菅田将暉が2024年7月にリリースする自身3枚目のアルバム「SPIN」は、これまでの「PLAY」「LOVE」とはまたかなり異なったモードへの切り替えが隅々まで感じられ、菅田自身が音楽制作をますます楽しんでいる姿が豊かに伝わってくる意欲作だ。
すでに先行でリリースされた楽曲を含みつつ、今回のアルバムのために牧達弥(go!go!vanillas:Vo/Gt)、佐藤千亜妃、甫木元空(Bialystocks:Vo/Gt)といった多様な面々が書き下ろしで楽曲を提供。しかしそれにも増して、菅田自身が作詞作曲を手掛けており、シンガー・ソングライターの小野雄大との共作「スモア」や、菅田のみのクレジットとなっている「エメラルド」は白眉と言って差し支えない未踏の領域が切り開かれているように聴こえる。そしてもちろん盟友・石崎ひゅーいとの共作は言わずもがな、今回のアルバムでもさらなる発展形を見せている。
5年ぶりとなるオリジナル・アルバム制作に、菅田はどのような心持ちで挑んだのか。近況を含め、話を聞いた。
―今回のアルバム・タイトル「SPIN」に込めた意味からまずは伺っていきたいです。
そもそも今回は、ドラマーのタイヘイとベースの越智俊介という、僕のライブではいつもお世話になっているふたりのルーツも含め、そこを軸にして作ったアルバムです。ふたりとは既に5年くらい音楽活動を一緒にやってきていつもライブも共に作り上げてもらっているけど、そしてもちろん友人として仲がいいんだけど、この辺りで、本人たちの作るものが聴いてみたいなあという僕の気持ちがあって出来上がりました。
この「SPIN」というのも、ずっと、何がいいかなってタイトルを探していく中で、タイヘイが言ってくれたキーワードです。いろいろとまあ、自分のこれまでの音楽業の道みたいなものがあったとして、そことちょっと外れた道も楽しんでみよう、というような。何かこうここまで一本道だけでやってきた感じがあったので。
ちゃんとデカいとこでライブしてたくさんの人に聴いてもらうために作る曲もあるし、でも、そうじゃないのもあるわけで。今回は割とそういうのも大事にしながらの、そういう意味で「スピンオフ」のスピンというような意味も含んでいるような。
―なるほど、”スピンオフ”というのはわかりやすいです。
ね。でもだからと言って今まで来た道を急に転換するというわけではなく、ちょっと振り返りつつ進むか、ちょっとワンターンするか、みたいなことなんですけどね。
これまでふたりとはバンドとして一緒に動いているけど公式にバンドを組んでいる、みたいなことでもなかったから、どういう形になるかは決め込まずに「改めてあなたたちのことを教えてくださいよ」というテーマで。で、タイヘイや越智が紹介したいと言ってくれていた方々に曲も提供していただいて制作が進んでいって。『スモア』の小野雄大くんなんかもまさにずっと紹介したいと言ってくれていた方です。
―菅田さん自身が書いている詞もとても多いですね。
今までの詞は自分の気持ちを吐露する形がほとんどだったけど、今回はそこだけじゃないものを目指したくて。なので、タイヘイや越智が思っていることや彼らのルーツにあるものを聞きつつ、それを自分が言葉にしてみたりして割とじっくりとセッションを重ねながら制作ができました。
でもとにかく曲調としては、全体的にノリがいい、踊れるものを目指したかったんです。それはずっと自分の中に課題としてあって。ライブでの表現、音楽表現として、なんかもうちょっと自分自身が踊りたいな、と。でもこれまではそんな余裕も無かった感じだったので、今回挑みたかった目標は、そこでした。
―ライブの演出などでやりたいことの次の姿が見えてきているということでしょうかね?
