チャールズ・チャップリンによる名作映画を、日本で舞台化した音楽劇『ライムライト』が3度目の上演を迎える(8月3日~18日 東京・シアタークリエ)。かつて一世を風靡した老芸人・カルヴェロ(石丸幹二)を主人公に、舞台人の儚い宿命と、残酷なまでに美しい愛の物語を、ノスタルジックに描いている。

今回は、同作で作曲家・ネヴィルを演じる太田基裕にインタビュー。久しぶりの共演となる主演の石丸幹二の印象や、俳優として大切にしているところなどについても話を聞いた。

  • 太田基裕 撮影:友野雄

音楽劇『ライムライト』に出演する太田基裕

――今回、主演の石丸幹二さんとは8年ぶりの共演ということですが、いかがでしたか?

もう8年、時が経つのは早いなと感じます。だけど幹二さんも若々しいので、いい意味で相変わらず、マイペースで素敵な方だなと思いながら稽古させていただいています。

――今回も幹二さんの姿から教わることはありますか?

ずっと変わらないのが、穏やかさです。スッと笑顔でいてくれるし、幹二さんご自身も「できるかな」とか言いながらやってらして。そういう気持ちを吐露してくださるのはすごく助かるんです。こっちも「できるかな? 頑張ろう」と思えるし、その穏やかさは支えになりますし、この作品の温かさにつながっていくんじゃないかなと思ってます。癒やされますし、先輩ですけど、「かわいいな」と思いながら見ています。「かわいい、幹二さん」って(笑)

以前共演した『スカーレット・ピンパーネル』の時は、僕は「ピンパーネル団」の一員で、幹二さんとがっつり1対1でお芝居することはなかったので、今回はすごく新鮮だしドキドキします。その時の仲間もみんなそれぞれ頑張っているので、それを思い出すとすごくうれしいです。「ピロシ(矢崎広)もいたな」とか思いながら(笑)。今回の僕の役は、前に矢崎くんがやっていたので、いろんなところでつながるんだなと、感慨深いです。

――太田さんのファンの方は若い方も多いのかなと思うんですが、今回はけっこうしっとりとした作品でもありますよね。

でも、僕のファンにもいろんな方がいらっしゃる気がします。ファンレターとかを読むと、お母さんが僕のファンで、娘さんは僕より若い俳優のファンとかで、一緒に来るという方も多くて、「あ、このパターン来ました。お母さんどうぞどうぞ」みたいな(笑)。「娘に連れて来られてファンになりました」という方もいらっしゃるので、今回はお母さんたちにもぴったりだと思いますし、「次は娘さんを連れてきてください」と。「こういうお芝居もあるんだ」と広がると思いますし、ぜひ観に来てほしいです。

「自分、愚か!」と思いながら「良くなればいいんじゃないかな」

――太田さんご自身は、俳優として目指している像はあるんでしょうか?

それが、まったくなくて。だから毎回毎回いただいた役を通して、自分が学んで変化し続けるという感じです。現場で出会った方や作品の内容、役から感化されて、また次に行って経験を活かしてトライして、ということをただ積み重ねています。この先の出会いによっても変わっていくんだろうな。自分の中でのロールモデルもないんです。

――太田さんのSNSなどを見ると、「X(Twitter)の人だ」というような印象もあります。

“ツイ廃”ってことですか? そうかもしれないです(笑)

――普通の感覚を持っているような印象もあります。そういうところはご自身では感じたりされるんでしょうか?

どこかで「同じ人間だし」というところがあるので、なるべく俳優としての境目をなくさないと、いろんな役をできないんじゃないかという感覚はあります。「自分は違う」と思っちゃうと、もう交われない。「みんな同じだ」というとこからスタートしていないと、共感も共有もできないんじゃないかなと自分に言い聞かせてます。特殊な仕事ではあるので、なおさら普通の感覚を持っておかないと、正しいこと・間違っていることの境目がわからなくなってしまいそうな気がします。なるべく皆さんと同じ目線でもありたいし、当たり前を共有していたいという気持ちがあります。

――そういう感覚はずっと持っていたんですか?

やっぱり、経験を重ねるうちにですね。自分の中で「ああ、無理しちゃったな」とか、「無理する必要なかったんだ」とか、反省を繰り返すうちに、「これがいいんじゃないか」と。もちろん自分でも今後はわからなくて、変わっていくかもしれないし、積み重ねだという気はしています。

――以前に取材をした時に「人間は愚かだから…」とおっしゃってましたが、似た感覚でしょうか?

僕、そんなこと言ってましたか!?(笑) でも、自分自身が「愚かだな」と思う瞬間が多いから、それでまた反省して、何かに挑戦して、自問自答の日々でしかないとは思っています。それでもやっぱり間違えるんですよね。間違え続ける。

でも、結局何でもそうなのかなって。先日まで出演していたミュージカル『ロミオ&ジュリエット』でも、「いつもどこかで戦争が起きてる」というセリフがあって、「愚かだよね」「でも繰り返すんだよね」と思いながら言っていました。そう言っているティボルト自身も、いろんなものを傷つけて苦しいのに、自分自身の心も傷つけるようなことを繰り返す。「自分、愚か!」「欲に負けた!」みたいな気持ちは常にあります(笑)。「情けない」と思いながら、でもそれが良さや愛らしさだったりもするし。“愚か”同士が頑張って、支え合って補い合って、良くなればいいんじゃないかなという気がします。

――ちなみに、俳優を始めた頃は今の自分の姿は想像していましたか?

今年で俳優生活15年なんですけど、まさかこんなにやっているとは想像してなかったです。毎年「どうなるかわからない」と思いながら過ごしてたし。ここから先も、想像できないことばかりです。今後どうなるんでしょうね? どんどん一般社会から離れていってる気がして、その寂しさは感じます(笑)。もう戻れない!

――逆に「もっとかましてやるぜ!」とか…

「かましてやるぜ!」というのは昔から全然ないんです(笑)

――それでは最後に本作を楽しみにしている方にメッセージをいただけたら。

落ち着くし、ゆったりと穏やかで、心の隙間にスッと入ってくるような音、セリフ、感覚が心に寄り添ってくれる作品です。ぜひ癒やされに来てほしいし、同時に情熱的なメッセージもあるので、熱いものを活力として持って帰っていただけたら嬉しいなと思います。僕の演じるネヴィルはかなり不器用な人物造形を作っているんですけど、情けないけど、まっすぐ純粋なところを愛しいと思ってもらえたら嬉しいなと思っています。

■太田基裕
1987年1月19日生まれ、東京都出身。2009年、ミュージカル『テニスの王子様』で舞台デビューし、以降様々な作品で活躍。近年の主な出演作にミュージカル『ジャージー・ボーイズ』(16年・18年)、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ(17年~)、ミュージカル『ローマの休日』(20年)、演劇調異譚『xxxHOLiC』シリーズ(21年~)、『HUNTER×HUNTER』THE STAGE2 (24年)、ミュージカル『ロミオ&ジュリエット』(24年)などがある。11月にはミュージカル『ストーリー・オブ・マイ・ライフ』に出演。