7月26日からフランスで行われるパリ五輪で、NHKのアスリートナビゲーターを務める元体操日本代表で五輪金メダリスト・内村航平。自身は4度の五輪に出場し、金メダル3つ、銀メダル4つと合計7つのメダルを獲得したレジェンドだが、20年ぶりに選手として出場しない五輪についての思いを語った。

  • 内村航平

    内村航平

五輪は「切っても切り離せない縁がある」

内村は「自分が出場しないオリンピックというのは、アテネ以来20年ぶりですね」と語ると「体操を始めて夢の舞台として憧れの眼差しで見ていたアテネ。いつか出たいと思っていた大会に4度も出場できて、さらに今回はこういう役割で携われる。とても不思議な気持ちである一方で、自分の人生において、切っても切り離せない縁があると思います」と自身にとっての五輪を表現する。

今までトップアスリートとして大会に参加していたが、今回は選手を伝える側の立場となる。これまでも各競技のアスリートたちを取材する機会があったというが「僕は解説者じゃないので、その競技を知らない方々と同じ視線で伝えるのがいいのかなと思ったので、あまり勉強しすぎて“知ったかぶり”のようになってしまっては、逆に失礼だと思った」とあくまでも視聴者に近い目線で選手に接することを心掛けているという。

一方で、体操については「僕は経験者なので、視聴者の知りたいことはもちろんですが、僕にしか分からないようなことを聞いてみたい。体操はプロフェッショナルにできる自信があるので」としっかり切り込んだ魅力を伝えたいと考えている。

男子体操は「金か銀」

そんな内村は世界のトップに君臨していた体操について「体操男子は個人も団体も金か銀。3位になることは多分ないと思う」と断言する。金と銀との違いは「着地」だというと「パリで行われる大会なのでアウェイになる。そのなかで、いかに着地を決めて流れを引き寄せるか。しっかり着地が決まれば金。種目別鉄棒で橋本(大輝)の連覇がかかっていますが、鉄棒はかなり確率が高いと思う」と述べる。一方で「今回は中国が1番のライバル。前回大会もリオも銅メダルだったので、かなり本気で金を獲りに来ていると思う」と警戒心を高める。

女子については「あまり関わりがないので」と笑うと「後輩の村上茉愛ちゃんに話を聞いたら『3位はいけると思います』と言っていました。今回女子は全員五輪初めてなのですが、若い選手が入ると勢いが出る。僕は北京では最年少だったのですが、勢いだけでやっていたし、周囲の先輩たちにいい影響が出たと思います」と語っていた。

また内村は、初出場選手に「夢の舞台をしっかり楽しんでほしい」とアドバイスを送ると「五輪という異様な空気感のなかで『楽しめる』という変態的な精神状態が僕にはあったので、メダルを獲れたんだと思う。人を超えないといけない舞台」と結果を残すためには、プレッシャーを“楽しめる”ことが大きなポイントだという。

五輪の特別さを「4年に1度、同じ場所に集まる世界運動会みたいな感じ。初めて行くと夢の国のように感じ、何をしに来たのか分からなくなるぐらい呆気にとられる」と語ると「そのなかで、いかに地に足をつけて、これまでやってきたことを実行できるか。それがメダルを獲れるか、獲れないかの差になる」と持論を展開する。

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アスリートナビゲーターとしての五輪は「新鮮」

「男子は金か銀」と語った内村。内村自身も常に金メダルを期待される立場で五輪を戦ったが、メダルを望む声には「ただの言葉としてしか受け取らないようにしていました。真に受けてプレッシャーになってしまうと嫌なので、極力そういう言葉は流す」と笑うと「もちろん金メダルは獲りたいですが、執着しないというか、やるべきことをやる。そこに集中できれば、自分の実力なら金メダルは獲れると言い聞かせていました」と極意を語っていた。

周囲の声には影響されないという。それは五輪中も一緒。「報道も見ませんし、ほかの選手がいても基本的に目に入らない。自分のやるべきことだけをやりに来たという感じ」と開催中の過ごし方を明かすと「開会式にも出ませんし、試合が終わればすぐに選手村に帰るだけ」という日々だったという。

だからこそ、アスリートナビゲーターとして参加する今年の五輪は「新鮮なんです」と語る。「まず五輪ってどうなっているんだろうというところからなので」と笑うと「出場していると、試合が盛り上がっているのか、いないのかもわからない。『こうやって五輪ってできているんだ』と理解できれば、より伝える言葉にも真実味が出てくると思う」と述べる。

もしかしたら想像もし得ないような感情、例えば他の選手の活躍にガッツポーズや、涙を流したり――そんなことになるのかも? と問うと「涙は100%ないですね。自分が金メダル獲ったときでも泣かなかったから(笑)。僕はめちゃめちゃ冷静だし、(気持ちは)一定だし。でも予期せぬ感情が出てきたら『五輪ってすごい』と思うかもしれませんね」と話していた。