フランス軍関係の展示会「ユーロサトリ」で見た新技術|水と電気と二酸化炭素から作られる合成燃料に注目!

フランスでは、内務省主催のMILIPOLと国防省主催のEurosatoryが交互に開催される。MILIPOLは警察関連、Eurosatoryは軍関係の装備品の展示会だ。今年はEurosatoryが開催された。ここでは、銃などの小火器から戦車、ヘリコプター、ミサイルなどが展示される。展示というのは、ここで顧客を見つけてビジネスを行う場だ。フランスは武器輸出に力を入れており、フランス国内はもとより、世界中のメーカーがここに集まり、フランス軍向けに宣伝する大きな機会となっている。ちなみにジャパンパビリオンも設けられ、日本企業も防衛装備庁の主導で参加している。

【画像】普段はなかなかお目にかかれない軍用装備品、車両の数々に圧倒される(写真13点)

もともとはヴェルサイユ近くのサトリ市で「フランス軍に良い製品はないか?あれば持ち込んでくれ」という小さな内輪の展示から始まり、現在では世界62カ国からの出展があり、150を超える国から6万2000人を超える来場者が訪れる規模になった。

そんな中、我々octane.jpが注目するのはもちろん車である。普段は目にすることのない軍用車両が各国から集まるのだ。このEurosatoryでは、会場に車両を置く展示だけでなく、会場の野外に設置した特別ステージで実際に走行する等の”ダイナミックデモンストレーション”が行われる。それらの車を実際に使用している軍や警察特殊部隊などが、運用の一部を見せて売り込もうというわけだ。

一昔前は空気を必要としない”パンクしないタイヤ”などが車の新しい技術として話題になった。今回はなんと言ってもこれ、燃料だ。フランスは電動車を推し進めている。それは、フランス車が電動自動車でイニシアチブを取り、フランス車の復権を狙っているからだ。さらに、フランスは原子力を国の大きな産業としており、その拡大を目論んでいる。フランス全土で電動自動車が普及すると、さらに原子炉が11基必要になると言われており、すでに7基の増設が決定している。しかし、これは本当にクリーンエネルギーと言えるのだろうか?車一台のバッテリーを採掘から生産するまでにどれだけの燃料が消費されるのか?また、使用済みのバッテリーの処理はどうなるのか?電動自動車が環境に優しいかどうかには、多くの課題が残されている。

お隣のドイツではディーゼルエンジンで大きくリードしているが、ヨーロッパが電動にシフトして、せっかくの技術が埋もれてしまいそうだ。一昔前のディーゼル車の有害な排ガスのイメージがまだ残っているからかもしれない。現代のディーゼルは一般のガソリン車と大差ない排ガスにまで進化している上に、ガソリン車に比べて遥かに燃費が良く、パワーも得られる。軍用車両のほとんどがディーゼルエンジンである。

そんな中、今回注目したいのが、このEurosatoryに向けて発表されたドイツのラインメタル社のGIGA PTXだ。水と電気と二酸化炭素から合成燃料を作る技術である。水と電気と二酸化炭素から作られた燃料で、ディーゼルエンジンが軽油と同様に運用できるというものだ。もちろん排ガスはクリーン。現時点では軍用としてのみの展開だが、精製プラントは大がかりなものではなく、トラック一台で必要十分な燃料を精製できる。何より、すでに使われているディーゼルエンジンに使用できるというのは大きなメリットで、その燃料に合わせた改造や電動車両への入れ替えが不要である。この燃料は車両だけでなく、航空機や船舶にも使用可能だ。こんな夢のような燃料が登場したのだ。現在はNATO全域での使用を目標としており、その後に市販向けのプラントに移行するとのこと。コストを考えても、この技術が普及すれば燃料代も現在の軽油よりも安くなるという計算だ。

日本の水素燃料エンジンと共に、本当の意味でのクリーンな車を実現しようと担当者から最後に言われた。この錬金術のようなシステムが、自動車の明るい未来を感じさせるのだった。

写真・文:櫻井朋成 Photography and Words: Tomonari SAKURAI