ソフトバンクは8月6日、2025年3月期 第1四半期の決算を発表した。同日には決算説明会も開催され、代表取締役社長 執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏が登壇して四半期決算内容の説明にあたった。

  • 宮川潤一氏

    同日開催された決算説明会に登壇した代表取締役社長 執行役員 兼 CEOの宮川潤一氏

第1四半期の業績は、売上が前年同期比7%増の1兆5,357億円。営業利益は同じく23%増の3,039億円で増収増益という結果になり、第1四半期としては過去最高益を達成した。セグメント別にみても、全セグメントが増収増益となっている。純利益は1,625億円で、やはり11%の増益だ。

  • 売上高

    売上高は前年同期比で7%の増収。第1四半期としては過去最高の売上となった

  • 営業利益

    営業利益も前年同期比で23%増。こちらも第1四半期としては過去最高益

  • セグメント別売上高

    こちらはセグメント別の売上高。全セグメントで増収となっている

  • セグメント別営業利益

    同じくセグメント別の営業利益も全セグメントで増益

  • 第1四半期連結業績のまとめ

    第1四半期連結業績のまとめ

2024年度通期の業績予想に対しても、営業利益が進捗率34%、純利益が33%と、順調に推移している。中でもファイナンスセグメントは進捗率189%と通期の業績予想を大幅に達成。長期ビジョン実現に向けての第2フェーズにある2023年度~2025年度の中期計画も、前倒しで進捗しているという評価だ。

  • 通期業績予想に対する進捗率

    2024年度通期の業績予想に対する進捗率

  • セグメント別進捗率

    セグメント別の進捗率

  • 長期ビジョン

    長期ビジョンの実現も前倒しで進捗しているという

コンシューマ事業

同社の事業の売上・利益でもっとも大きな割合を占めるコンシューマ事業(モバイル/ブロードバンドなど)は、2%の増収、6%の増益。2023年度の後半からモバイルの売上が増収基調に転じており、そのトレンドが継続しているという。スマートフォンの契約数は4%増で、Y!mobileの増加が目立っている。

  • コンシューマ事業の売上高

    コンシューマ事業の売上高

  • コンシューマ事業の営業利益

    コンシューマ事業の営業利益

  • モバイルの売上高、前年同期比の推移

    モバイルの売上高、前年同期比の推移。長らく減収トレンドだったところ、2023年度後半から増収に転じている

  • スマートフォンの累計契約数

    スマートフォンの累計契約数

エンタープライズ事業

エンタープライズ事業はモバイル/固定通信はほぼ横ばいとなっているものの、ソリューション等が順調で10%の増収、3%の増益となった。

  • エンタープライズ事業売上高

    エンタープライズ事業の売上高

  • エンタープライズ事業の営業利益

    エンタープライズ事業の営業利益

メディア・EC事業

メディア・EC事業は、売上が6%の増収、営業利益が74%の増益。ただしこの営業利益にはLINE株式会社のAIカンパニー事業をLINE WORKS株式会社に承継したことによる事業譲渡益などの一過性要因が含まれており、それを除くと前年同期比で20%の増益となる。

  • メディア・EC事業の売上高

    メディア・EC事業の売上高

  • メディア・EC事業の営業利益

    メディア・EC事業の営業利益

なおメディア・EC事業関連では、LINEヤフーの経営課題への対処状況も報告された。まず、不正アクセスによる情報漏洩の再発防止については、7月1日に総務省へ報告書を提出するなど、対策が着実に進捗しているとした。また、LINEヤフー株式会社の流通株式比率が低く東証プライム市場の上場基準を下回っている問題については、8月2日にLINEヤフーが自己株式の公開買い付けを発表し、LINEヤフーの親会社であるAホールディングスがこの買い付けに応募することを決議している。LINEヤフーは公開買い付けの後、自社株式の消却を行って流通株式比率を高める方針で、それによって東証プライム市場の上場基準を達成を目指すという。

