第83期順位戦B級1組2回戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)の羽生善治九段と大石直嗣七段の対局が、7月13日(土)に東京・将棋会館で行われました。羽生九段の新型コロナ感染のため延期されていた1戦です。その結果、103手で羽生九段が勝利を収めました。

対局は、先手は羽生善治九段、後手は大石直嗣七段で始まりました。序盤では、両者が慎重に駒組みを進め、相手の出方を伺う展開となりました。角交換を経由しながら後手は2筋に飛車を振り、ダイレクト向かい飛車を採用しました。その後、先手の羽生九段が1歩得を主張し、後手の大石七段は金を手持ちにできているのが得と主張します。この序盤の均衡が後の中盤戦の激しい攻防につながっていきます。

昼食休憩を挟んだ後、局面は徐々に動き始めました。先手が6筋に浮いた後手の歩を銀で咎めにいくと、後手はそのために逆に浮いてしまった先手の4筋の歩とその先にある先手飛車に対してにらみを利かす角を打ちます。ここで羽生九段は43分長考し、狙いをつけられていた飛車を動かし浮いていた歩を支えます。しかし、これで先手の2筋には守りの駒が不足する状態になります。

先手は左右からの挟撃、後手は中央から攻撃

後手は2筋から突破を志向しますが、先手はこれを相手することなく6筋、7筋から銀をねじ込んでいきます。それでも、後手は2筋を伸ばしていきますが、これとクロスカウンターになるように先手は3筋、4筋でも後手陣に迫ります。その後、後手は中央からの突破、先手は左右からの挟撃の対決となってきます。

夜戦に突入すると、戦いはさらに激化。先手は3筋にと金を侵入させ、飛車にプレッシャーをかけます。後手は攻略途中になっている自らの2筋の歩が障害となり、せっかくの飛車攻めに速度が出ません。さらに8筋の後手角に成銀で突撃。先手の挟撃がどんどん進行します。

その刹那、後手は先手玉のコビンの隙を見逃さず、6筋に歩で嫌味をつけにいきますが、羽生九段は1時間弱の長考の後、これも恐れるに足らずと無視し、攻めを続行します。後手もさらに攻めを試みますが、先手は守るとなると丁寧に駒を補強し守りを固くしつつ、玉が窮屈にならないようにスペースをあけておく慧眼さを発揮。

先手がはっきりと優勢となってきた局面で、後手はこのままではジリ貧と見たか、先手陣の6筋に猛アタックします。先手は玉を8筋に逃がして安全を確保した後、相手飛車に当てつつ、自陣にも利かせる攻防の妙手となる角を4筋に打ちました。

1分将棋でも、20手以上の詰めを読み切った羽生九段

ここで後手も意を決して相手陣に桂馬を飛び込ませて先手玉に詰めろをかけます。一方、羽生九段は先に時間を使い切っており1分将棋に突入します。会長職の激務の最中のコロナ感染、そして病み上がりの最初の対局が体力を消耗する長時間の対局という状況。さらに1分将棋状態での詰めろをかけられているとあって、羽生ファンから悲鳴があがります。

それでも時代のヒーローは、指す将棋が違いました。20手以上の詰めを完全に寄せ切り、最終的には103手で23時7分、大石七段の投了を引き出しました。これで羽生九段は2勝0敗、大石七段は0勝2敗となりました。

  • 先の長い順位戦だが、羽生九段は2連勝と好調な滑り出しだ(写真は第72期ALSOK杯王将戦挑戦者決定リーグのもの 提供:日本将棋連盟)

    先の長い順位戦だが、羽生九段は2連勝と好調な滑り出しだ(写真は第72期ALSOK杯王将戦挑戦者決定リーグのもの 提供:日本将棋連盟)