさん組ませてもらいました。当時、経済メディアのNewsPicksにいた佐々木紀彦編集長が「これからは動画の時代だと思うんだけど、自分たちはノウハウがないのでどうしたらいいか悩んでるんです」と言うので、「いや、テレビ局も事件事故のニュースが多くなりがちで、政治家は顔がわかるからニュースになるけど、これからは経済が大事なのになかなかニュースになりにくいんですよ」と応えたら、「じゃあ一緒に組んだら何かできますかね?」となって『LivePicks』(2017年7月から2018年3月まで配信されていた経済ニュース)をNewsPicks上でスタートさせたんです。今でも『WEEKLY OCHIAI』という落合陽一さんの対話番組だけは残ってますが。

西田 : しかし清水さん、混ぜますよねぇ! テレビ局って、どこかで何もかも自活でやるぞ、みたいな雰囲気がありますけど、清水さんはそうじゃないですね。

清水 : それはこの対談で最初の方にふれましたが、「これからはデジタルやりたいと思うんだけど、なにかビジネス考えてくれる?」と言った局長のあの言葉。アレがきっかけですね。こっちは全然わからないわけですから、あちこち聞かないとダメだなって。そこからです。

西田 : その言葉がなかったら混ぜてへんかもしれませんね。

清水 : その上司の口癖が「上司の言うことを聞く馬鹿がどこにいるんだ」っていうのがあって、聞かなくても怒られるんですけど(笑)、聞いても怒られるんなら、自分なりにやるしかないわけで。先輩たちと同じようにやっても勝てないですし、同期の優秀なヤツらにも勝てないですから、やっぱり違うことをやろうと。そう考えていくと、人よりいいものが作れなかったとしても、ちょっと違うものは作れたなっていうのがあって、その上司も多分そんなことが言いたかったんだろうなとわかってきましたね。

会社公認YouTuberとしてチャンネル『#シゴトズキ』を

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西田 : なるほどねぇ。で、『ホウドウキョク』のその後は?

清水 : 当時、フジテレビだけでやっていたので、やっぱりニュースを伝えるにあたっては関西テレビさんはじめ系列を含め日本全国の情報を取り扱っていかないと、報道機関として知る権利に応えられないと判断しまして。新入社員の時に「国民の生命財産を守るために仕事をする」と本気で思って会社に入ってきましたから。じつはビジネス上の話では、アメリカから帰ってきてすぐに黒字化できていたんですが、『FNNプライムオンライン』という名前にしてFNN系列各局でやっていこうというサービスに変えたんです。これがうまくいったので今は任せて、私は他のことに取り掛かってまして。

西田 : 清水さんはフジテレビ公認のYouTuberでもありますよね。

清水 : コロナ禍が始まった頃、みんな好きな仕事ができなくなったみたいなことがありましたよね。僕自身はコロナ前からZoomを使って会議やったりしていたし、二郎さん含めていろんな方が僕の周りにいっぱいいる。そういう人たちと交流しながらセンスを磨いたり、仕事を作っていったりすればいいわけで。けど、後輩の中には「それは清水さんだからできるんですよ」とか言う人もいて。だったら、そういう人たちを後輩たちに紹介できたらプラスになるんじゃないかと思って、知り合いたちにインタビューを取るようになったんです。ファミリーマートの足立光CMOのような日本を代表するような経営者も出てくれて。

西田 : へぇ~。

清水 : そしたら「これはフジテレビ公式にしなきゃダメだよね」となって、今では会社公式になってるのが『#シゴトズキ』というチャンネルです。仕事に役立つ思考法などを伺ってるんですが、元々は勝手に撮り始めたものだったんですよ。

西田 : どれくらいの頻度で更新されてるんですか?

清水 : 週に2、3本くらいですね。

西田 : めちゃめちゃ上がってますね!

清水 : これ3年間続けているので本当にいろんな方に出会えてます。そこからまたビジネスアイディアをいただけたりしてて。

(つづく)

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▲読売テレビ西田二郎(左)とフジテレビ清水俊宏さん(右)
【清水俊宏 プロフィール】

2002年フジテレビ入社。報道局に配属され、記者、ディレクター、プロデューサーなどに従事。2016年にコンテンツ事業局(現・ビジネス推進局)へ異動すると、テレビニュースのデジタル化や新規事業開発などを担当。「FNNプライムオンライン」などネットメディアの立ち上げや、テレビ番組との連動コンテンツなど幅広く手掛けた。2023年、再び報道局へ異動。ビジネス推進局も兼務。「ニュース番組プロデューサー」と「ビジネスプロデューサー」の二刀流を務める。また、フジテレビ公認YouTuberの顔も持ち、経済番組『#シゴトズキ』で企業幹部やスタートアップCEO、タレントなど多彩なゲストから「仕事に役立つ思考法」を聞き出している。