成田国際空港(NAA)は7月3日、「『新しい成田空港』構想とりまとめ」を国土交通省に報告したと発表。国の積極的関与を求めた。3カ所に分散した旅客ターミナルビルを1カ所に集約し、新しい鉄道駅をターミナルビル直下に設置する。あわせてJR東日本と京成電鉄が乗り入れる線路をそれぞれ複線化し、JR東日本の特急「成田エクスプレス」、京成電鉄の「スカイライナー」とアクセス特急の増発を見込む。
JR東日本・京成電鉄ともに現在は単線、理由は
「成田エクスプレス」に乗っていると、成田空港付近で「スカイライナー」とすれ違ったり、並んで走ったりする場面がある。逆に「スカイライナー」に乗っていると、隣の線路を「成田エクスプレス」が走っている。この区間は複線区間に見えるが、実際は片方の線路をJR東日本、もう片方を京成電鉄が使い、単線が2本並ぶ形になっている。
相互乗入れで複線として使えば、線路を効率的に使えるし、列車も増やせる。JR西日本の関西空港線、南海電鉄の空港線はりんくうタウン~関西空港間で複線を共用している。一方、JR東日本と京成電鉄は軌間が異なるため、線路を共用できず、それぞれ単線のまま。両社とも途中に1カ所ずつ信号場を設置し、列車の行き違いを可能にしている。
どうしてこうなったかというと、この区間はもともと「成田新幹線」として建設されていたから。しかし、成田新幹線は建設中止となってしまい、半完成状態にあった空港ターミナルビル地下駅も放置状態だった。それはもったいないから、在来線として活用するための会社として成田空港高速鉄道が設立された。JR東日本、京成電鉄、成田国際空港(NAA)、ANAホールディングス、日本航空のほか、金融機関7社と4つの沿線自治体が株主となっている。
それまで、成田空港への鉄道アクセスは京成電鉄が担い、成田空港駅(現・東成田駅)を設置していた。「スカイライナー」も発着していたが、当時の成田空港駅は空港ターミナルビルまで遠く、連絡バスに乗り換える必要があった。
成田空港高速鉄道の開通によって、空港ターミナルビルに直結する駅がつくられ、JR東日本は成田線から分岐して「成田エクスプレス」を運行できるようになった。京成電鉄の「スカイライナー」も、京成本線から分岐して空港ターミナルビルへ乗り入れた。その後、京成電鉄は成田スカイアクセス線を建設し、成田空港高速鉄道に接続。こうして、現在の「成田エクスプレスとスカイライナーが並んで走る」路線ができた。
成田空港の発展に対して列車が足りない
成田空港は開港から46年を迎えた。羽田空港の国際化で一時的に国際線が減ったが、LCC(格安航空)の受入れ等で航空機の発着回数が増大している。コロナ禍で需要が落ち込んだものの、現在はコロナ禍前の混雑に戻りつつある。発着回数の増加を見込み、新たに3本目の滑走路を建設することも決まった。
1978(昭和53)年開港時の第1ターミナルに加え、1992(平成4)年に第2ターミナルが開業すると、各ターミナルの拡張が行われた。2015(平成27)年に第3ターミナルが開業し、年間発着枠30万回の受入れが可能になった。その一方で、ターミナルビルが分散化した弊害も出てきている。1970年代に建設された建物の老朽化も、解決すべき問題となった。
「『新しい成田空港』構想とりまとめ」では、3カ所あるターミナルを1カ所に集約し、「集約型ワンターミナル」として課題解決を図るとしている。利用客にとってシンプルでわかりやすくなり、すべての乗継ぎが同一ターミナルになるため、ハブ空港としての機能が向上する。経営資源の集約化・共用化で効率的な運用ができ、省エネルギーやコストダウンを見込めるなどのメリットがある。
鉄道駅部分に関して、現在は敷地内に成田空港駅、空港第2ビル駅、東成田駅の3駅があり、これを1駅または2駅に集約することで、駅員、案内所、ホーム等が3分の1または3分の2になる。現行の高速バスはすべてのターミナルを経由するため、所要時間が増加する上に、ターミナルごとに着座機会が異なる。これもバスターミナルを1カ所にすることで解消できる。同様に航空会社の施設や空港の管理施設も集約できる。
成田空港のアクセス手段について、2018年時点で鉄道が約46%、バスが約35%、乗用車が約13%、タクシー等が約6%となっていた。その後、コロナ禍でJR東日本と京成電鉄の有料特急は40%にあたる55便を運休したが、2022年10月までに全列車が運転再開している。しかも京成電鉄の「スカイライナー」は22時台に1本増便している。
2024年3月の調査を見ると、京成電鉄「スカイライナー」の利用者はコロナ禍前より増加していた。多くの時間帯で混雑が発生し、「成田エクスプレス」も夕方のピーク時間帯で混雑率が上回っている。バスの復調が遅れているため、その分は鉄道の比率が上がっていたと想定される。バス便はコロナ禍前に1日あたり1,700便を超え、バスタ新宿に匹敵する規模だった。しかし、現在は1日あたり667便、回復率は44%にとどまる。運転手不足の影響もあるだろう。
