話題のガレージ「ポルテック」で見た、正しいポルシェの「3つの特別」

旧ミツワ時代のメカニックを擁するなど、空冷のファナティックらを中心にここ一年ほど話題のガレージ、それが御殿場の「ポルテック」だ。パーツ供給や設備、技術と経験以上に、ポルシェのレストア&メンテナンスに欠かせない要素とは何か?実際に訪ねてみた。

【画像】ベテラン・メカニックが、若いメカニックに経験やノウハウを伝えながら腕をふるう、ポルシェのレストア&メンテナンスガレージ(写真8点)

1.膨大な資料の特別な知識

「ポルシェの専門ガレージ、しかも356から993までの空冷が多いとなると、敷居が高いように思われがちですが、我々はメンテナンスを必要とする旧いポルシェなら、どのモデルも歓迎。928から968の FR系も少なくないですよ」と工場長の堀田昌秋さん。幅広い年式に広がるポルシェのラインナップを、なぜ年式問わず正しく直せるか?それはまず人財面の充実。ポルテックでは元ミツワのベテラン・メカニック2名が、若いメカニックに経験やノウハウを伝えながらその腕をふるっている。さらにポルテックが大切にするのが旧ミツワのワークショップ・マニュアルなど、時間をかけて集めた膨大な資料の山だ。

「正式に発表されていない仕様変更など、ポルシェは年次改良で性能やクオリティを追求していたところがすごいわけですが、だからこそ旧いポルシェは知識と経験を要すると言われます。でも、メカニックの勘に頼っていては安定したメンテナンスサービスは提供できないじゃないですか。この旧ミツワの資料は細かな年次改良や新車時の欠点などをキチンと記録していて、メカニックの誰もが同様の対策や整備ができるようになっています。これだけの資料を集めたのは、当時のメカニックの知識をいまの若いスタッフと共有するためでもあるんです」

それは、メカニック一人一人が感覚やセンスで問題や不具合に向き合うのではなく、解決方法が世代を超えて再現性あるノウハウとして、引き継ぐことができるということ。しかもそれを何年も繰り返してきたベテランが、今もここで作業を続けているのだ。

「ベテランメカニックに教育を受けたスタッフたちは記憶を頼るとかヤマを張って作業しません。それが旧いポルシェを再び走らせられるよう直すことへの、いちばんの近道なんです」

工場長を務めるベテランメカニックの堀田さんでさえ、今なお資料のアーカイブから仕様やデータ、年毎の変更点などを確認してから実行する作業はあるという。

「そうすることで、なぜこのパーツがこの年式・車種についているか、換えられているか否か、合う・合わないといったことが分かります。新車時に整備した個体が再び入庫してくることもありますね」とは、メカニックの小野さん。35年以上もポルシェのメカニックとしてキャリアを重ねてきた。964や930が新車だった時代、修理で入って来た当時ではさらに旧い年代の910系や356をも、つぶさに見てきた。ヘッドガスケットのような細かな消耗パーツについても世代ごとの変遷や特徴が、指先にまで沁みついているそうだ。

2.最高を保管し届けるストレージサービス

ガレージ内の4基のリフトは真新しい一方で、ベテランのメカニックらが用いる主だった工具や、エンジンハンガーをはじめとする車種ごとの専用治具は、ドイツ本社から支給されていた年季ものだ。往年のポルシェに用いられているボルト類への噛み込みやアタリがよく、なめたり欠けたりが起きたことはついぞ、皆無だとか。

他にも長年のポルシェ・ファナティックに馴染み深いサービスとしては、雨の日には納車をあえて見送ること。当然、整備や修理作業を待つために預けられたポルシェは、絶対に長時間、露天に置かれることもない。その延長としてストレージサービスも行っている。定期的なメンテナンスまたはエンジンに火を入れることが欠かせない、あるいは自宅に一時的に置ききれないが大切なポルシェを、室内保管してくれる。その上イベントなどで必要な際にはあらかじめローダーで運んでもくれるそう。もちろん走行前に、必要欠かさざるメンテナンスを依頼して、コンディションの整った状態で車を受け取ることが可能だ。

3.知識と経験豊富なメカニック

大人数ではないが充実した整備体制とサービスを提供する点で、ポルテックのコア・コンピタンスはプロのレーシングチームに似ている。レストアも手がけるが、ただ美しく蘇らせるだけではなく、いかに新車の状態に近づけるか、機関として当時のメーカーが求めた性能通りに作動するよう戻していくことを目標としている。見た目については、年式相応の経年変化を鑑みた上で仕上げる、そこはクラシック・ガレージらしさだ。

「先ほど話したように、資料が充実して作業アプローチに無駄がなく速い分、整備修理として安く仕上がるのも我々の特徴。しかもベテランのメカニックたちなので、機関のどこを下ろすかバラすかの判断が速いんですよ。だからふつうのショップなら躊躇するようなエンジンの腰下に手を入れるのも、得意といえますね」

取材当日は、関西でバーンファウンドされた911ターボのエンジンがガレージの一隅で、見事にバラされていた。赤く錆びついたターボチャージャーはこれからドライアイスブラストで磨かれる。スタッドボルトがすべて折れていた3リッターのフラット6は、ヘッドやバルブだけでなくクランクまで状態を確かめながら、作業が進められていた。

「993まで基本構造が変わらない点ではシンプルな車ですが、そのパフォーマンスを担保するために構成部品が多くて機械として精密な分、手がかかるのが911」

人材と細かに記録された資料、最新で最適な設備に現代的サービス、そして時間を超えるほどの情熱。整備する側も手のかけ甲斐がある車だからこそ、乗り手に伝わるのだ。

PORTECH

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文:南陽一浩 写真:高柳健

Words:Kazuhiro NANYO Photography:Ken TAKAYANAGI