皇居東御苑の皇居三の丸尚蔵館で、「いきもの賞玩(しょうがん)」が始まりました。水の中の魚、草むらに潜む昆虫、野山をかける小動物――そうした小さな生き物を象った工芸品や絵画、書跡などを紹介するこの展覧会には、生き物の生命感をいかに瑞々しく描写するかにこだわった伊藤若冲の国宝《動植綵絵》から、ガチョウと昆虫を描いた作品が登場するなど、名品が多数おめみえしています。
そのもののよさを楽しむ、という意味をもつ“賞玩”。同展は、「詠む・描く」「かたどる・あしらう」「いろいろな国から」という3つのパートで構成。昆虫や鳥を詠んだ漢詩や和歌、動物が描かれている場面の絵巻などを紹介する「詠む・描く」には、伊藤若冲の国宝《動植綵絵》のうち、前期は《芦鵞図》が、後期には《池辺群虫図》が、一幅ずつ登場します。
前期に紹介される《芦鵞図》は、背景の葦は水墨であっさりと描かれ、手前には白いガチョウが一羽。画面構成としてはシンプルですが、このガチョウの羽の表現を通して、ニワトリを描くのが得意だった若冲が鳥の羽をどう観察し、どう再現しているのか、全三十幅の中で一番わかりやすい作品なのだそう。ちなみに後期に登場する《池辺群虫図》は、ヘビに蛙におたまじゃくし、バッタにヤモリにアオムシにカタツムリ……と、ありとあらゆる虫が描かれた“若冲ならではの空前絶後の一幅”とのことで、そちらも期待大。
ぱっと見では、なぜこれが“いきもの賞玩”なの? という作品も登場します。たとえば、古今和歌集の一首が小さな色紙に散らし書きされた《和歌色紙》は、色紙自体に生き物は描かれていませんが、表具に花鳥があらわされています。江戸前期の公家・近衛家熙の言行を日録風に記した『槐記』には、これが“後西天皇のお好みの仕立て”と記されていたそうで、そんなバックボーンを知りながら鑑賞していくのも楽しいですね。
続く「かたどる・あしらう」では、本物と見紛うように精巧な置物から、あまりの愛らしさにキュン! となるものまで、かつて明治宮殿などを飾るために作られた工芸品の数々が登場。昆虫があしらわれた大きな花瓶や、吉祥や平和を象徴する鳥を刺繍や織物であらわした壁掛けなど、さまざまな技法の作品を紹介しています。
公務を通じてさまざまな国と交流を育んできた皇室。そうした皇室外交を通じて、これまでに各国からその国の伝統工芸品や、代表的な作家による美術品が贈られてきました。最後の「いろいろな国から」では、美しいガラスの花瓶の魚や宝石の鳥、古代の壺や色鮮やかなアップリケに象られた鳥や動物など、世界各地の多様で多彩な「いきもの」たちの姿が楽しめます。
なお毎週金曜と土曜は20時までの夜間開館を実施しているので、お仕事帰りに立ち寄って、癒されるのもいいですね。皇室に伝えられる作品を通じて、地球上に生きる小さな「いきもの」たちを賞玩する同展は、9月1日まで開催です。
■information
「いきもの賞玩」
会場:皇居三の丸尚蔵館
期間:前期:7月9日~8月4日 後期:8月6日~9月1日(月曜休、ただし7/15・8/12日は開館、翌火曜休)
時間:9:30~17:00(7/9は13時開館)、7/26と8/30を除く毎週金土は20:00まで開館
料金:1,000円/大学生 500円/※高校生以下及び満18歳未満、満70歳以上、障がい者手帳提示の方および付添者1名まで無料