スズキが日本で発売する新型コンパクトSUVの「フロンクス」は、かなり目立つデザインを身にまとっている。世界戦略車としてスズキとインドのマルチ・スズキが連携してデザインを練ったそうだが、特徴は? フロンクス開発チームでデザインを担当した前田貴司さんに話を聞いた。
世界戦略車のデザインは難しい?
世界戦略車のデザインは難しそうだ。国や地域によってクルマの好みは違うはずだから、誰の好みに合わせてクルマを作ったらいいのか、頭を悩ませるに違いない。実際のところは?
「その通りで、一昔前までは、インドにはインドならではのテイストというものが確実にありました。例えば、日本で売っているクルマをそのまま持っていっても『ものたりない』といわれることがありましたし、その逆もあったんです。ただ、ここ最近のインド市場では、競合他社も含め最新機種を投入していて、基本的には欧州で動いている最新のトレンドと足並みをそろえるカタチになってきています」
フロンクスのデザインについてはマルチ・スズキ(スズキのインド子会社)のデザインスタジオと連携し、デザイナー、モデラーが日印を行ったり来たりしながら、一緒に作り上げたという。前田さんは「両者の嗜好がうまくミックスできたかなと思います」と話す。
外観は要素が多め?
フロンクスのデザインに関する説明では、「前後のボリューム感」「力強さ」「街で埋没しない個性」「コントラストの効いた強い立体感」「アスリートの筋肉のようにしなやかで研ぎ澄まされた面表現」といった言葉が登場した。実物を見ると、例えばフェンダーの上部に入る深い切れ込みであるとか、フロントのライト周辺の造形など、けっこう主張が強めの外観になっている。最近のクルマは割合、スムースでクリーンで要素の少ないデザインを採用しがちだ。その点、フロンクスは見どころが多いというのか、クセが強いというのか、かなり目立っている。
デザインの狙いについて前田さんは「日本のコンパクトSUV市場では後発で、満を持してということもありますので、存在感のあるデザインに」したと語る。トヨタ自動車「ライズ」/ダイハツ工業「ロッキー」、トヨタ「ヤリスクロス」、ホンダ「WR-V」など、ライバルひしめく日本市場に乗り込むうえでは、先行者に似たデザインでは埋没してしまうと考えるのは当然だ。
要素の多いフロンクスのデザインはトレンドに逆行しているようにも思えるが、「クリーンに振りすぎても、そういうデザインは食傷気味かなという気もしていまして……クルマが全部、家電みたいになっていくのはどうなのかなと思うところもあります。クルマらしいエモーショナルなデザインも、いいのではないでしょうか」と前田さん。実際、ユニークなクルマを求める人にはフロンクスが魅力的に映るかもしれない。
内装はボルドーをチョイス! なぜ?
インテリアはブラックとボルドーを組み合わせた2トーン一択。ボルドーという色の選択が大胆だ。実際に見た印象としては、ちょっとシブすぎるような感じもしたのだが、このあたりは好みの分かれるところか。スズキとしては「力強さ」や「スポーティーさ」を表現する色としてボルドーを選んだという。車体色とのマッチングも含めさまざまな色を考えたそうだが、「ブラウンだとクラシックになりすぎるし、オレンジだと元気すぎる」などと比較検討を進めた結果、「オリジナリティがあっていいのでは」ということで、この色に決めたらしい。
日本のコンパクトSUV市場に新たに参入する個性あふれるクルマ、フロンクス。もちろん価格次第ではあるのだが、どのくらいのシェアを獲得できるのかが楽しみだ。