カウンタック、ジャルパetc. クラシック・ランボルギーニに「正しく乗る」|ランボルギーニ・ポロストリコ

ランボルギーニ・ファンならずとも「ポロストリコ」という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。2015年に設立されたランボルギーニ・ポロストリコは、アーカイブに基づく各車両のデータ供給、車両のオリジナリティを調査し真正性証明を行うサービス、、レストレーションの請負、そしてクラシック・モデル用パーツの再生産を担う部署である。今回、そのポロストリコが仕上げたクラシック・ランボルギーニ4台にイタリアで試乗する機会を得た。

【画像】4台のクラシック・ランボルギーニに一気乗り!それぞれのキャラクターの違いを確かめる(写真25点)

「ポロストリコは、ランボルギーニのヘリテージを最高の状態に維持するための部署です」

ランボルギーニのアフターセールス・ディレクターにしてポロストリコの責任者を務めるアレッサンドロ・ファルメスキはそう切り出した。「皆さんの目の前に置かれたこの文書が、ポロストリコを特別な存在にしているといっていいでしょう」 そう語ったファルメスキが指さしたのは、数多くのファイルが保管された書架。よく見れば、ファイルのひとつひとつには「350GT」「MIURA P400」「MIURA S」などの見慣れたモデル名が並んでいる。

こうした書類はビルドシートと呼ばれるもので、車を生産する際の仕様(エンジン、ボディカラー、インテリア、オプション、VINコードなど)が詳細に記されている。このとき、スタッフのひとりがたまたま差し出したビルドシートが、1989年4月20日に製作された日本のレイトンハウス向けのもの(おそらくはクンタッチ25周年モデル)だったことには仰天したが、ポロストリコが業務を行ううえで、こうしたビルドシートの存在はなくてはならないものであり、これがすべての作業の出発点になるという。

「まずは、このビルドシートを始めとする書類を徹底的に探しだし、内容を確認することから、私たちの仕事は始まります」とファルメスキ。「最初のカスタマーもしくは販売したディーラーに宛てた請求書も重要な手がかりのひとつです」ただし、そうした文書が、すべて簡単に見つかるとは限らないようだ。

「ランボルギーニはこれまでオーナーが6回変わってきました」そう語るのは、ポロストリコで営業を担当するニコロ・ジレリだ。「このため散逸した文書がないわけではありません。ただし、それらはかつてのオーナーなどのつてをたどってほぼすべて揃えることができました。いずれにしても、資料の収集が私たちの仕事の第一歩であることには変わりありません」

こうした資料を手がかりとして、ポロストリコは顧客が所有するクラシック・ランボルギーニのレストアを行う。彼らが作業を請け負うのは生産終了から10年以上が経過したモデルというから、ムルシエラゴやガヤルドもそろそろその仲間入りをすることになる。「顧客が持ち込んだ車両を、私たちはまず分解し、塗装を剥がしていきます。そうしない限り、どんなパーツが使われているか、もしくはボディのどこかにサビがないかなどを確認できないからです」とファルメスキ。「そして、レストアを行う車がどれだけオリジナルに近いか、ホンモノに近いかを確認していきます」

これらの作業を経て、オリジナルでなかったパーツはオリジナルもしくはリプロダクション(再生産品)に置き換えていき、新車で工場を出荷したときの状態に限りなく近づけていくことを、ポロストリコではレストアと呼んでいる。「レストアには最低でも6カ月、長い場合は24カ月か、それ以上を要することもあります」ファルメスキはそう語った。

こうしたレストア作業に必要となるパーツをストックし、必要に応じてリプロダクションしていくこともポロストリコの重要な業務のひとつで、現在は対象となるモデルの65%ほどのパーツが在庫されているという。「必要に応じ、サプライヤーの協力を得ながらパーツを再生産することもあります。最近でいえば、ミウラ用のタイヤをピレリに作っていただきました」

では、もしもエンジン・ブロックに穴が開いていたらどうなるのか?「それは直せます。計測や溶接などには最新の技術を用いていますので、事実上、なんでもできます」ファルメスキはそう続けたが、彼らが絶対にしないことがある。それは、まったくオリジナルが残っていない状態からボディやエンジンを新造し、それで新車を作り出してしまうことだ。

「私たちが行っているのは、過去に起きたことを再現する作業です。なかったものを新たに作り出すことではありません」

なお、レストア作業の過程は写真に収められるとともに、作業が終わった段階で1冊の本にまとめられ、オーナーにプレゼントされるという。これにより、レストア中にどんな作業が行われたかを、オーナーは後々確認できることになるわけだ。

