星野リゾートの組織文化を「作品」として世に残したい。組織文化が将来的な競争力を維持していく。

本の要約サービス・フライヤーが展開する「Dig Talk」は、本をひとつのきっかけとして、その人の人生の奥底を「深掘る(ディグる)」動画コンテンツです。

今回は、軽井沢に始まった星野温泉旅館を日本を代表する総合リゾート運営企業である「星野リゾート」へと成長させた星野佳路さんが登場。その経営の背景にある思想や学びに、星野さんも着目する『ビジョナリー・カンパニーZERO』を翻訳した土方奈美さんが迫った番組のハイライトを紹介します。

30代前半で家業を継いでから破竹の勢いでビジネス規模を拡大し続けている星野佳路さんは、旅行関連業界が軒並み低迷したコロナ禍でも運営施設数を伸ばし、世界的にもその経営手腕が注目されています。そんな星野さんが経営において大事にしていることとは? 前後編動画の見どころを4つ、紹介します!

■ビジョンなきところに成長なし

星野さんはとにかく「ビジョンを将来像として持つこと」の重要性を語ります。

ビジョンが無いと、ビジネスはリスクとリターンの関係だけになる。それは投資家の目線であって、そのスタンスをとる経営者は競合他社と何ら変わらないことしかできなくなってしまいます。

将来像が決まっていれば、リスクの高低にかかわらず、通らざるを得ない道筋、チャレンジすべきタイミングが見えてくる。星野さんが「経営の教科書」のひとつとして大事にしている「ビジョナリー・カンパニー」シリーズを著したジム・コリンズは、これを「大胆な戦略に出る瞬間」と表現しています。

星野さん自身も「身の丈に合っていない戦略に出たこと」を何度か経験しているそうです。ビジョンがあったからこそ、会社の社運をかけていかざるを得ない、という確信をもてた。それがなければ、いまの星野リゾートはないとまで述べるのです。

星野リゾートのいまの姿は、ビジョンを持つか持たないかで成長率が変わるという「ビジョナリー・カンパニー」の研究に対する証拠ともいえるでしょう。

■一見すると矛盾する感覚でも

『星野リゾートの教科書』でも「ビジョナリー・カンパニー」シリーズが紹介されていますが、「教科書同士で主張がバッティングするもの」もあるはず、と土方奈美さんは問いかけます。たとえば、「近代マーケティングの父」と言われているコトラーは、経営に必要なものとしてドラッカーはマーケティングとイノベーションを挙げていると主張していますが、ジム・コリンズは「イノベーションは一番乗りじゃなくていい」と述べているのです。

これに対して星野さんは、「私のなかではあまり矛盾しているという捉え方はしていない」と語ります。星野さんにとって「教科書」とは、「具体的な課題を抱えているとき」にその解決への「治療法」として選ぶものだからです。

それぞれの主張がバッティングしたとしても、「この課題への治療にはこの教科書が一番効く」と判断するのは自分自身。経営者に問われるのは、「教科書というツールを使いこなす術」であり、そのツールをいったん信じたらそれを「しつこくやる」ことも大切になる。では今度は、ビジョンの追求と利益の追求が矛盾する場面に出くわしたときはどうするのか、と土方さんは問います。この質問に対する星野さんの回答にはハッとさせられました。

■フラットな組織に「思い」を浸透させるには

星野リゾートはコロナ禍における対応がうまくいっていたことを評価されています。その秘訣はどうやら「組織のつくり方」にありそう。星野リゾートではケン・ブランチャードの理論にもとづいた「フラットな組織文化」を志向しているとのこと。

危機にあたっては、経営判断はもとより、普段から組織が「対応可能な状態」になっていることが大事なのではないかと星野さんは語ります。「ビジョナリー・カンパニー」シリーズはその教科書としても最適。なかでも『ビジョナリー・カンパニーZERO』には、ビジョンの設定と同じくらい社員への共有が重要だと書いてあるのです。共有は組織としての強さを生みます。

たしかに、ビジョンを設定するだけで浸透しなければ、それはただの「お題目」になってしまう。社員がそのビジョンを将来像として真剣に思ってくれない。だからこそ星野さんは、毎年「強烈な勢いで共有の仕事をやっていた」。そのひとつが、社員それぞれの誕生日にメッセージ付きで配っていたカップ(Visionary Cup)。なるほどと感じる取り組みです。

■「教科書を読ませる」という感覚は大人じゃない

星野リゾートの理念を実現していくには、それこそ社員全員が『星野リゾートの教科書』に掲載されているような本に親しんでもらい、共有していくことも必要なのでは、と土方奈美さんは問いかけます。

星野さんはその言葉にうなずきながらも、「読ませている」となると「フラットな組織文化」ではなくなると返します。星野さんたちが目指しているのは「マチュアな組織」。学校の先生と生徒の関係のように、会社が「こうしなさい」とルール化すればするほど、新しい発想を出しにくくなってしまう。

だから星野さんは、「今回のこの判断はこういう教科書に基づいて行なっている」というように情報公開するだけなのです。勉強したいスタッフは情報が手に入るし、興味のない人は読まなければいい。評価にも影響しないし、「こうなってほしい」とお願いもしない。それが組織の自由度を育むのです。

とはいえ、『星野リゾートの教科書』には「一行一行理解しながら全部読め」「中途半端なところを残しちゃいけない」とも書いてあることを土方さんは指摘します。この鋭い質問にも、星野さんはさすがな回答をしています!

いかがでしたか? これらの内容を、星野さん、土方さんの声と表情付きで受け取れば、より強い納得感を得られるはずです。ご興味のある方はぜひ、本編動画をお楽しみいただけますと幸いです。