家畜の遠隔診療サービス「アニマルック」とは

2024年4月にリリースされた「アニマルック」はソフトバンクのグループ会社であるSBテクノロジー株式会社が開発した遠隔診療サービスです。
農業者はスマートフォンやタブレットからアクセスするビデオ通話で獣医師と会話し、家畜の遠隔診療を受けられます。獣医師側からは最短3クリック、農家側からは最短1クリックで診療が開始されるシンプルな設計です。
診療の履歴はクラウドで管理され、獣医師はパソコンだけでなくスマートフォンからも過去の診療の録画データや処方の履歴等にアクセスできます。
遠隔診療により農業者は手軽に家畜診療を受けられるようになり、獣医師は業務効率を高められるのに加え、農場への外部関係者立ち入りを最小限にすることで感染リスクを減らす防疫上のメリットもあります。

サービスが生まれた背景と課題解決のポイント

従来の訪問診療にかかる時間とコストは大きく、獣医師は勤務時間の3割ほどを移動に費やしているとも言われています。
(出典:農林水産省「」令和6年2月)

獣医師が実際に農場を訪問する従来の診療では、遠隔地や離島等へのアクセスは大きな負担となり、頻繁なケアが難しい地域もあります。また、台風や豪雨、吹雪や積雪などの気象条件が支障になる場合もあります。
「アニマルック」を使ったオンラインの遠隔診療では、往診にかかる時間や負担を軽減できるだけでなく、診療予約の自動化により業務の効率化ができ、スケジュール管理が容易になります。獣医師はカレンダー機能を使って診療可能な時間を登録しておき、農業者は最寄りの診療所の空き状況を見ながら診療予約を行います。
予約が確定すると農業者側にLINE・SMS・メールなどでビデオ通話用のURLが届き、診療日時にアクセスすればビデオ通話が始まる仕組みです。農業者側のLINE画面はシンプルで、スマートフォンから直感的に操作できる仕様です。

獣医師と農場をオンラインでつなぐ遠隔診療の実演

2023年から開発試験、実施テストなどに関わってきた北海道農業共済組合(NOSAI北海道)は、遠隔診療や死亡した家畜の画像確認を行うツールとして「アニマルック」を導入しました。
今回のプレス発表会では、実際にNOSAI北海道の獣医師と農場をつないで、アニマルックを使った遠隔診療の実演が行われました。
獣医師側からの遠隔診療の実演ではノートパソコンを使用し、予約時の情報や過去の診療履歴をふまえて農場側への聞き取りを行い、牛の様子をビデオ通話で確認しました。

農場側での実演では、予約確定通知に記載されたURLをクリックすることでスムーズに遠隔診療が始まっていました。電波が届きにくい牛舎の場合は、事前に牛の様子をスマートフォンのカメラで撮影し、通信環境のある事務所から動画ファイルを送信して獣医師に見てもらうなどの対応もできるといいます。
牛舎の中で実際に牛の様子を画面越しに見せ、獣医師の聞き取りに答えたり牛の表情や全身を映したりして診療を受けます。複雑な操作は不要で、パソコン作業に慣れていない農家などにも使いやすい印象でした。

NOSAI北海道で獣医師の経験もある家畜部部長の中尾茂氏は「北海道は広く、家畜の偏在・点在も起きているため獣医師の拠点から牧場まで往復3時間かかるといったケースもあります。遠隔診療や死亡診断でアニマルックを活用することで、これまで以上に身近で安心できる機動的なサービスを提供したいと考えています。
また、全国的に産業動物獣医師の人手不足も課題です。獣医師には研修医のような制度がないため、遠隔診療の情報を共有することでベテランから若手の産業動物獣医師へ技術や知識の伝承が進みやすくなる点にも期待しています。」と語りました。

家畜の医療を取り巻く現状と「アニマルック」の可能性

筆者の住む北海道の公共牧場においては、1牧場あたりの草地面積は239ヘクタールにも及びます。
(出典:農林水産省「」)

大規模な酪農家・畜産家が多い地域では隣の牧場へ行くのにも数十分を要し、獣医師の往診は半日がかりという状況も珍しくありません。そういった地域でも手軽に遠隔診療が受けられる環境になれば、農家側からはちょっと様子が気になる牛について相談してみる、獣医師側からも訪問診療後のフォローでこまめに診るなど、よりスピーディーで細やかな診療ができるようになるのではと感じました。離島や山間部をはじめ、全国的に遠隔診療のニーズは高いのではないでしょうか。
アニマルックは今後もサービスや機能の拡充が行われ、全国各地の農業共済組合や家畜診療を行う診療所や病院、大学などへ導入が進められる計画です。全国の農業者と獣医師をより身近につなぐツールとして活用され、持続可能な農業につながっていく。そんな将来への期待を感じた取材でした。