社内のコミュニケーションが大事だと会社から言われ、得意ではないけど頑張って若手社員へ話しかけると、「ハラスメントだ」と指摘される……。そんな危惧を抱くサラリーマンは少なくないでしょう。
もう何が適切なのか分からない! と絶望するロスジェネ世代の筆者。
先日、リクルートマネジメントソリューションズが「~Z世代の成長を後押しする、はじめの一歩は『ゆるく』×『ひろく』~」と題した「新入社員意識調査2024」を発表しました。
若手社員と接するのが怖いと思うサラリーマンに何かヒントはないのかと、発表会で探してきたのです。
Z世代が働きたい職場
同社の公開型新入社員導入研修「8つの基本行動」の受講者と、インハウス型新入社員導入研修およびWEB学習プログラム(学習管理システム利用)の受講者を対象に行われた調査結果を紐解く内容となる本発表。
HRDサービス開発部 トレーニング開発グループから主任研究員の桑原正義さん、研究員の武石美有紀さん、関根彩夏さんの3人が解説してくれました。
ここでは前提として、「X世代=1965年頃~1979年頃生まれ」「Y世代=1980年頃~1995年頃生まれ」「Z世代=1995年頃~2012年頃生まれ」と定義されています。
ただ多様性が尊重されるイマドキ、世代で一括りにするのもどうか? という意見もあるでしょう。
これについて関根さんは、「私たちとしては、世代分析から良し悪しを導き出すのではなく、その時代や環境によって身に付きやすいものや考え方、価値観において異なる部分を探り、分析したいという考えから世代区分しています」と説明します。
あえて世代区分することで、それぞれの育ってきた背景に対する理解、それが相互を理解する「はじめの1歩」につながるでしょうと言うのです。つまり解像度を高めるためという理解でOK?
その上で、「新入社員時代に身に付けるべき重要なこと」「働きたい職場」「仕事をする上で重要なこと」などの調査結果が紹介されました。
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それぞれ興味深い結果ですが、筆者が特に気になったのは「職場の特徴」ですね。
昔からよく聞く言葉、社員間の仲が良い、居心地がいいなどを指す「アットホーム」が過去最低にきて、「お互い助け合う」「遠慮をせずに意見を言い合える」が上位に挙がっているのです。
上の2つは相反しませんか? と疑問に思いました。そこは関根さんたちも気になったようで、次のように分析しています。
「『お互いに助け合う』は調査を開始して常にトップに挙がる項目、そして『遠慮をせずに意見を言い合える』は過去最高のポイントを出して上位に登場しました。もう一つ面白いのが、『いずれかではなく、どちらも選択している』回答者が多かったこと。つまり、『助け合う、遠慮せず言い合う』の両立を求めている傾向がうかがえたのです」(関根さん)
相互に助け合うことは普段の生活や学生時代によくあること。また、多様性に満ちた社会の中、個々の個性が尊重され、自身の意見や考えを誰でも発信できるのが当たり前に育っているので、言いたいことは言うことへの重要性が高いのでしょうと説明します。
「この2つの特徴を合わせる、お互いに助け合いながら成果をしっかり出す。言いたいこともしっかりと言える関係性を築ける、つまり心理的安全性が担保された環境を彼らは求めているのでしょう。 それは学生時代にも同様の環境を経験したからこそ、社会に出ても同じような環境を欲していると推測されるのです」(関根さん)
心理的安全性を攻略せよ
心理的安全性はグーグルが注目し、一躍有名となったコミュニケーションやチームビルディングでのビッグワード。Z世代とコミュニケーションを取るには、必要不可欠な要素のようです。
リクルートマネジメントソリューションズではこの考えを「組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のこと」と説明しています。
確かに意味はわかるし、一見難しいものではなさそう。
でもね、筆者の例でいうと、別にお酒好きでもないけど会社の飲み会に参加し、喫煙の習慣もないけどタバコ部屋での雑談に身を投じるなど、頑張るのが社内のコミュニケーションだったのですよ!→魂の叫び
これは多くのおじさんたちに「自分もだ」と賛同してもらえるのでは?
ところが、Z世代には、そうしたコミュニケーションはNG。下手するとハラスメントとして非難されることも、それが今の世の中なんです。ではどうする?
