スタンフォード大学医学部やアップル、フェイスブック(現メタ)、ナイキ、など世界の名だたるトップ企業がリーダーシップ育成に採用している、牧場研修。
日本の牧場研修の第一人者である小日向素子さんは、牧場研修から得られる「ナチュナル・リーダーシップ」を身につけるために、これまで学んできた知識を捨てて新しく学び直す「アンラーニング」という考え方が重要だと言います。
ここでは、「ナチュラル・リーダーシップ」を身につけるための「アンラーニング」について、小日向さんの著書『ナチュナル・リーダーシップの教科書』(あさ出版)の内容から解説します。
■「本当の自分」を見失っているリーダーは少なくない
「今のあなたは、本当のあなた自身ですか?」
この問いに、皆さんはどう答えますか?
30代半ばで外資系企業の部長職に就いた私は、社会人として、リーダーとして、自分なりに様々なことに励んできました。しかし、ナチュラル・リーダーシップを身につける前は、こうした類の問いに対して、うまく答えられなくなっていました。
牧場研修をしていて気づいたことですが、既存の社会にある仕組みの中で評価されてきたリーダー(トップ層)の方々にもよくみられる現象です。
社会の要求に応える形でdoingを鍛えることに注力し、努力によって成功を重ねてきた一方で、ご自身のbeingについて考えを巡らす機会がほとんどなく、「本当の自分」を見失っているからでしょう。
周囲の期待するdoingを実行するために「最適なbeing」を悟り、それこそが「あるべき自分」だと勘違いしている方も少なくありません。仕事とプライベートを完全に分けて、ビジネス用の別人格をつくりあげる方も、往々にしていらっしゃいます。
つまり、よきリーダーであるがために、あなた本来のbeingとは違う新たなbeingを身につけ、鎧のようにまとい続けているうちにその状態が定着してしまい、「今のあなたは、本当のあなた自身ですか? 」という問いを突き付けられた時に答えられなくなってしまうのです。
その鎧を何重にも被った状態のリーダー(トップ層)が、本来の最適な「being」を鍛え直すことができるのが、アンラーニングです。「鎧を脱ぐ作業」と言い換えることもできます。
鎧を脱ぐのは、気恥ずかしく、見たくないものを見るような痛みを伴うこともありますが、本来の自分のbeingを取り戻すためには必須です。
この鎧をつくりあげている代表的存在が、「固定概念」です。「固定観念」というものがいかに強固で、剥がすのが大変か。まずはそのことについて、お話ししましょう。
■あなたの行動と可能性を狭めているのは、身につけてきた経験と考え方
牧場研修にいらっしゃるリーダーの方々は、「リーダー同士で確執がある」「チームが一枚岩にならない」といった悩みを口にされます。
50代以上の方からは、「今の若い人は何を考えているかわからない」という言葉がよく聞かれます。
「海外にルーツを持つスタッフとのコミュニケーションに悩む」と言う方も、近年、激増しました。
これらの課題感の背景にはいずれも、「固定観念」や「思い込み」が関わっています。例えば、以下のような具合です。
・「リーダー同士で確執がある」「チームが一枚岩にならない」
→「社長(ほかの役員)は違う意見に耳を貸さない」「皆が自分の部署ばかりを優先する」という固定観念
・「今の若い人は何を考えているかわからない」
→「若い人はやる気が薄い」「根性がない」という固定観念
・「海外にルーツを持つスタッフとのコミュニケーションに悩む」
→「海外の人は自己主張が強い」「論理ばかりで情がない」「仕事よりも家族中心」という固定観念
このように、あらゆる課題において、高い確率で固定観念や思い込みが介在しています。 しかも、当人はほとんどの場合、その事実に気づいていません。自覚がないまま無意識に、思考が縛られてしまっているのです。
ここでいう「固定観念」とは、「〇〇は××である」という、自分の中に強く染み付いた考えを指します。いったん凝り固まってしまうと、他者の意見に耳を貸したり、周囲の状況に合わせて考えを変えたりできません。
なぜなら、これまで培ってきた知識、学び、経験などからたどり着いた考えであり、その人が築いてきた財産ともいえるからです。この大事なものを厄介な「固定観念」と言われても、戸惑うことでしょう。
しかし、時を経るにつれ、財産であったはずのものが柔軟な発想や適切な判断をする際の妨げとなり、行動や可能性を、無意識のうちに狭めてしまっているのもまた事実なのです。
多様な判断を下せていたとしても、その判断軸が、固定観念に寄ってしまっていることもあります。
まずはそのことを受け入れることが重要です。
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変化が激しく予測不可能なこれからの時代において、世の中の流れや状況に応じた判断をするためには、自分の考えを見直し、新しい考えを取り入れる柔軟さが大切です。
特にリーダーは、チームのメンバーや企業・組織の可能性を探り、伸ばしていくことが求められます。
誰よりも先に時代の流れを読み、変化を受け止め、柔軟に対応できる自分であるためのアンラーニングです。
小日向素子
株式会社COAS Founder,Owner。東京都生まれ。国際基督教大学卒業。NTT(日本電信電話株式会社)入社後、外資系企業に転じ、マーケティング、新規事業開発、海外進出等を担当。2006年、グローバル企業の日本支社マーケティング部責任者に、女性として世界初、かつ最年少で就任。2009年独立。新たな学び・成長プログラムの開発を始動し、馬と出会う。2016年株式会社COAS設立。欧米各国の馬から学ぶ研修を巡り、米国EAGALA認定ファシリテーター取得。同時に、組織開発、リーダーシップ、コーチングを学び、スイスIMD Strategies for Leadership修了、キャリアコンサルタント試験合格、ICF認定コーチングコースアドバンスト受講。2017年、札幌に牧場を持ち、馬から学ぶリーダーシップ研修を導入。株式会社資生堂をはじめ様々な業種の企業研修として活用されるほか、エグゼクティブ、リーダー、起業家等、延べ2000名を超える受講者を輩出している。本書が初の著書。