アナログレコードのブームが再燃し、レコード再生を楽しむ若い方が増えてきました。市場ではレコードプレーヤー本体にスピーカーを組み込んだ安価な製品が人気ですが、最近はBluetooth接続が可能なプレーヤーがシェアを伸ばしています。
そんなBluetooth対応レコードプレーヤーと組み合わせているのは、どんなBluetoothスピーカーでしょうか?
もちろんコンパクトな一体型スピーカーでも音楽を聴くことはできますし、実際のところ、筆者もその組み合わせで不満を覚えてはいませんでした。しかし、それではもったいないかもしれません。そう思わせてくれたスピーカーが、オーディオテクニカから7月に新登場した「AT-SP3X」(直販29,700円)です。
オーテクのめざす音作りが徹底されたBluetooth対応パワードスピーカー
オーディオテクニカはイヤホンやヘッドホン、マイクなどで有名ですが、なんといってもレコード再生に力を入れているブランドと言えます。AT-SP3Xはまさにそれを象徴するように、「オーディオテクニカのアナログ製品に最適化した音質設計」を施している点が大きな特徴です。
AT-SP3XはあくまでBluetooth“対応”スピーカーであり、その本質はパワード(アクティブ)スピーカーというアンプ内蔵型スピーカーです。そのメリットは、個別にアンプを用意する必要がないため、省スペースで費用も抑えられることに加え、アンプとスピーカーを一貫して設計できるため、よりブランドの目指す音作りがしやすいという点にあります。
つまり、本体の設計から内蔵DSPのチューニングまで自社で手がけることで、「オーディオテクニカのアナログ製品に最適化した音質設計」が実現できるわけです。
スペックを細かく見ていくと、AT-SP3Xは片側につき113×136×200mm(幅×奥行き×高さ)というサイズの本体に、76mm径ウーファーと27mm径ツイーターを搭載。内蔵アンプ出力は最大30Wで、部屋で鳴らすなら十分すぎるほどのボリュームが確保できます。
さらに本体には堅牢なMDF素材を採用して不要振動を抑え、バスレフダクトで低音を強化。高音域を適度に拡散するツイーターグリルも搭載するなど、しっかりと音質向上のためのオーディオ的な作り込みがなされています。
Bluetoothスピーカーとしてうれしいのは、最大2台の機器に同時接続できるマルチポイント対応であること。
たとえばレコードプレーヤーとスマートフォンに同時接続できるので、レコード再生が終わったらすぐスマートフォンからサブスク音源を再生する、といった操作がスムーズに行えます。コーデックは標準的なSBCのみ対応で、aptXやLDACなどの高音質コーデックには非対応なのが残念なところ。
ちなみに、AT-SP3XはアナログRCAでの有線接続にも対応しています(ケーブルは別途用意する必要があります)。パソコンなどと接続してゲームを遅延なく楽しむなど、音楽再生以外の用途でも活躍できそうです。
本体は想像以上に軽く、設置しても圧迫感がありません。机や棚の上などに左右本体分のスペースを確保するのは、それほど難しくなさそうです。
操作系統は右側のスピーカーに集約されていて、ボリューム調整や電源オン/オフ、有線と無線接続の切り替えは本体側面から行えます。ペアリングのみ背面にボタンがあるのは不親切にも感じますが、これは最初に設定した後はあまり使う機会がないからでしょう。
実際、最初にスピーカーを起動した際は自動でペアリング状態になったため、一度もペアリングボタンを押すことなく接続が完了しました。もしそのタイミングでペアリングがうまくいかなくても、ペアリングボタンを押すとすぐにペアリングモードに移行するため、こういった機器の扱いに慣れていない方でも、迷うことなく設置できるはずです。
オプションとしてシール式のゴム脚が付属しますが、あまり目立たず外観を損ねないので、外部からの音質への影響を防ぐためにも基本的には装着するのがオススメです。
響きが自然な広がりあるサウンド。アコースティック楽曲に合う
オーディオテクニカのレコードプレーヤー「AT-LP60XBT」とBluetooth接続して聴いてみると、ワンボディのBluetoothスピーカーと比べて、音の広がり方が明らかに異なることがわかります。
音が広がると言っても、ボヤけてしまうようなことは一切ありません。たとえるなら、ボーカルもギターもベースもドラムも一カ所にギュウギュウに集められていた状態から、それぞれ適切なボジションに広がって演奏できるようになったようなイメージです。団子になっていた音に良い意味でスキマが生まれ、それぞれの存在を余裕を持って感じ取れるようになります。これは左右のスピーカーが分かれていることの優位性でもあるでしょう。
また音像にピントがあっていて、再生音に実体感が伴っています。こうした再現性により、スピーカーで聴いていることを意識させないリアルさが得られています。低音は一般的なBluetoothスピーカーがブーミーに感じられるほど引き締まり、けれど量感はたっぷり。ただ大きく鳴らすのではなく、音楽のバランスを保つラインで整えられているのでうるさく感じさせません。
特に、アコースティックなボーカル曲とは相性が良いように感じます。響きが自然で、余韻が空間に溶けていくさまは聴いていて気持ちが良いです。また中低域〜中高域の再現性に特徴があり、ボーカルが一歩前に立ったように歌声がクリアに際立ちます。小編成のオーケストレーションも美しく、BGMとして流していた音楽を真正面から聴きたくなるような魅力があります。
逆にロックやEDMなどは好みが分かれそうな印象で、キレイな鳴り方をするだけに、もう少し荒々しい音の方が楽しめるという意見もありそうです。裏返せば音への色づけの少ないスピーカーということなので、それを踏まえるとまた違った聴き方ができるかもしれません。
またAT-SP3Xは、もちろんレコードプレーヤーとの組み合わせ以外でも活躍します。スマートフォンとBluetooth接続しても、上述した音の傾向から大きく変わらないため、レコードの次はSpotify、といった具合にマルチポイントを有効活用してどんどん音楽を再生したくなります。
ワンランク上の体験ができる「高音質スピーカー」のエントリーモデル
ここまでの内容をまとめると、AT-SP3Xは「高音質スピーカーのエントリーモデル」としてオススメできる製品です。
ワンボディのBluetoothスピーカーと比べて、左右スピーカーをケーブルでつなぐなど設置面では多少の不便はあります。ただ、音質の面でその不便さを帳消しにするメリットがあると言えます。29,800円と安くはありませんが、老舗オーディオブランドが開発した左右独立のBluetooth対応スピーカーとして考えると、むしろエントリーの価格帯となります。
もし今の手持ちのBluetoothスピーカーに不満を覚えていなくても、あるいはレコードプレーヤーを持っていないとしても、より満足できる高音質スピーカーへのステップアップとして、AT-SP3Xをぜひ体験してみてください。