第83期順位戦(主催:朝日新聞社・毎日新聞社)のA級2回戦が7月12日(金)に行われました。このうち、関西将棋会館で行われた永瀬拓矢九段―菅井竜也八段の一戦は、永瀬九段が70手で勝利しました。

先手は菅井八段、後手は永瀬九段で対局が開始され、菅井八段が初手で5筋の歩を上げていたため戦型は中飛車かと思われました。しかし、後手が8筋の歩を伸ばしてくるのを見てか、先手飛車は8筋に移動し、盤面は向かい飛車となります。

そして両者は角道を開けたまま、駒組が進みます。後手は玉が三段まで上がり天守閣美濃の構えを見せます。先手は香車を上げ穴熊を志向。先手陣形の堅牢さを警戒してか、後手は銀冠に移行していきます。

一触即発の局面から、盤面中央で開戦

やがて先後とも駒が上がりきり、盤面は1筋から7筋まで互いの駒が睨み合う一触即発、開戦直前の状態に。そして先手が5筋、4筋に歩をぶつけていきます。ここで後手が駒を引くと、4筋に移動していた飛車で敵陣を破る狙いがあります。しかし、後手はここで引かず、むしろ頭突きのように相手の銀の前に銀を差し出す手を選択します。ここで先手銀は下がりますが、これが飛車の動きを悪くしてしまいます。

さらに後手は先手の守りの陣形から前に出ていた3筋の銀を歩でとがめて押し返します。結果、5筋、4筋で後手を圧倒するはずが、逆にじりじりと後退させられ、さらに後手は争点になりそうな場所にも歩を配置し、状態はまさに盤石でした。

相手がひるんだと見たか、後手は攻めを加速します。このままでは勝ち目なしと先手も攻め合いで応戦し、角交換で角を持ち駒にして状況の打開を試みますが、後手は相手角とぶつかっている自らの飛車の横に銀を打ち込み、角交換を拒否。まさに相手の希望の光を完全に消す、激辛な一手を放ちました。

この手を見て、菅井八段が21時58分、投了を告げました。最後まで諦めない棋風の両者ゆえ、終局はてっぺん超え確実かと思われましたが、終わってみれば両者持ち時間を1時間前後残した状態で、70手という少ない手数で決着しました。

これで永瀬九段は1勝1敗、菅井八段は0勝2敗に。永瀬九段は名人挑戦に一歩前進し、菅井八段は負け星がさらに先行してしまいました。戦いが進むにつれて降級のプレッシャーがかかってくるため、菅井八段は次の対局でなんとしても勝ち星を掴まなくてはいけなくなりました。

  • 昨年2位で惜しくも名人挑戦とならなかった永瀬九段だが、この勝利で一歩前進した(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)

    昨年2位で惜しくも名人挑戦とならなかった永瀬九段だが、この勝利で一歩前進した(写真は第93期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第1局のもの 提供:日本将棋連盟)