  • LINEヤフーの経営課題への対処状況

    LINEヤフーの経営課題への対処状況

なお、今回の株式公開買い付け(およびその後に予定されているLINEヤフーの自社株式消却)の後も、ソフトバンクとNAVERがAホールディングスの50%ずつを保有している状況は変わらず、LINEヤフーに対して両社が影響力を持つという状況は変わらない。LINEヤフーは総務省からネイバーとの資本関係見直しを含めた検討を求められている状況だが、資本関係の見直しについて宮川社長は「短期的に結論を出すことが難しい」「ソフトバンクとNAVERの事業戦略を判断基準として今後議論を継続してまいりたい」と語るにとどまった。

  • 2024年6月30日時点のソフトバンクグループ主要会社の議決権所有割合

    2024年6月30日時点のソフトバンクグループ主要会社の議決権所有割合。「当社」とあるのがソフトバンク株式会社

ファイナンス事業

ファイナンス事業は、売上が20%の増収、営業損益も75億円の改善で黒字転換と好調。PayPayは連結売上高で19%の増収、連結EBITDAで2年連続の黒字となり、四半期ベースで初の黒字化になったという。SBペイメントサービスの決済取扱高は前年同期比21%増で、このセグメントについては順調のひとことのようだ。

  • ファイナンス事業の売上高

    ファイナンス事業の売上高

  • ファイナンス事業の営業利益

    ファイナンス事業の営業利益

  • PayPayの連結売上高

    PayPayの連結売上高

  • PayPayの連結EBITDA

    PayPayの連結EBITDA

  • SBペイメントサービスの決済取扱高

    SBペイメントサービスの決済取扱高

次世代インフラ構築

次世代インフラの構築については、AIデータセンターの構築について、シャープ堺工場跡地へのAIデータセンター建設について進捗を報告。土地・建物だけでなく電源設備や冷却設備なども転用することで、早期の展開が可能だという見通しを示した。このほか、生成AI時代のマーケットリーダーを目指すための成長投資を行い、それも含めた財務基盤強化として2,000億円規模の社債型種類株式の発行登録を行うことを発表した。

  • シャープ境工場跡地でのAIデータセンター建設のメリット

    シャープ境工場跡地でのAIデータセンター建設のメリット

  • 2,000億円規模の社債型種類株式発行

    2,000億円規模の社債型種類株式発行

質疑応答

宮川社長のプレゼンテーションに続いては質疑応答の時間が設けられ、宮川社長が対応した。以下に主なやりとりの内容を紹介する。

――総務省でNTT法についての議論の論点整理があった。今後の議論についての意見を。

宮川:何度も言っているとおり、特別な資産を有して公共的な役割を担うNTTにはNTT法による規律が必要と考えている。他の事業法でもカバーできるというが、その議論をする時間があるなら、セキュリティやインフラの話をするべきだという考えは変わらない。是々非々で議論をするが、これまでの見解を変えるつもりはない。

――楽天モバイルが契約数を伸ばしていることへの受け止めと、それへの対抗策は。

宮川:デイリーで数字を見ていて、(楽天モバイルが)春先くらいからえらくがんばって見えるとは感じている。ただソフトバンクへの影響はほとんどない。純増分が我々が見ていたマーケット以外のところから湧いているのではないか。がんばっていただいて、“4大キャリア”と言われるポジションまできていただくほうが健全じゃないかと思う。LINEMOはベストプランを発表して、「楽天への対抗でしょう」と言われるが、そのとおり。中容量をほしいというお客さんの声が大きかったので、投入してみたら見込みより好調で、やってよかったと思っている。

――先月・今月と通信障害が相次いでいるが、その原因は。

宮川:まず迷惑をおかけしたことをお詫びする。7月の23日と28日、8月2日と通信障害が続いたが、それぞれにつながりがあるわけではなく、バラバラに起きたこと。7月23日と8月2日の障害はVoLTEの交換機がリブート/ハングアップしたもので、7月28日の障害はMMEの交換機のリスタートがあった。障害の原因はわが社の夏ボケのようなもので、緊張感をもって対応できていなかった。現場には夏休み返上で対応をしてもらっている。

――PayPayの黒字化が思ったより早かったということだが、現在の評価と今後をどう見ているかを教えてほしい。

宮川:PayPayの黒字化は、今期中にはあると思っていたが、第1四半期からとは思っておらず、下期くらいからと予測していた。ある程度の会員数があるサービスなので、いちど黒字化すればそう簡単にはおちてこないはずなので、これから収益の柱となってくれると思っている。これまで「IPOするなら黒字化してから」と言ってきており、IPOの期待感も高まっているかもしれないが、判断はPayPayの取締役会にゆだねる。ただ、まだまだ成長できるし、当面は資金調達の必要もないので、急がなくていいとは言っている。

