東京国立博物館で、特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」が始まりました。神護寺創建1200年、そして空海生誕1250年にあたる記念の年に、日本彫刻史上の最高傑作とされ寺外初公開となるご本尊の国宝「薬師如来立像」や、4メートル四方の国宝「両界曼荼羅」、さらに空海直筆の書や最澄直筆の手紙など、神護寺に受け継がれてきた貴重な寺宝が多数おでまし。空海が生きた時代の息吹、そして長い歴史を持つ神護寺のスゴさを体感できる、質・量ともに圧巻の展覧会となっています。

神護寺は、空海が活動の拠点とした真言密教の出発点

京都市の西北、高雄に所在する神護寺は、和気清麻呂(わけのきよまろ)が建立した高雄山寺(たかおさんじ)を起源とし、古くから紅葉の名所としても知られています。弘法大師・空海は804年、最新の密教を求めて中国・唐に渡り、青龍寺の僧、恵果から、金剛界・胎蔵界両部の体系的な密教を授けられ、帰国に両部を合せて打ち立てたのが、いわゆる「真言密教」です。

  • 《観楓図屏風》狩野秀頼筆 東京国立博物館蔵

812年に空海は、初の両部灌頂(師が弟子の頂に水を灌ぐ儀式)を高雄山寺で行い、最澄が弟子とともに受けたと伝えられています。そして824年、高雄山寺と同じく清麻呂が建立した神願寺というふたつの寺院がひとつになり、正式に“密教寺院”として誕生したのが神護国祚真言寺(じんごこくそしんごんじ)、神護寺です。神護寺は、唐から帰国した空海が活動の拠点とした、真言密教の出発点なのです。

  • 重要文化財《弘法大師像》京都・神護寺蔵

みどころ① 国宝「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)」がスゴい!

同展のみどころのひとつ、日本で現存する最古の曼荼羅である国宝「両界曼荼羅(高雄曼荼羅)(りょうかいまんだら、たかおまんだら)」について、同館担当学芸員の古川攝一さんは、「4メートル四方というのが、いかに大きいか。つまり、この大きさがかけられるお寺でしか作れないということです」と、そのスゴさを力説。

  • 国宝《両界曼荼羅(高雄曼荼羅)》のうち胎蔵界(胎蔵界)※前期展示 京都・神護寺蔵

さらにスゴいのは、これが空海自身がプロデュースした曼荼羅だということ。唐に渡った空海が帰国後に拠点とした前身寺院の高雄山寺は、まさに“空海デビュー”の場所。そうした“空海の息吹”が感じられる寺宝が現代に受け継がれてきていることが、神護寺のスゴさだと強調します。

空海の入定後、神護寺は火災などで荒廃していましたが、後白河法皇や源頼朝といったパトロンを得た文覚が、尽力して復興。その弟子たちによって伽藍装備が進められ、法皇や頼朝から寄進された荘園が経済的な基盤となり、神護寺はさらに発展していきました。

みどころ② ご本尊の国宝「薬師如来立像」が初のお出まし!

神護寺の前身寺院にまつられていたご本尊の国宝「薬師如来立像」は、今回が寺外初公開。寺外でご本尊の荘厳さにふれる史上初の貴重な機会です。その荘厳な表情と量感あふれる造形について、「お寺では御簾に入っているので正面のお顔しか見えませんが、会場では正面だけでなく、斜め、離れたところからも見ることができるので、写真で見るのとはちょっと違うお顔になります」と、同館担当学芸員の丸山士郎さん。なんでここまでコワイ顔に??? というくらい、「目も厳しく口も引き締まり、威厳がある」と、その表情の荘厳な表現を解説します。

  • (中央)国宝《薬師如来立像》 (右)重要文化財《日光菩薩立像》 (左)重要文化財《月光菩薩立像》京都・神護寺蔵

平安時代初期の仏像は、一本の木から彫られる「一木造」の重量感が特徴で、角度を変えて見ることで、その重量感や厚みがいっそう実感できるそう。平安初期の彫刻の特徴がこれほどきれいにはっきりと見える像はないといいます。ぜひ様々な角度から、お腹のあたりのふっくりした表現や盛り上がった太もも、衣などの美しい表現に注目してみて。

  • 《十二神将立像》 京都・神護寺蔵

みどころ③ 現存最古の国宝「五大虚空蔵菩薩坐像」、5体が勢揃い!

さらに、国宝「五大虚空蔵菩薩坐像(ごだいこくうぞうぼさつざぞう)」が、5体が揃ってお出まし。これは空海の構想を、その後を継いだ弟子の真済(しんぜい)が実現したもので、日本でつくられた作例のうち五体が揃う現存最古のこの像は仁明(にんみょう)天皇御願とされ、鎮護国家が願われました。品の良い顔立ちと均整の取れた造形は、当時最高の技術を持った工人が制作。寺外で5体揃って公開されるのは初めてのことです。

  • 国宝《五大虚空蔵菩薩坐像》 京都・神護寺蔵

会場にはほかにも、中世神護寺の隆盛を支えたパトロン、源頼朝を描いた日本肖像画の傑作、国宝「伝源頼朝像(でんみなもとのよりともぞう)」や、截金文様に彩色の円花文の朱衣が美しい平安仏画の名品、国宝「釈迦如来像(しゃかにょらいぞう)」など、国宝17件、重要文化財44件を含む密教美術の名品など約100件を展示。

  • (右)国宝《伝源頼朝像》 (左)国宝《伝平重盛像》 京都・神護寺蔵

さらに、ふだんは神護寺の楼門で訪れる人びと迎えている「二天王立像(にてんのうりゅうぞう)」と、書院に掛けられている扁額は、撮影可能なフォトスポットに。扁額に書かれた「高雄山」とは、神護寺の山号です。

  • 《二天王立像》 京都・神護寺蔵

1200年前から現代まで脈々と受け継がれてきた空海の寺、神護寺の至宝の数々を、ぜひ会場で生で体感してください。

  • 国宝《金銅密教法具(金剛盤・五鈷鈴・五鈷杵)》京都・教王護国寺(東寺)蔵

■information
創建1200年記念 特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」
会場:東京国立博物館 平成館 特別展示室
期間:7月17日~9月8日(9:30~17:00※8/30、31を除く毎週金・土は19時まで)/月曜休/会期中、一部展示替えあり
料金:2,100円/大学生1,300円・高校生900円/中学生以下、および障がい者手帳提示の方および付添者1名まで無料