医療従事者の家系で生まれ育った中尾さんは、武田薬品工業株式会社に入社し、MR(医療情報担当者)として活動した後、2016年3月に株式会社カケハシを創業。その後、内閣府主催の未来投資会議 産官協議会「次世代ヘルスケア」、厚生労働省「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」に有識者として招へい。2022年から東京薬科大学 薬学部 客員准教授、2023年からは新潟薬科大学 客員准教授もつとめています。
◆薬剤師が「今日はどうしましたか?」と聞く理由
株式会社カケハシは薬局のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援し、より良い医療の実現を目指しています。まずは創業の経緯を聞いてみると、「患者さんが自宅に帰って薬を飲むときに、特に副作用のある薬や服用の仕方が難しい薬だと、1人で服用を続けることに何かしらの不安があると思うんです。そうしたとき“誰かに相談したい”という心理的不安を支えてあげる体制が必要になると思ったんですね。患者さんの病気や薬に合わせて、医療従事者が適切なタイミングでサポートできる、患者さんと医療従事者をデジタルでつなげる、その“架け橋”になれたらと思い、創業しました」と中尾さんは言います。
そもそも薬剤師の業務量は膨大で、「まず“薬を間違えずに調剤する”というのも当然ありますが、薬の飲み合わせを確認したり、ほかの医療機関でもらっている薬はないかチェックしたりなど、いろいろな業務があります」と説明。
さらに、薬剤師は医師からの処方箋をもとに薬を調合していますが、その処方箋には、患者さんの病名までは記載されていません。「薬によっては“この病気には処方してもいいけど、この病気には使ってはいけない”というものもあります。だから、病名がわからないと正しい判断をすることが難しいんです。薬局に行くと薬剤師さんに『今日はどうされましたか?』と聞かれると思うんですが、それは(病気に関する)情報がないためで、安全性を守るために丁寧なコミュニケーションをおこなっているんです」と解説します。
◆カケハシがリリースするさまざまなサービス
カケハシでは、そうした薬剤師の負担を減らすべくさまざまなサービスを提供しています。その1つが2017年にリリースした電子薬歴「Musubi(むすび)」です。
こちらは現在、全国7,000店舗以上の薬局で導入され、そのシェアは日本一で、「現在、日本の病院・クリニックの電子カルテ普及率は5~6割程度で、世界的には低いほうという認識を持っています。一方、薬局における薬歴(カルテのようなもの)の電子化状況は7~8割です」と中尾さん。
そこで笹川が「Musubi」を導入した薬局側の反応を伺うと、中尾さんは「“(導入することで)業務効率化につながる”というのはよくある話ですが、『Musubi』のユニークな点は、患者さんの年齢・性別・病気、(服用している)薬などを分析し、『あなたはこんな生活をしたほうがいいですよ』と提案してくれるんです。つまり(薬局が)ただ薬をもらう場所ではなく“追加情報がもらえる場所”に変わります」と実感を語ります。
このほかにも、患者さん向けにLINEを使ったツール「Pocket Musubi」も提供しています。こちらは薬局で薬をもらった後、薬剤師の方からLINEを介して患者さんに処方に合わせた質問が飛ぶようになっており、「(患者さんが)質問に回答してもらうことで、医療従事者や薬剤師が患者さんの状況をすぐに把握し、問題の発見や解決が早期にできるようになります。薬剤師が、薬の説明をして渡すという存在から、普段の生活の中で困ったことがあれば、すぐに助けてくれる存在に変わるようなツールになっています」と自信をのぞかせます。
さらには「Musubi AI在庫管理」というツールも。医薬品の在庫管理は、いつ必要か分かりにくく、発注するにしても、季節・時期に左右されることも多いため、経験を積み重ねた熟練スタッフの“職人技”に頼っている部分が多いそう。そこで、このツールを使えばデータで在庫管理ができ、発注量もAIがサジェストしてくれるため業務量が激減するとのことです。
◆薬剤師、医療従事者、患者のためにもDXは必須
“日本の医療体験を、しなやかに。”をミッションとして掲げているカケハシ。中尾さんに、この意図について伺うと、「日本の医療はかなり社会保障に頼っており、しかも国にはお金がないという切迫している状況です。この状況下では、医療従事者は大変な働き方をせざるを得ません。効率的かつ生産的に患者さんを助けられる持続可能な医療インフラをつくっていきたいんです」と力を込めます。
さらには、「“しなやかさ”には『パキッと折れない』という柔らかさと強さの意味合いが込められています。患者さん側の医療体験を充実させることは当たり前で、医療従事者の働き方も持続可能にする、という思いを込めてこの言葉にしました」と語ります。
最後に、今後の展望について伺うと、「日本では、高齢者など家で治療を受ける患者さんが増えています。すると、医師や看護師だけでなく、薬剤師も患者さんの自宅に訪問し、薬の管理などもしていかなければなりません。そうなると、より業務も膨大になってくるだけに、すべてを効率的に回せるような仕組みをつくらないといけない。そうでなければ、薬剤師が疲弊してしまいます」と危惧。
だからこそ、薬局のDXの必要性を強調し、「以前は薬剤師も大きなファイルを持って訪問しなければいけませんでしたが、『Musubi』があれば、医者とディスカッションして即座に正しい情報を伝えることができますし、フォローアップも、電話ではなくPocket Musubiを介してできれば効率的です。“生産性を高めて多くの人を守る”ということを考えると、デジタルの活用は、患者さんにとっても薬剤師にとってもハッピーになると思います」と話していました。
次回7月20日(土)の放送も、中尾さんをゲストに迎えてお届けします。中尾さんの仕事術や未来のビジョンについてなど、貴重な話が聴けるかも!?
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<番組概要>
番組名:DIGITAL VORN Future Pix
放送日時:毎週土曜 20:00~20:30
パーソナリティ:笹川友里
番組Webサイト: https://www.tfm.co.jp/podcasts/futurepix/