こうしてポロストリコでレストアを受けた車両は「正しく復元されたランボルギーニ」として認証され、これを証明する書類が発行される。もちろん、もともとオリジナルの状態を保っていてコンディションもよければ、そもそもレストアする必要がなく、ポロストリコによる検査を終えたところで認証されるケースもあるだろう。これら、ポロストリコが認証した車両は「メーカーがオリジナルであることを証明した車両」と見なされ、市場価格もグンと高まるらしい。いずれにしても、世の中でオリジナルの価値が認められ、歴史を正しく伝えるクラシック・ランボルギーニが多く誕生することこそ、ポロストリコの究極の目的といっていいだろう。文書の管理、パーツの在庫や再生産、レストア、そして認証といった作業は、すべてこの目的のために行われているといって間違いない。

軽快なムルシエラゴ LP650-4 ロードスター

ポロストリコに関する理解が深まったところで、我々にクラシック・ランボルギーニを試乗する機会が与えられた。この日、用意されたのは、1967年400GT 2+2、1972年製ハラマGTS、1988年ジャルパ、1990年クンタッチ(編集部註:本国での発音に合わせて本稿ではこの表記を使用)25周年モデル、2001 年ディアブロSE6.0、2003年ガヤルドLP510-4、2005年ムルシエラゴLP650-4ロードスターの7台。このうち、私は400GT 2+2、ジャルパ、クンタッチ、ムルシエラゴの4台に試乗できたので、その印象を順に紹介していこう。

最初に試乗するのが、7台のなかでもっとも新しいムルシエラゴと聞いたときには「現代に近い車のほうが肩慣らしにはちょうどいい」なんて気楽なことを考えていたが、実はこのモデル、全世界で50台のみが生産された貴重なもの。なるほど、ふたつのシートの間に貼られたプレートには「LP650-404/50」の文字がしっかり刻み込まれている。これを見て再び緊張感に苛まれたが、歴史的なモデルに触れる貴重なチャンスをフイにする気には到底なれない。勇気をふるってシザースドアを開け、運転席に腰掛けるとイグニッションキーをひねり、エンジンを始動させた。

その反応に、私は思わず目を丸くした。

排気音を絞ったエンジン・サウンドは「シュワーン」「クォーン」という精度感の高い金属性の音色で、きわめて現代的。それ以上に驚かされたのが、V12エンジンのレスポンスがとびきりシャープなことで、排気量が6.5リッターもあることが信じられないほど軽々と吹け上がる。その軽快さは、まるでフライホイールを持たないレーシングエンジンのようだった。

これだけエンジンの反応がデリケートだと、発進の際のクラッチ操作にもかなり神経を使いそうな気がするけれど、幸か不幸か、LP650-4のギアボックスはe-ギアと呼ばれたシングル・クラッチ式のロボタイズドMT。したがって、右側のパドルを引いてアクセルペダルを踏み込むだけで発進できる。このことは、私の精神的負担を少しだけ軽くしてくれた。

おまけに、シングル・クラッチ式といっても発進のマナーは上々で、そっとアクセルペダルを踏み込めばスムーズに走り出してくれる。その後のシフトアップでは、アクセルペダルを踏む右足の力をほんの少し抜いてあげればシフトショックもほとんど感じられない。いっぽう、ステアリングホイールの取り付け角が少し寝ているのは気になったものの、パワステがついているので操舵力も不当に重いとはいえない。この辺の事情が呑み込めただけですっと肩の力が抜け、ドライビングに集中する気持ちの準備が整った。

率直にいって、乗り心地は硬め。ただし、ロードスターのボディ剛性はそれほど悪くはなく、舗装が施された一般道を流す範囲でいえば快適性はまずまず。春の北イタリアは空気も爽やかで、頭上から流れ込んでくる風も心地いい。しかも、センターコンソールには大型のディスプレイも装備されているほか、プッシュボタンを中心とする操作系もなかなか現代的で、なんとなく最新のスーパースポーツカーとあまりかわらない感覚でドライブできるような気がした。

そんなムルシエラゴ・ロードスターの弱点を敢えて挙げるなら、大きな段差を乗り上げたときに明瞭なスカットルシェイクを感じたことくらいだろう。しかし、そのことよりも、サンタアガタ・ボロネーゼ製V12エンジンがあれほど軽快に、そしてスムーズに回ってくれることが印象的な1台だった。

最後のジャルパ

続いて試乗したのはジャルパ。実はこの車両、1981年から1988年までに計420台が生産されたジャルパのなかでは最終期というか最後に作られたモデルらしく、ダッシュボード上には”ULTIMA JALPA(つまり「最後のジャルパ」の意味) Telaio No:12 419”と刻み込まれたプレートが貼ってあるほか、その下にはフェルッチォ・ランボルギーニ直筆のサインまで添えられている。これもまた貴重な車両であることは間違いなさそうだ。