ここで一つ紹介したいものが。
X世代、Y世代、Z世代がそれぞれをどのように見ているのか、阪急阪神不動産社の人事部がリクルートマネジメントソリューションズと連携して実施したという社内プロジェクトの事例です。
「職場において世代問わず『お互いが学びながら生かし合う共創的な関係』を築く」を目的の一つにしているようで、対面ワークショップ+オンラインセミナー+ワークショップで構成された取り組みの過程で、世代ごとの特徴を可視化しています。
ここに大きなヒントがあったのです。
資料によると、お互いの世代の「いいね」と「もやもや」の両方を共有、Z世代と上司世代の相互理解セッションとあり、そこから相互理解があり、共創の可能性が広がったというのです。
この相互理解が実は「ハラスメントにならないコミュニケーション」の大事なポイントでしいた。そこで桑原さんに、「相互理解があればハラスメントのリスクは軽減できるのですか」と聞いてみると、以下のアドバイスを頂けました。
「自分の部下やチームのメンバーの何がOKでNGか、それが分かるならシンプルで、なら嫌いなことはやめる。例えば会社から『飲み会に誘うのはハラスメントになりかねないので注意』と指示されても、本人がまったく問題ないと言うなら、では行こうかとなりますよね。最後は本人とのコミュニケーションにポイントがあるのです」(桑原さん)
加えて、心理的安全性と相互理解の関係も聞いてみました。
「相互理解の中でも、それぞれの価値観レベルでの相互理解が鍵でしょうか。発言内容の背景に何かあるか、発言者がどんな経験や考えを持っていて、その上で言っていることなんだ。そうした深いレベルでの相互理解があると、かなり心理的安全性は高まると思います」
ヒントは「ゆるく」「ひろく」
Z世代とのコミュニケーションに必要なことは心理的安全性で、ポイントは相互理解。ここまでたどり着けました。では具体的にどう接するべきか? 桑原さんが明かしてくれます。
まず、改めて上司世代、Z世代の傾向を紐解いていきます。
上司世代は「置かれた場所で咲く」「鍛え合う」「自分でやりきる」「苦手を克服する」「厳しさを乗り越える」「組織に適応する」などが出ています。めちゃくちゃ共感するワードばかり笑。
一方、Z世代は「意味・価値が大事」「納得してからやる」「自分に合うものを選ぶ」「助け合う」「学び合う」「強みを伸ばす」「自分らしさを生かす」など、これもうなずける内容ばかり。
「あくまで傾向ですが、かなり違いが出ていますね。ここから時代の変化の速さが圧倒的だと分かります。つまり、ジェネーションギャップは昔からありました。ただ、今のジェネーションギャップは時代の変化があまりにも速いため、同時代にもかかわらず、『当たり前がそれぞれ異なる世代』が共存する状況なのです。おそらく今までの日本の歴史の中でなかったと思います」(桑原さん)
この状況を踏まえ、バトンタッチした武石さんが上司と新人の接し方に関するポイントを紹介します。そのキーワードは「ゆるくXひろく」です。
「ゆるくXひろくは甘やかしたり、迎合したりすることではありません。あくまで、困難な状況下で行動を促すための手段です。新人は仕事がうまくいかないと『充実感を持てない』と早々に判断して転職したり、 『自分は何をやってもダメだ』とメンタルを必要以上に落としたりすることが多いです。そこで、初動のタイミングではゆるくXひろくの要素を多く取り入れることをお勧めします」(武石さん)
新人が失敗してうまくいかなくても、チャレンジしてもらい、小さくても成功体験を積んでもらい、期待通りに進む状況を作り出すのが大切だと武石さんは言います。
なお、この方法は新人だけでなく、不確実性の高い状況下で仕事を進めていく中でも使えるのでお勧めだそうです。
「ゆるく」でいうと、今までは上位を目指そう、うまくいくことをやろう、などが一般的なやり方でした。それを、できそうなことからやる、失敗したらそこから学ぶ、何となくでも形として出すことに変える。
「ひろく」は苦手なことも自分でやる、確固たる基準を作るなどを、いろんな人に相談する、一見意味が感じられないこともやってみるに変えることです。
一連の説明のあと、関根さんが
「正解がない環境の中で仕事をする、多様なメンバーと仕事をする上では、新人に限らずどの社員にとっても大事な観点かなと思います。中堅の役割を担う社員や、転職したり別部署から異動したりした社員など、個々の事情で周囲にうまく頼れないという場合が多くあると思います。そうした時、ヒントカードを使っていくと、新入社員はもちろん、職場全体としてすごく心的安全性の高い場を作れるのではと思います」
と話を締めくくってくれました。
Z世代の同僚や部下とのコミュニケーションに戸惑う皆さん、「心理的安全性」をなんとか高めてみてください。言うは易く行うは難しでしょうが……。