――先日発表されたドコモの「eximoポイ活」への受け止めは。

宮川:ソフトバンクの「ペイトク 無制限」にあたるものだと思うが、われわれはポイントの付与のしかたをシンプルにしており、「ペイトク 無制限」のほうが使い勝手はいいのではと思っている。auや楽天を含めて、おのおのの経済圏でこういったサービスが出てくるのはよいことで、経済圏の広さを競い合うフェーズになっている。ソフトバンクも第二の「ペイトク」のようなものも考えたい。

――第1四半期の解約率が高まっているように見えるが、その要因をどう考えているか。

宮川:SIMのみ契約して短期で乗り換えるというユーザーが一定数いる。獲得がしやすい要因でもあるが解約率を押し上げてもいる。低ARPU層にあたるので決算への影響は小さいが、本来我々が育てたい(長期利用の)ユーザーの利益が獲得インセンティブとしてそちらに流れてしまっているわけなので、手をうちたいとは思っている。SIM単体へのインセンティブをみんなでやめることはできないかと思うが、1社が先駆けてやるというのは勇気がいる。様子をみているが、対処したいとは考えている。

――モバイルの増収増益に、経済圏と結びついた上位プランの貢献は大きいか。

宮川:我々は高ARPUの「ペイトク」ユーザーからY!mobile/LINEMOまで持っている。大事なのはベストミックス。「ペイトク」単体がどうこうという話ではない。

――楽天モバイルがプラチナバンドの供用を開始して、CMなども展開しているが、現状への受け止めは。

宮川:他社の話なので大声でコメントはしたくないが、国から電波を割り当てられたMNOとしてその責務を果たすよう投資をしてほしい。いまはその部分があまり機能していないのではないかと思うが、もう少し投資をしてくれればそれが機能するのでは。

――この第1四半期にY!mobileが10周年を迎えたが、直近の契約数などの状況およびソフトバンクへの乗り換えのテコ入れなどについて教えてほしい。

宮川:契約数は1,200万件ほど。同じネットワークでソフトバンクとY!mobileが違う料金でサービスを提供しているということで、差別化ポイントを見つけながら運営している。Y!mobileとして狙うのは低ARPU/中ARPUユーザーで、高ARPUはソフトバンクと分けている。Y!mobileとソフトバンクの間のMNPは、この第1四半期が出入りがトントンくらい。ソフトバンクで「ペイトク」を始めたことで、ソフトバンクのポジションができてきた。これにLINEやPayPayが入ってきて、いろんな商品を作っている。これまでの10年より、これからの10年のほうがやりやすいのではないかと考えている。

――4月に衛星電話サービスの障害があり、8月末をもってサービスを終了するということになったが、この経緯は。

宮川:これもお詫びしなければならない。サービスに利用しているThurayaの衛星が突然リンクダウンし、日本をカバーしている衛星が故障してしまった。Thurayaからは他の衛星でカバーするという話もあったが、計算してみてもそれではカバーしきれないという判断で、サービス終了となった。8月末で終了としたのは、ずるずると対応していてもしかたないので、期限を決めたもの。

――現在、OpenSignalの調査でソフトバンクのネットワークの評価が高い。これに対して、ドコモの前田社長が「1位を取る」と言ったり、KDDIが衛星干渉の緩和でSub6の2ブロック化を進めようとしている中で、ソフトバンクはそれに伍していけるのか。

宮川:都内では現在、基地局のキャパを有効に活用できていて、つながっているのに送受信ができないという状況はない。ただ、昔は下りの通信ができさえすればよかったのが現在は上りも必要となっているように、状況が変われば見直しが必要になる。いま成績がよいからといって、胸を張っているわけではなく、ヒヤヒヤしている。KDDIがやるよいことは真似しようと思っているし、ドコモがいつまでも3番手・4番手に甘んじているということもないだろう。競い合いはいいことだと思うので、主戦場で張り合っていきたい。

  • 発表内容のまとめ

    この日の発表内容のまとめ