近年、SNSなどで子どもを持たない一部の人たちから「子育て中の社員を特別扱いしすぎではないか」といった不満の声があがっている。

子育て中の社員は、子どもの体調が優れなければ、早退、あるいは欠勤することもあるだろう。そのしわ寄せは、社内の誰かが被らざるを得ない。これは不公平ではないだろうか―――。というわけで、いまネット上には子育て中の社員を皮肉った『子持ち様』という言葉まで生まれている。

社内に人間関係の対立を生み出さないため、企業はどんなことを心がけ、管理職は何に気をつけるべきだろうか? メンタリティマネジメント事業などを展開しているアドバンテッジリスクマネジメントでは、そのあたり、うまくマネジメントできているという。

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■お互い様と思える土壌づくり

アドバンテッジリスクマネジメントは、東京・目黒区に本社を置く企業。メンタリティマネジメント事業では、メンタルヘルス不調者の予防や発生対応をはじめ、エンゲージメント(仕事への熱意度)向上、人材採用・育成支援などを総合的にカバーするプログラムを提供している。

また就業障がい者支援事業における両立支援事業では、産休育休や私傷病などによる休業者の管理業務支援、および休業者が安心して復職して仕事と両立できる環境づくりを含めた総合プログラムを提供中だ。

  • アドバンテッジリスクマネジメント 経営管理本部 人事部 人事企画課 エキスパートの小山美佳氏

まずは、人事部の小山美佳氏に話を聞いた。いわゆる『子持ち様』問題について、小山氏は「ひと昔前になりますが、実は私も従業員から、モヤモヤしていると気持ちを打ち明けられたことがあるんです」と切り出す。

「その気持ちも理解できました。子育て中は、子どもの急な発熱で保育園から呼び出しがかかり、業務を遂行できずに退社する、なんてケースがよくあります。すると、時間や業務に余裕のある同僚が仕事を引き継がなくてはいけない。シフトに関しても、子どもを小児科に連れて行きたいので出社予定日を在宅勤務にしてほしい、という要望が出てチーム内で調整を余儀なくされたり……。お子さんを持つ社員を、周りのみんなでフォローする必要はどうしても出てくるわけです」(小山氏)

では社内で不満が溜まらないように、同社ではどんなことを心がけていったのだろうか。

小山氏は「まず育休から復職する社員には、心構えとして『周囲に感謝する気持ちを忘れずに』ということを意識させるようにしました。これにより、周りも気持ちよくサポートできるようになりますから。また、あらかじめ『仕事を見える化しておく』ことも大事です。例えばマニュアルを整備する、お客様は2人で担当する、といった具合ですね。急な不在時に慌てることのないよう、メールのCCには必ず同僚や上司を含めておくなど、やり方はいろいろあると思います」と話す。

管理職としては、代わりに残業する社員、代わりに出社を増やす社員に対して感謝の気持ちを丁寧に伝え、休めるときに休んでもらえるよう声をかけることも忘れない。

その上で、同社では社内に"お互い様"の精神を徹底させていった。もちろん、誰もが『子育て』をする時代ではない。しかし、そこに『親の介護』なども含めて考えてもらうようにしたという。

「親を介護しなければいけない、といったタイミングは、この先きっと多くの社員に訪れることでしょう。そう考えると、誰かに助けてもらいたい時期は順番に巡ってくるもの。お互い様だから、ととらえることができる。そこまで想像した上で、いまは気持ちよく同僚を助ける、ということですね」(小山氏)。

■全社員が取得できる制度を整備

実際に、育休制度を利用したことがある人事部の神原学氏は「それまで自分がやっていた業務を、そのまま同僚が引き継いでくれた。これは、想像しただけでもすごいことです」とあらためて当時を振り返る。

  • 人事部 人事企画課 マネジャーの神原学氏

「復職したとき、恩返しといいますか『サポートしてもらった分まで頑張ろう』と素直に思える自分がいました。私の周りにも、同じく育休を経て復職したときに、同様の感情を抱いた同僚が多くいるようです」と神原氏。

この"お互い様"と思いやれる職場の雰囲気は、時間をかけて醸成していったという。小山氏は「職場に女性が増えたこと、その中で子育てをする社員が増えたこと、またマネジャーの心配りと、試行錯誤を繰り返して少しずつ文化を作っていきました」と話す。

同社では人事部が管理職クラスと定期的に1on1を実施し、社内の風通しを良くすることで個人の不満がたまらないような工夫もしてきた。

このほか社内で対立を起こさないための工夫として、基本的に誰しもが平等に取得できる制度を認めている。

「私が入社したての頃は、それこそ子育て中の社員しか取れない制度もありました。現在は、働き方の選択肢を増やすための制度として、テレワーク、時差出勤、時間有休制度、プレミアムワンアワーなどを用意しています。いずれも子育てをしている、していないに関わらず、全社員が利用できる制度です」と小山氏。

神原氏も「働く場所や時間に融通が利く社内制度がたくさんあるので、子どもがいる身にも助かっています。例えばプレミアムワンアワーなら、定時を1時間早めることができます。これは子育ても介護もしていない社員にとっても、新しいライフスタイルを実現する制度です。皆さん早めに退社して語学学校に通ったり、趣味を充実させたり、と活用しているのを見かけます」と紹介する。

  • 経営管理本部 人事部 人財開発課 マネジャーの滝口沙都子氏

ところで、ほかの国内企業では「制度はできたけれど、周りに気兼ねしてしまい、どうも利用しにくい」なんてケースもよくある。

これについて、人事部の滝口沙都子氏は「弊社では例えば、ワーケーションを体験した人に体験記を書いてもらい、それを人事が取りまとめ、社内向けに発信することもしています。やはり『誰でも活用して良いんだよ』ということを社内に周知する取り組みは必要ですね。あとは上司も率先して制度を利用する、利用率の低い部署には『利用してくださいね』と積極的に推奨している、そんな工夫も効果があると思います」と笑顔で話す。

そのほか、テレワークなどを利用できない現場仕事が必須のカウンセラーには、遅番手当などを用意。こうした全社的な取り組みを通じて、業務内容によらずみんなが柔軟に働ける環境を整備してきた。

ちなみに新たな制度の導入にあたっては、業務に支障をきたさない、お客様に迷惑をかけないということを前提にトライアルを実施し、十分に検証してから正式導入しているそうだ。

今後について、神原氏は「これまで世の中には、子育て、あるいは親の介護のために自分のキャリアを諦めた人も、たくさんいたことと思います。弊社に目を向けてみると、育児・介護と仕事を両立している管理職がとても多いのが特徴です。何かを選択するために何かを諦める、というような働き方ではなく、前向きにキャリアを形成していける、今後もそんな職場環境を維持していけたらと思います」と話していた。