「DEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)」の推進に長らく力を入れている電通デジタル。慶弔金や休暇などの福利厚生制度において同性パートナーも対象にしていたり、性別適合手術、ホルモン治療のための特定積立休暇制度も設けるなど、その取り組みは他企業と比較しても先進的だ。
そんな電通デジタルが最近、新たにアライプロジェクト「DD ALLY for all」を発足したという。アライ(Ally)とは「LGBTQ+の当事者たちに共感し、寄り添い、支援する人」のこと。この新プロジェクトはどういった経緯で生まれ、どのようなクリエイティブで、何を目標に活動しているのか。プロジェクトメンバーのひとり、小島瑞生さんに話を聞いた。
▼すべての社員が働きやすいよう発足した「DD ALLY for all」
ーーまず、簡単な自己紹介をお願いします!
普段はアートディレクターとして、ブランディングやデジタル媒体を中心としたUIUXなどのデザインディレクションを行っています。
ーーアライプロジェクト「DD ALLY for all」の活動について教えていただけますか?
すべての社員が働きやすい職場を目指し、多様性の理解とアライ支援を促進しています。「性」のかたちは本当にさまざまで、実は「出生時は男性」「心は女性」など、グラデーションになっている人もすごく多いんです。なので、「男性だからこう」「女性だからこう」という考え方をこのプロジェクトを通じて塗り替えていきたいと思っています。
具体的には、「アライ認定制度」を設けて社内で賛同者を募ったり、LGBTQ+当事者が不安や生きづらさを感じるような出来事を4コマ漫画などにして啓発につとめています。今年ローンチしたばかりなので、これからさらにアウトプットを強化していきたいと考えています。
ーー小島さんが「DD ALLY for all」に関わるようになったキッカケなどはありますか?
このプロジェクトの代表を務めている弊社の副社長・小林大介から、「DD ALLY for all」の漫画コンテンツをはじめとしたクリエイティブパートで参画しないかと直接声をかけられたことがきっかけです。
ーー「DD ALLY for all」が発足された経緯について教えてください。
もともと電通デジタルは、すべての社員が働きやすいようDEIを推進してきました。ただ、DEIを推進している組織がDEIについてアナウンスしても、社員一人ひとりにはなかなか届きづらいという課題もあったんです。そこで役員クラスの協力を得て、トップダウンでアナウンスしていこうという方針になったようです。
その結果、小林がLGBTQ+分野のスポンサー役員(DEIテーマで、自らの言葉での情報発信や各テーマのプロジェクトを推進していく役員)に就任し、そこに東京レインボープライドに参加していたメンバーたち5~6人が集まって「DD ALLY for all」がスタートしました。昨年末くらいのことですね。すぐにクリエイティブチームも合流し、今は10数名のメンバーで活動しています。
▼LGBTQ+への理解を促進するクリエイティブ
ーー先ほど少しお話しに出た「アライ認定制度」とはどのような制度なんですか?
電通デジタルでは、次の5項目に同意してくれた社員をアライ認定していて、賛同者は日々増えています。
【1】人の数だけ性があると理解すること
【2】性を決めつけない会話に努めること
【3】性のマイノリティにまつわる問題は社会的な人権課題だと理解すること
【4】本人の同意なく公にしていない性的指向を暴露しないこと
【5】電通デジタルのパーパスである「人の心を動かし、価値を創造し、世界のあり方を変える」ためにアライとして活動すること
この5箇条に同意してくれた社員をアライ認定していて、賛同者は日々増えています。認定は社内コミュニケーションツールに投稿しているフォームを通して受けられる仕組みで、クリエイティブチームが作った漫画とセットで「ぜひ認定を受けてくださいね!」とアウトプットしています。
ーー漫画はどのようなテイストになっているんですか?
セリフベースで作ったシナリオをクリエイティブチームのメンバーが四コマ漫画にしていて、主に職場や居酒屋などといった日常のワンシーンを舞台に、LGBTQ+への理解が深まるようなメッセージを発信しています。文字ではなく、漫画というスタイルを取ったことで、みんなの想像力も掻き立てやすくなっているのではないかと思っています。
ーー確かに、漫画になっていると自然と読みたくなるかもしれませんね。
あとは壁紙ですね。アライ認定を受けたみなさんに、web会議の背景に使える壁紙を配っているんです。一般的なレインボーカラーをベースにクリエイティブチームがレインボーを各自で再解釈して、オリジナルの壁紙を作りました。これを使用することで、「わたしはアライです」とさりげないアピールに使ってもらえたら嬉しく思います。
ーーロゴもクリエイティブチームが作成したんですか?
はい。ただ、ロゴを作る前に、まずはそもそもの活動目的を言語化して、共通認識を持とうというところから始めました。電通デジタルにはもともと「現状を直視して、互いを認め合うこと。互いの立場を想像し、想いを寄せられること……」といったDEIのステートメントがあり、我々の活動はそのステートメントの一部なので、常に連携を意識することが重要だと考えています。
なかでも我々はアライに特化した活動をするわけですから、その目的を整理するために活動目的を言語化したり、社員の中でもどういった人をコミュニケーションターゲットとすると良いのかを明確にしました。その言語化を経て、クリエイティブチームがロゴをいくつか作り、最終的には視認性やどの性別にも寄らないことなどを重視し、今のロゴに落ち着きました。
ーーターゲットはどの層に設定したのでしょう?
LGBTQ+に関する教育を受けてきた若い社員たちは基礎知識も比較的備わっている一方、あまりそうした機会がなかったであろう30~40代前後の社員の方を、今回は主なターゲットに設定しました。
ーーこの活動を通して、何かLGBTQ+のみなさんからのリアクションなどはありましたか?
「何か一緒にできませんか」というお問い合わせをいただいたりしました。やっぱり嬉しいですよね。LGBTQ+の当事者とそうでない人が一緒に取り組むことで、偏りもなくなっていきますし。
当事者を置き去りにするのもよくないし、かといって当事者じゃない人間が独りよがりになってもよくないので、双方の目線が不可欠。もっといろんな当事者がメンバーとして参加してくれたら嬉しく思います。
▼全員が「電通デジタルで働いてよかった」と思える職場へ
ーープロジェクトの今後の目標を教えてください。
まずはアライ認定を受ける賛同者がもっと増えるよう呼びかけていきたいですね。社員のなかには、「アライに共感できるけど、あえて認定を受ける必要もないかな」というスタンスの人もいると思います。でも、認定を受ける人が増えることで、当事者のみなさんは勇気づけられるかもしれませんから、ぜひアクションを起こしてほしいと思います。
また、社内コミュニケーションツールでのアウトプットだけだとどうしても埋もれてしまうので、それ以外での呼びかけも考えようと思っています。例えば、アライメンバーの交流イベントもやってみたいですね。
ーーそれは素敵なイベントになりそうですね!
あとはとにかく、全員が自分らしく生き生きと仕事できる環境づくりをすること。DEIのステートメントには、「様々な視点で考え、態度と行動をアップデートすること。ゴールは、それぞれの立場で最高の活躍ができること。」という文言もあります。
やはりこの活動の最終目標も、当事者も含めた全社員が「電通デジタルで働いてよかった」と思える会社にすることだと言えると思います。あくまで心情の問題なので、なかなか数値化はできない部分はありますが、お互いに配慮し合えるハッピーな職場をつくれるよう邁進できればと思います!
電通デジタルのDEIをさらに推進すべく立ち上がった新プロジェクト「DD ALLY for all」。どの企業で働いている人でも、先駆的な取り組みから学べることは少なくないはずだ。