藤井聡太王座への挑戦権を争う第72期王座戦(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)は挑戦者決定トーナメントが大詰め。7月22日(月)には挑戦者決定戦の羽生善治九段―永瀬拓矢九段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、守勢の雁木策から反撃を決めた永瀬九段が114手で勝利。難敵を下してリターンマッチ登場を決めました。

永瀬九段の雁木

振り駒で後手となった永瀬九段は早々に角道を止めて雁木の構え。局面の方向性を先手にゆだねる姿勢で、先後同型や右四間飛車など幅広い仕掛けに対する手厚い準備がうかがわれます。対する先手の羽生九段は得意の早繰り銀を採用、早くも右辺で歩がぶつかりました。

定跡化された応酬が続くなか、羽生九段は4筋の歩を突いて昨年9月に自身が指した前例を離れます。数手後に選んだ左辺の突き捨ては直後の桂頭攻めに期待したものですが、永瀬九段の手厚い受けに遭うことになった本譜を思うとやや指しすぎの可能性が残りました。

永瀬調の手厚い指し回し

丁寧な受けで優位に立った永瀬九段は満を持して反撃に乗り出します。先述の突き捨てによって生まれた空間に桂を打ち込んで角銀両取りをかけることに成功。手にした銀を逆サイドの1筋に打ったのも盤面を広く見た好手で、遊び駒の角まで使えては攻め手に困りません。

守勢の時間が続く羽生九段もなんとか逆転の糸口を探りますが、手厚い玉形を築いた永瀬九段は抜け目ありませんでした。飛車を切って銀を手にしたのが寄せの決め手。終局時刻は20時15分、最後は攻防ともに見込みなしと認めた羽生九段が駒を投じました。

リターンマッチ登場

一局を振り返ると先手らしく積極的に攻めた羽生九段の勢いを、永瀬九段が周到な準備と手厚い受けで押し返した構図に。昨年の五番勝負では藤井七冠(当時)との優勢な将棋を終盤の逆転で落とす悪夢のような展開を経験した永瀬九段、その雪辱を目指します。

局後の記者会見に臨んだ永瀬九段は「去年の王座戦は悔いの残るシリーズになった。(開幕に向けて)しっかり準備したい」と意気込みを語りました。注目の五番勝負は9月4日(水)に神奈川県秦野市の「元湯陣屋」で開幕します。

水留啓(将棋情報局)

  • 永瀬九段は会見で、藤井王座との研究会でも成績が上向いていることも明かした(撮影:編集部)

    永瀬九段は会見で、藤井王座との研究会でも成績が上向いていることも明かした(撮影:編集部)