そうですね、まあ特にふたりはライブをずっと一緒にやってきたメンバーだからこそ、「こういうのがあってもいいんじゃない?」っていうアプローチも彼らならしてもらえる、信頼して乗っかれる、という感じでした。特にタイヘイはドラム、越智はベースというリズム隊だし、空間把握的にキーとなる視点を捉えている人たちなので。でもそのぶん、めっちゃ難しかったですよ。だから、こうやってできたアルバムの曲たちを、本当にライブで歌えるのかな?って今は思ってます(笑)。
―確かにワーっとみんなで一体となって勢いで盛り上がれるエイトビートのロック!みたいなことではないタイプの楽曲がふんだんに入っていて、聴いていてとても新鮮でしたし気持ちよかったです。
そうなんですよね。うん、そこもすごく発見でした。つまり、自分の中で「あ、何かこの感じはもう知ってる。慣れててやりやすいな」と思うものと、そうではないものが、自分の音楽業の中でもできはじめてるんだなって。たぶん、自分のスタイルみたいなものが、発声、振る舞い方、ノリ方にも既にちょっとあったんですよね。
菅田将暉 3rd ALBUM『SPIN』全曲ダイジェストトレーラー
「歌えば歌うほど上手くなるようにできている」
―今回のアルバムでは声の使い方もだいぶ印象的で、菅田さんの今までの出し方ではない声のバリエーションがいろいろとあるな、というところに最も驚いたかもしれません。
今回はまさに、そこでしたね。これは本当に、誰のためでもなく、僕自身がこれを歌えば歌うほど上手くなるようにできている、という。ちょっとそういう教科書・教則本のような存在でもあるアルバムです。自分自身のためのバイエル、みたいな(笑)。今まで考えたこともなかったような、発音する一音一音の長さ、速さ、拍とか、練習を重ねて習得していく感じがしました。でもアルバムは完成したけれどまだまだよくわかってない曲がいっぱいあるなとも思ってて。やっぱりタイヘイとかはファンクの人だから、たとえば、休符の取り方とかいつも無意識のうちに「かっこいいなあ!」ってこれまで感じていたものを、今回改めて理論でもちょっと教わる、みたいな感じで。とはいえ、はい、まだ全然理解できていないですけど(笑)。
■菅田将暉 『くじら』 ミュージックビデオ
―でも、つまりは菅田さんがこれからやってみたいことが詰まってもいるんですね。
そうです。声的には、キーで言うと多分自分の声帯の中音域あたりなのかな?いわゆるトップの高いところではなく、低いところでもない。かといって、裏声でもない。一番苦手なところがあえて、多めになってます。なぜなら、僕用のバイエルなんで(笑)。でもそこで歌い方間違えると、喉やられるぞっていう曲のラインナップなので、もし僕と同じ声帯の人がいたら、めちゃくちゃいい教材になりますよ(笑)。
でもね、実際、自分が人の曲を聴いている時に気持ちいいなって思う音域ではあるんです。そこは好きなんだけど、自分がやっぱちょっとムズイよなみたいな、でも歌えるようになりたいなって。今までは、みなさん僕に声を張らせたがる方が多かったんですが(笑)、いや、実際自分もそういうのは好きだし、でもちょっと他のところも探ってみたい、という感じですね。「スモア」を一緒に作った小野雄大くんのソウルな歌い方とかもすごく吸収させてもらいたくて。
―菅田さん作詞作曲の「エメラルド」なども、すごく新しいアプローチを感じました。このアルバムが、この先、ライブでどう立ち上がってくるのかも非常に楽しみですね。
そうですね、でも本当にあの去年2月の武道館のライブで何か、ひと区切りだったんです、気持ち的に。別にそう銘打っていたわけでもなんでもないんだけれど、なんか色んなタイミングがそういう感じだったんです。で、今回のアルバム制作は、座組みも含めてこれまでに無かった新しいことをやってみよう、という。
なんか、こう”代謝”なんだなって思います。1回、爪伸びてきたから切ろうかな、というような。循環とか代謝。生まれてから死ぬ、そして死んで生まれ変わる、今回そういう時期だったんだなと思ってます。
でもね、正直、武道館以上の大きいところでやるつもりはあの時はなかったんですけど、東京と大阪でアリーナ4公演やらせてもらうことになって。でも会場が広くなろうが狭くなろうが、意外とやることは変わらないっちゃ変わらない。でも広くなるからこそ、よりずっとステージ上にいるみんなのグルーヴ感とか一体感は増さないと、負けちゃうんで。何かその辺を意識して、今回アルバム制作に挑んだ感じはありましたね。
Photo by Maciej Kucia, Styling by Kazuma Kimura(skavati), Hair and Make-up by Ai Suganuma
「総合芸術としての音楽、まだまだやってみたいことだらけです」
―何か、実現してみたいライブ演出などありますか?