「回転数を高めに保っていないとエンジンがストールするかもしれないから、気をつけてね」

そんな言葉とともに私は送り出されたが、ウェバーの42DCNFキャブレター4基によって燃料が供給される3.5リッターV8エンジンはアイドリング付近でも安定して回り続けてくれて扱い易い。ただし、先ほど乗ったムルシエラゴほどシャープでスムーズな吹き上がりは期待できない。いやいや、あちらがいささか異常だっただけで、時代を考えればこのジャルパのほうが自然な振る舞いといっていいはずだ。

エンジンとともにキャビン後方に横置きにされたギアボックスは、センタートンネル上に設けられたシフトレバーで操る。しかも、Hパターンのゲートが金属製プレートで作られた、いかにもこの時代のスーパースポーツカーらしい装いだ。したがってシフトミスする恐れはないものの、シフトレバーの動きは渋く、ダブルクラッチを踏んでも素早いシフトをするのはやや難しかった。

ただし、しばらく走っていると、ジャルパの”テンポ感”が徐々に掴めてきた。

まず、ウェッジシェイプのミッドシップ・スーパースポーツカーらしいプロポーションが与えられているにもかかわらず、サスペンションはストロークが長めなうえに動きもスムーズで、乗り心地は上々。しかも、パワートレインが横置きとされている関係でセンタートンネルは低く、足下もさほど狭くない。おまけに前方ならびに左右の視界は良好で、ルームミラー越しに後方を確認するのも難しくない。つまり、ピュアスポーツというよりはグランドツーリズモに近いキャラクターなのだ。

ここまでわかってくると、そもそもシフトレバーを素早く操作しようという気持ちが失せていく。ゆったりと、快適に……。そんな、現代のランボルギーニとはひと味違った楽しみ方を、ジャルパは得意としているように思えた。

ランボルギーニの2作目、400GT 2+2

ここで大きく時を遡り、ランボルギーニでは第2作目となる400GT2+2のステアリングが私に委ねられることとなった。

今回、われわれに用意されたクラシック・ランボルギーニはどれも貴重なモデルばかりだが、そのなかでも、この400GTはとりわけ貴重で、60年を超すランボルギーニの歴史のなかでも重要なモデルといえる。

1964年、ランボルギーニは初の量産車”350GT”を世に送り出す。これはカロッツェリア・トゥリングが手がけた2ドア・クーペ・ボディのフロントに、ランボルギーニ自身が開発した3.5リッターV12エンジンを搭載。6500rpmで280psに達するパワーはZF製5段ギアボックスを介して後輪に伝えられるという、超高性能なグランドトゥーリズモだった。

350GTはそのバリエーションも含めると2年間で140台近くが生産される”スマッシュヒット”となったが、その成功をより確実なものとしたのが、1966年にデビューした 400GT 2+2だった。その名のとおり、エンジンはボアを拡大することで4.0リッターの排気量を獲得。最高出力は320psへと強化された。また、評判が悪かったギアボックスをZF製から自社製に切り替えるとともに、ルーフラインに手を加えて350GTの2シーターから2+2にモディファイ。これらの改良によりグランドツーリズモとしての資質をさらに高めた400GT2+2は合計250台が生産され、そのうちの1台は日本に輸出された初めてのランボルギーニとなったほか、ビートルズのポール・マッカートニーも購入。彼はその後、10年以上にわたって 400GT 2+2を手元に残しておいただけでなく、ロンドンのサビル・ロウで行われたルーフトップ・コンサートの映像にも、その赤いボディが収められているという。

ダッシュボード上のイグニッションキーをひねると、3~4秒ほどのクランキングのあとでV12エンジンは目覚めた。燃料供給は6基のウェバー40DCOEに依るが、そのレスポンスは前述したムルシエラゴ並みに軽々としてシャープ。しかも回転の上昇が速いだけでなく、スロットルペダルから右足を離せばタコメーターの針はアイドリングの1500rpm付近までストンと下がる「素早い回転の落ち」も実現していた。しかも回転フィールはいたって滑らかで、50年以上も前に誕生したことがとても信じられないほどだった。

フロント・エンジン・レイアウトゆえにキャビンは足下を含めて広々としているうえ、視界も良好。ドライビングポジションにも無理はない。初のランボルギーニ製マニュアルトランスミッションは、シフトストロークがやや長めなことを除けばゲートがしっかりとしているうえにシフトレバーの動きも滑らかで、思わず笑みがこぼれてしまう。ノンアシストのステアリングはリムが大径なうえに細くていかにもクラシックだが、動き出してしまえばさほど重くは感じられない。「これはドライビングが楽しめそうだ」そんな期待に胸を高鳴らせながら、近くのワインディングロードを目指した。

