カーボンニュートラルの議論では悪者扱いされることもある自動車。ゼロエミッションに向けた「クルマの電動化」についても、地域によって違う発電事情などにより進展は不透明な情勢だ。クルマづくりと「サステナビリティ」は両立できるのか。日産自動車で聞いてきた。

  • 日産の「サステイナビリティの取り組みに関する説明会」

    クルマづくりとサステナビリティは両立可能? 日産の考えは

「統合報告書2024」とは

長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」への取り組みを加速させている日産自動車が、サステナビリティを中核に据えた初の統合報告書となる「統合報告書2024」を発行した。日産は今後、どのようにしてサステナビリティに取り組んでいくのか。

まず、「統合報告書」とは何なのか。端的に言えば、その会社がどういう方向を目指し、どういう価値を創造しようとしているのかを包括的に伝えるレポートだ。日産の「統合報告書2024」には価値創造プロセス、企業理念、戦略、マネジメント、財務情報に加え、サステナビリティへの取り組みが記載されている。

日産は2024年7月30日、本社で「サステイナビリティの取り組みに関する説明会」を開催。登壇した専務執行役員 チーフサステナビリティオフィサーの田川丈二さんは、「価値創造プロセスが統合報告書の重要な部分であり、サステナビリティのプログラム、経営計画を策定する上での思考プロセス、価値提供の道筋を示している」とその概要を説明した。

  • 日産の「サステイナビリティの取り組みに関する説明会」

    日産のサステナビリティの推進に全力を尽くしているという田川さん。「次世代により良い世界を残したいと考えています」と思いを語った

新規採掘資源を使用しないクルマ造りが目標?

日産は経営計画「The Arc」を達成し、最終目標である競争力の強化を成し遂げ、全てのステークホルダーに持続可能で長期的な価値を提供するために不可欠な要素として、サステナビリティへの取り組みを挙げている。統合報告書ではサステナビリティへの取り組みをまとめた第5世代の「ニッサン・グリーンプログラム2030」(NGP2030)と、これまでの社会性の取り組みを戦略的にまとめた「ニッサン・ソーシャルプログラム2030」(NSP2030)を作成。サステナビリティのアクションプランを提示した。

  • 日産の「サステイナビリティの取り組みに関する説明会」

    「NGP2030」の概要

「NGP2030」では「気候変動」「資源依存」「大気品質と水」の3つにおいて主要な取り組み領域を設定。これらの項目に取り組むことが社会やユーザー、地球環境への貢献になるだけでなく、日産の競争力を高めることにもつながるとしている。

なかでも気になったのが、「資源依存」で提唱した「2050年までに新規採掘資源への依存ゼロ」という目標だ。

  • 日産の「サステイナビリティの取り組みに関する説明会」

    新規採掘資源なしでクルマを作る?

現在の自動車製造において、稀少金属であるレアメタルなどの資源は欠かすことができない。貴重な資源を材料とする部品を使わず、新規採掘資源なしで作った部品を調達するというのは、なかなかに野心的な目標だ。

一方で、新規採掘資源への依存を減らすことは、環境負荷の削減に加え、コスト削減や希少資源の調達リスク回避につながる。田川さんも「もの作りの面でも明らかにプラスの効果がある」としている。

そこで日産が注目しているのが「サステナブルマテリアル」だ。サステナブルマテリアルとは環境に配慮して作られた素材のこと。再生可能資源の使用、リサイクルが容易といった特徴がある。実際、2023年度時点で日産が使用した材料の32%がサステナブルマテリアルだったという。

日産は新車や補修部品への「新規採掘ではない材料」や「循環可能な材料」の使用拡大を進め、2030年までに日本、米国、欧州、中国でサステナブルマテリアル比率を40%に引き上げる方針。これを達成できるかどうかが、新規採掘資源への依存ゼロの実現可能性を探るひとつの指標になるかもしれない。

経営計画「The Arc」の基盤を担う「NSP2030」

もうひとつの「NSP2030」は、日産が事業を行う地域社会に対し、プラスのインパクトを与えるための事業や商品の方向性に関する指針を示した包括的なプログラムだ。中身は「安全」「品質」「責任ある調達」「知的財産」「地域社会」「Power of Employees」の6つの柱で構成される。

  • 日産の「サステイナビリティの取り組みに関する説明会」

    「NSP2030」の概要

この「NSP2030」を実施することが、2024年3月に発表した経営計画「The Arc」の基盤としての役割を果たし、さらには「Nissan Ambition 2030」実現への道筋になるとのことだ。

田川さんは「今後もサステナビリティの取り組みの進捗状況に関する情報開示は透明性をもって行っていきます」とし、「人々の生活を豊かに、イノベーションをドライブし続ける。これが日産のコーポレートパーパスであり、私たちの全ての活動の中心です。このマインドセットを会社の根幹に据え、サステナビリティをより効率的に推進するための方策を模索しながら、よりクリーンで安全でインクルーシブな世界の実現に向けて邁進してまいります」と述べた。