ブラインドフットボール(ブラインドサッカー)パリ2024パラリンピック前最後の国際大会となる「ダイセル ブラインドサッカージャパンカップ 2024 in 大阪」が行われた。
2022年1年に中川英治監督が就任して以降、日本代表にとって国内での大会は初めてだ。
会場となった大阪駅前のうめきた広場には連日、ファンや通りがかりの人たちが集まり、アイマスクを着けて相手のボールを奪い、スピーディな攻守の切り替えを見せる選手たちのプレーに酔いしれた。
大阪駅前で行われたパリの“壮行試合”一方、パリで決勝トーナメント進出とメダル獲得を目標とするチームにとっては、有観客をイメージする舞台だった。エッフェル塔スタジアムの収容人数は約1万2000人。音の反響はスタジアムとは異なるが、電車や噴水の音が聞こえる喧騒の中で、日本代表チームはパリを想定した強化試合を行った。
ジャパンカップには、パリ大会には出場しないメキシコ(世界ランキング9位)、マレーシア(同26位)、そして本番で同じグループのモロッコ(同8位)が出場。過去5年、対戦経験がなかったアフリカのモロッコとは、総当たりの予選第2戦と決勝で激突した。
見えない選手にとって、たとえ情報があっても、実際に対戦してみなければ相手のスピードや当たりの強さはわからない。キャプテンの川村怜は大会前「本番前に体感できるのはありがたい」と話していた。
守備でも貢献する後藤は、中川JAPANの新しい攻撃のプレーモデルとなっているモロッコからの初勝利はおあずけ日本には得点できる選手が複数いるが、前日のマレーシア戦では川村が1点を挙げただけだった。
日本はモロッコに勝利したことがない。本番前に自信をつけるために、喉から手が出るほど勝利がほしかったことだろう。パリ本番と同じ大会第2戦目に行われたモロッコ戦は、ズハイール・スニスラ(背番号9)、アブデラザク・ハッタブ(背番号10)の両エースがベンチスタート。そんな中、日本の新戦力、後藤将起と平林太一の得点が期待されたが、ゴールを割れなかった。
「ずっと対策してきた相手だったけれど、一枚上手だった。ゴールに告って振られた気分です」
チーム最年少の平林は悔しそうに振り返った。
今大会、ゴールが決まらず苦しんだ平林試合は0-1で敗戦。選手たちは悔しさをにじませたが、中川監督は、「カウンターに入るところがすごくよかった」と前を向いた。
さらに、試合経験の少ない髙橋裕人もトップで出場。「強度やプレッシャー、サイズ感を感じてもらい、本番で爆発してもらえたら」と中川監督。
多くの収穫を得たパラ初出場になる髙橋守備面では、(背番号9と10がいる)センターラインに入れてシュートに持ち込む場面を警戒し、「相手の意図の通りにやらせない、ということができた」と手ごたえを得た様子だった。
3戦目にメキシコに引き分けた日本は、再び決勝でモロッコと対戦する権利を手に入れた。日本は川村のゴールで先制したものの、第1ピリオド終了間近に追いつかれ、PK戦に突入。1-2で落とし、ホームでの白星締めとはならなかった。
チームの得点力に関して、今大会2得点の川村は言う。
「今日は、平林選手も、後藤選手も、鳥居(健人)選手もチャンスがあった。そのチャンスを決めきれるような力を、チームとして身につけたい」
湿気によるグリップでボールが引っかかり、コントロールが難しかった」と川村世界に映像が配信されている状況で、互いにすべての手の内を明かしているわけではない。そんな中でも、強敵との対戦や日本が苦手とするPK戦を経験できたことはパリへの布石になるだろうか。
残り2ヵ月を切ったが、「選手たちが実行できる戦術につけ加えられる要素はかなりある」と中川監督。「モロッコに対してどんな攻撃のアクション、守備のアクションをするかというのをもう一度考えることができる」と前向きにとらえた。
キャプテンの川村は、パリに向けて、決意を新たに語った。
「モロッコだけではなく、(初戦で当たる)コロンビアも、(予選3戦目の)アルゼンチンも非常に強豪。準決勝に行かないとメダルはないので、とにかく初戦で勝ち点3を取れるような準備をしたいと思います」
代表引退の選手も今大会の前に発表された、パリ大会日本代表には、長年日本代表をけん引してきた黒田智成、田中章仁の名前がなかった。
そのうち田中はこのジャパンカップを「代表最後の大会」と位置づけて臨んだ。大会を終え、出番がなかったことに悔しさをにじませながら、「選手としては一区切りになるが、なんらかの形で若い選手のサポートをしていきたい」とコメント。
そして、こう続けた。
「(川村)怜には『勝って終わりたい』と話はしていたんですけど。でも、ここで勝つよりも、悔しさを持って強い気持ちでパリに行き、パリで喜んでもらえればいいなと思う。(ジャパンカップが)銀メダルでよかったと思える結果を、パリで残してきてもらいたいと思います」
今大会には歴代の日本代表選手や監督、無観客だった東京パラリンピックを観戦できなかった選手の家族らも多く足を運んだ。共に世界の頂点へ――現在、世界ランキング3位の日本代表は、この夏、世界の頂点を目指す。
text by Asuka Senaga
photo by Haruo.Wanibe/JBFA