ビザ・ワールドワイド・ジャパンは、30年以上に渡ってAIに取り組んでおり、最近では今注目が高まっている生成AIへの研究も進められているといいます。そんなVisaのAIに対する取り組みをチェックしてみました。

  • VisaのAIに関する取り組みについて説明したコア・プラットフォームソリューションズ部長の田中俊一氏(右)とコンサルティング&アナリティックス部長のクリストファー・ビショップ氏

Visaは1993年からAIを活用

Visaが最初にAIを導入したのは、1993年に同社の決済ネットワークVisaNetに搭載した技術が始まりでした。これは、一定のパターンに近い取引を不正と判断するかどうかといった不正対策を狙ったものだと、同社コア・プラットフォームソリューションズ部長の田中俊一氏は説明します。

  • 1993年からAIを活用

一般的にAIはこれまで3回のブームがあったとされており、93年頃は第2次ブームの頃。そこからAI自体はいったん下火になりましたが、2010年代に入って第3次ブームが訪れ、それは現在まで続いています(生成AIを第4次ブームと捉える人も)。

Visaが93年に採用したAIは、決済ネットワークへの導入例としては世界初でしたが、シンプルなリスクと不正モデルに基づいていました。2013年以降は、機械学習やディープラーニングといった新たな技術の発展で、Visaの製品にも幅広く取り込まれていくことになったそうです。

2013年以降では、例えばクレジットマスター攻撃に対応するAIモデルとしてVAAI(Visa Account Atack Intelligence)を開発。ユーザーが旅行時にどのように行動するかを予測するTravel Predict(行き先予測モデル)、カード有効性をAIで確認するSmarter AV(Account Verification)、リアルタイム決済での不正検知を行うVisa Protect for A to A paymentなど、様々なプロダクトが投入されていると田中氏は説明。すでに300以上のAIモデル、100以上のプロダクトが開発されているそうです。

  • 2013年以降のAIを使ったプロダクト

セキュリティ・利便性・業務効率をベースに開発

AIを活用したプロダクトは、セキュリティ、利便性、業務効率という3つの柱をベースに開発を行っていると田中氏。例えばVCAS(Visa Consumer Authentication Service)は、EMV 3-Dセキュア(3DS)向けの製品で、認証に特化したAIと何百ものリスクベースの機能などが不正パターンを検出して解く手。最終的に1~99のスコアを算出して不正かどうかの判断に繋げます。

  • プロダクトの一例

  • 例えばVCASは認証に特化したAIのモデルを構築して不正パターンの検出、特定、1~99の2ケタ数字でスコアを提供する分かりやすさなどを提供

EMV 3DSは、こうしたスコアなどから不正ではないと判断すればそのまま決済が完了するため、従来のように別途ワンタイムパスワードを入力するといった手間がなく、85%の決済時間の短縮と70%のカゴ落ち率の減少といったメリットがあります。

  • AIによって不正検出の精度・速度が向上することで、追加認証が不要になってカゴ落ちが減少するなどのメリット

Visa Advanced Authorization(VAA)は、約30年に渡ってVisaNetで動作しているAIで、「かなり多くの不正取引を実際に削減している」と田中氏。その削減規模は年間で280億ドルにもおよび、約1ミリ秒あたり500以上の取引を処理できるなど高速に動作しています。

  • 機械学習によって不正取引を特定するVAA

2020年から展開されているSmarter STIPは、Visaでにおける初のリアルタイム決定を行う深層学習モデルとされています。基本的にはイシュアのシステムが停止した場合にVisaが取引を代行することでオーソリを処理するプロダクト。これまでは決まった金額や件数の中で代行処理をしていましたが、Smarter STIPだと深層学習モデルを活用して過去の承認状況などのデータや個別の承認パターンを活用して代行処理を行います。

  • イシュアの障害時でも普段と変わらずにオーソリが可能になるSmarter STIP

生成AIの活用は?

こうした中、同社は生成AIにも取り組み始めています。現状は、「生成AIを活用した業務効率化や不正防止などのソリューションをイシュアやアクワイアラなどに提供する」という形のようです。

  • 金融機関や加盟店では、生成AIを活用した取り組みが進んでいます

例えば不正防止では、偽造・盗難されたの身分証明書を使ったeKYCで不正を検知する技術や盗難されたカードやクレジットマスター攻撃などをリアルタイムで判定して不正取引を検出するといった技術が生まれています。

  • 生成AIを活用した不正対策の取り組みも増えています

  • ただし、犯罪者側も生成AIを使うようになっていて、イタチごっこが続いています

Visaは金融機関に対して提供するのは、例えば過去の購買パターンという大規模データを活用して、生成AIが「旅行予約やレンタカー予約をした人は次にこうしたものを購買する」といった予測を行うターゲティング広告の仕組みや、生成AIを社内で取り組むことの検討の支援、チャットボットや分析ツールなど生成AIソリューションの共同開発などだといいます。

  • 生成AIを活用したVisaの取り組み

逆に言えば、現在のVisaが提供する決済に関する各種プロダクトにおいて生成AIの採用はまだ進んでいないということになります。例えばVisaNetの不正検知も、生成AIでパフォーマンスが向上したり、VCASのスコアをさらにイシュアが活用できるようなソリューションにしたり、新たなプロダクトに繋がる可能性はあると田中氏は説明します。

  • 生成AIの活用でどんなメリットがあるのか、という説明

Visaが抱える膨大な決済データの活用も含めて、生成AIに関して研究開発を継続していく考えです。

こうしたVisaの研究開発は、これまでグローバルで開発したものを日本などの個別のリージョンに展開していくのが常でした。しかし昨今は、リージョンごとに開発したソリューションをそれぞれ展開していくトレンドになっているとコンサルティング&アナリティックス部長のクリストファー・ビショップ氏は話します。

その代表がSMBCグループとの協業によるOliveのフレキシブルペイで、これは「日本発のイノベーション」(ビショップ氏)だといいます。Visaでは、こうした日本発のプロダクトの開発も行って、5年後には「日本の決済エコシステムが世界で最もスマートでパーソナルなものとなり、消費者の日常生活の主役となること」を目標として掲げています。

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    今後もAIに対する投資を継続し、さらに自社プロダクトでも生成AIの活用も進めていきたい考え。5年後には日本の決済エコシステムをさらに進化させることを目指しています