成田空港は今後、新滑走路建設、運用時間延長などの機能強化によって段階的に増加し、将来は現状の約2倍、年間7,500万人になる見込み。現在の空港アクセスは鉄道、バスなどすべての手段でこれほどの旅客数を想定していない。鉄道はすでにコンコースやホームで混雑が見られ、単線区間による運行頻度の少なさが露呈しているという。
鉄道の複線化工事費は1,400億円の試算も
鉄道の課題を解決するために、JR東日本、京成電鉄ともに複線化とターミナルの拡張が必要となる。京成電鉄は成田スカイアクセス線経由と京成本線経由の分離も必須となるだろう。とくに京成電鉄は、現在、「スカイライナー」とアクセス特急、京成本線経由の列車を運用し、空港第2ビル駅と成田空港駅で列車の縦列停車を行うなど複雑な運用となっている。これだとダイヤ作成上も制約がある上に、ダイヤが乱れたときの復旧も難しい。
複線化工事費について、交通政策の提言やコンサルティングを手がける運輸総合研究所が試算している。これは2022年7月に発表された「日本の空の玄関・成田空港の鉄道アクセス改善に向けて ~輸送力増強による快適性向上への提言~」の中で示された。検討区間は成田スカイアクセス線の成田湯川駅から空港敷地の境界までとし、用地買収費用や新しい成田空港駅の費用は含まれていない。
京成線の複線は規定として、JR線を単線にするか複線にするか、新しい線路は既存の線路の北側か南側か、4パターンを想定している。しかし、「『新しい成田空港』構想とりまとめ」を読むと、JR線も複線化が望ましい。
そこで、試算から「JRと京成を複線化し北側に線増」と「JRと京成を複線化し南側に線増」を比較すると、北側に線増する場合の工事費は約1,000億~1,400億円、南側に線増する場合は約900億~約1,100億円になった。金額の根拠は交通政策審議会で提示された「平成25年度価格」の単価をもとに、国土交通省の建設工事費デフレーターを適用し、2020(令和2)年度価格に補正している。
北側線増案と南側線増案に共通の課題として、東関道の橋脚に挟まれた部分があるため、一部区間で橋脚を迂回する必要がある。4本の線路をぴったり並べられない。
南側線増の費用が大きくなる理由は、「切り通し区間の施工面を拡幅するため、斜面の大規模な切り取りが必要となる」「JR及び京成の既設変電所に支障する可能性があり、各施設の移設、防護の検討が必要」「既存集落の下を低土被りで通過するため、騒音振動対策の検討が必要」とのこと。技術的課題としては、他にも「取香川に近接するため、河川協議が必要となる可能性がある」という。
用地買収、設計、環境アセスメントなどの各種手続きが完了したと想定して、工期は着工から5年以上と想定される。
繰り返すが、この工期と工事費は線増部分のみ。用地買収と補償、既設線との接続箇所にかかる工事費、発生土処理にかかる費用、空港内区間は含まれない。鉄道部分の事業費はもっとかかる。
複線化だけでは増発できない
成田空港の「ワンターミナル化」が実現した場合、現在の空港第2ビル駅と成田空港駅は「ワンターミナル新駅」に統合されるだろう。東成田駅の処遇など、具体的には触れられていないが、新しい統合ターミナルは芝山鉄道の真上になりそうだから、こちらも「ワンターミナル新駅」に統合されるかもしれない。
JR東日本のホームは2面4線で、「成田エクスプレス」と普通列車を専用のりばとする。京成電鉄のホームも2面4線とし、「スカイライナー」とアクセス特急に割り当てる。京成本線の芝山鉄道の線路はワンターミナル直下になるため専用のホームを設置し、成田スカイアクセス線と分離する。欲を言えば、JR側の線増部から分岐して、成田空港新貨物地区を結ぶ貨物線も欲しいところだ。
「『新しい成田空港』構想とりまとめ」は、成田空港アクセス列車の増発について、「都心側の過密ダイヤ」も課題だと指摘している。「スカイライナー」をこれ以上増発するなら、「地下鉄対応スカイライナー」を製造し、都営浅草線や京急線を直通して羽田空港を結ぶ検討が必要だろう。あるいは都営浅草線の急行線として検討されている「都心直結線」(押上~新東京~泉岳寺)も必要になる。
JR東日本の「成田エクスプレス」も、総武快速線の東京駅付近が過密化している。現在は大船方面・池袋方面の列車を分割・併結する形で運用しているが、輸送力を増やすためにも独立して長編成化したい。東京駅発着を増やすために、京葉線経由も視野に入るだろう。
これらは国土交通省や鉄道事業者も交えた検討が必要になる。日本の空の表玄関となる成田空港や、鉄道などの空港アクセスがより良い形になることを期待したい。