いや、本当になるべくシンプルにしておきたい、というのもあって。その分、最初のほうにも話したノレるということを考えたい。極論、別に僕が歌ってなくてもいいんで。できれば踊っていたいなっていう理想はあるんですけど。いや、それがスタンスとして理想なくらい、やっぱり僕は彼らのセッションが好きなので。そこにちゃんと歌がジョインできたらよりいいんだよね、って武道館でも感じていたんです。
なんかね、比べるものでもないんですけど、昨年行ったレッチリやマネスキンのライブで、「なんかもう、本当にこんなシンプルなんだな」って圧倒されて。もちろんものすごい技術で演奏しているわけですけど、でも演奏している本人たちが楽しそうで、編成はシンプルで、それに対してオーディエンスが超楽しそうに踊っていて。余計なものを削ぎ落とせるならした方がいいな、そうじゃなきゃ続けられないよなって思ったんです。
―昨年の武道館公演を経て、次は東阪アリーナ4公演と、この夏は初めてのご自身名義での音楽フェス(RISING SUN ROCK FESTIVAL 2024)出演も待っているわけですが。
フェスは、自分で行くのも好きですし。もちろん、いわゆる”菅田将暉のライブを見に来た人たち”だけではない方々の前でやらせてもらうわけですから、ちゃんとしなくちゃって思ってますね(笑)。でも間口は広げて、と思いつつ、自由にはやりたいなあ。本当に楽しみです。楽器ももっと触れる時間が増えて、もっと持って歌って踊ることができたらいいなって思ってます。
―今回はアルバムのジャケット写真もRyu Ikaさんの作品であったりと、菅田自身と掛け合わせて新しい表現に繋げていくことができるのって菅田さんならではの自由さのように感じられますが。
ああ、だから本当にこれって、総合芸術ですよね。全部、MVだったら映像もできるし。今回は限定盤でTシャツもすごく気に入った形で作らせてもらって。そういう意味でも、音楽やっててよかったなと思いますけど。
まあ、元々ですね、そもそも音楽や俳優の前に、古着が大好きなので。うん……、やっぱさんざんかっこいいバンドTシャツを見てきたわけで、ということですね。今、かっこいいバンドTをライブグッズとして作りたい、という欲も非常に高まっています(笑)。確かに、「そこは皆さん期待しててください」って言いたいですね。
―昨年までの菅田さんのライブツアーグッズも、とてもこだわりが詰まっていましたね。
グッズはマジでキリが無いですね。めっちゃ楽しいです。というか、みんな何はほしいんでしょうね? それを結構本気で知りたいなっていう。あともっと言うと、ずっと応援してくれている方であれば、何となくもう感覚も共有できたりしている手応えあるんですが、たくさんのライブに行く人とか、いろんな音楽が好きな人たちが求めている物を知りたいかも(笑)。もうね、人様のグッズ製作をプロデュースするだけの会社を作っていろいろと作ってみたいくらい。
―夢は膨らみますね(笑)! 自分のことだけでも忙しいでしょうに、そこまでやりたいくらい、と。
友達だし、ひゅーいくんのグッズ、プロデュースさせてくれないかな(笑)。総合芸術としての音楽、まだまだやってみたいことだらけです。
Photo by Maciej Kucia, Styling by Kazuma Kimura(skavati), Hair and Make-up by Ai Suganuma
菅田将暉 3rd ALBUM『SPIN』 発売中 購入URL:https://erj.lnk.to/seUzR8 配信URL:https://erj.lnk.to/jLupSd ◆完全生産限定盤 価格:8,182円+税 品番:ESCL-5988-89 仕様:特製缶BOX+オリジナルTシャツ(フリーサイズ)+ステッカー8枚セット+CD(紙ジャケット) ◆通常盤 価格:3,182円+税 品番:ESCL-5990 仕様:CD (初回仕様:2つ折り紙ジャケ) 収録曲 1. 二つの彗星 作詞・作曲:甫木元空 (Bialystocks Vo./Gt.) 編曲:西田修大 2. くじら 作詞・作曲:牧達弥 (go!go!vanillas Vo./Gt.) 編曲:牧達弥, 井上惇志, タイヘイ <フジテレビ系2024アスリート応援ソング> 3. るろうの形代 (菅田将暉×東京スカパラダイスオーケストラ) 作詞:谷中敦 作曲:川上つよし 編曲:東京スカパラダイスオーケストラ <TVアニメ『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』第二クールオープニング・テーマ> 4. 化かし愛 作詞・作曲:佐藤千亜妃 編曲:河野圭 5. 惑う糸 作詞・作曲・編曲:Vaundy <日本テレビ『news zero』テーマソング(2022年4月~2023年3月)> 6. 谺する 作詞・作曲:菅田将暉, タイヘイ 編曲:タイヘイ <『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』主題歌> 7. ユアーズ 作詞・作曲:菅田将暉, Kohei Shimizu 編曲:トオミヨウ <日本テレビ系土曜ドラマ『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』主題歌> 8. サディスティックに生きなくちゃ 作詞・作曲:菅田将暉, 石崎ひゅーい 編曲:西田修大, タイヘイ 9. エメラルド 作詞・作曲:菅田将暉 編曲:タイヘイ, 越智俊介 10. Magic Hour 作詞:菅田将暉, タイヘイ 作曲:タイヘイ 編曲:Shin Sakiura 11. スモア 作詞:菅田将暉, 小野雄大 作曲:小野雄大 編曲:小野雄大, タイヘイ 12. 美しい生き物 作詞・作曲:菅田将暉, Sundayカミデ 編曲:Sundayカミデ 13. もののあはれ 作詞:菅田将暉 作曲:越智俊介 編曲:越智俊介, 西田修大, タイヘイ 全13曲収録