グランドツーリズモらしく乗り心地は優しく快適。おかげでコーナリングではピッチもロールもそれなりに起きるが、だからといってハンドリングが鈍くもなければ、不安になるほど姿勢が崩れることもない。あくまでも常識的で節度あるサスペンションの動き方といっていいだろう。

ただし、ステアリングは恐ろしく正確なうえに、レスポンスも良好。もっとも、荷重移動の影響ははっきりと受けるので、コーナーに進入する前にしっかりとフロント荷重にする必要はあるが、この原則さえ守っていれば、 400GT2+2は意のままに操れるし、半世紀以上も前に作られたグランドツーリズモとは思えないほど速いペースを維持したままワインディングロードを駆け抜けていける。2作目にしてこれほど完成度の高いハイパフォーマンスカーを作り上げたランボルギーニという自動車メーカーに、私は改めて畏敬の念を抱いた。

予想を覆したクンタッチ25thアニバーサリー

最後に試乗したのは、ランボルギーニ・デザインのいまを築く礎といっても過言ではないクンタッチの25周年モデルである。

恥ずかしながら、ここまで紹介した3台同様、クンタッチを自分で操るのも今回が初めて。しかも、子供の頃に裏路地で目の当たりにした「クンタッチ・リバース」の光景が目に焼き付いて離れないこともあって、まともに運転できる姿勢やドライビングポジションは到底、得られないものと覚悟を決めていた。

しかし、いざ運転席に腰掛けてみると、その前方視界は驚くほど良好で、ひょっとすると自分のつま先まで見えてしまうのでないかと思えるほど、直前の路面の状況がはっきりと確認できる。それは横方向の視界についても大差はなく、純粋にチケットの受け渡しに以外に使い道のなさそうなサイドウィンドウの開口部が絶望的に狭いことを除けば、隣の車線の様子もよく見える。いっぽうで、後方を振り返っても、エンジンカバーの位置が高いせいで視界が遮られてしまう。ただし、ルームミラー越しにはよく後方も見えるので、少なくとも実用上、不自由をすることはないだろう。

6基のウェバー44DCNFキャブレターからガソリンが供給される排気量5.2リッターV12エンジンを始動させるには、やや長めのクランキングが必要。ただし、一度かかってしまえばアイドリングは安定しているし、回転フィールもスムーズで、キャビンは思いのほか平穏に保たれる。ただし、回転数を問わずエグゾーストノートが低く保たれた 400GT2+2と異なり、クンタッチは回転数を上げると「ウォーッ!」と結構な音量の咆吼を響かせる。その雄叫びは、かなり迫力のあるものだ。

シートのスライド量が限られているせいもあって、足の短い私がクラッチペダルを完全に踏み込むには大きく寝そべった姿勢をとらなければならない。しかも、踏力も重めなので、できれば渋滞路は避けたいと思ったのが、クンタッチを走らせたときの第一印象。もっとも、小径のステアリングはパワーアシストを持たない割には操舵力が重くない。また、サスペンション自体はスーパースポーツカーらしく硬めだが、ボディ剛性が驚くほど高いこともあって不快には感じられない。それよりも、宇宙船を思わせるデザインのクンタッチを、自分自身が走らせているという感動がそれらを大きく上回り、市街地を走っているだけでもつい頬が緩んでしまう。特別な車を操っているという実感を、これほど強く抱かせてくれるスーパースポーツカーも、そうそうないだろう。

ワインディングロードでのハンドリングも私の予想を覆すもので、ステアリングは極めて正確なうえにレスポンスも良好。ロードホールディングも文句のつけようがなかったので、本来であれば至福のコーナリングを満喫しても不思議ではないのだが、試乗車はシフトレバーの動きが渋くて素早いギアチェンジが難しかった。このためワインディングロードをリズミカルに駆け抜けることはできなかったものの、後日、よくメンテナンスされたクンタッチのシフトレバーを操ってみたところ、コクコクと気持ちよくシフトできたので、これがクンタッチ本来の姿だと考えられる。

4台のクラシック・ランボルギーニを試乗して心に残ったのは、モデルごとのキャラクターが意外なほど大きく異なっていることにあった。すなわち、400GT 2+2とジャルパは快適な高速移動が可能なグランドツーリズモで、クンタッチとムルシエラゴはもっとダイナミックな性能に振ったスーパースポーツカーだったのである。

そうしたモデルごとのキャラクターを満喫するには、モデル本来の成り立ちやハードウェアを熟知したうえでのレストアやメンテナンスが必要不可欠なはず。その意味でいえば、ランボルギーニ自身が各モデルの特性に応じてベストなコンディションに仕上げてくれるポロストリコは、クラシック・ランボルギーニを正しく楽しむうえで理想的な選択肢といっていいだろう。

文:大谷達也 写真:アウトモビリ・ランボルギーニ

Words: Tatsuya OTANI Photography:Automobili Lamborghini S.p.A.