アヴリル・ラヴィーン(Avril Lavigne)の主要曲を完全網羅したキャリア初ベスト・アルバム『Greatest Hits』が大きな注目を集めている。そこで今回はライター・セメントTHINGに、彼女のキャリアからセレクトした「絶対に知っておくべき名曲」を解説してもらった。
2020年代における重要なトピックのひとつには、なんといってもポップ・パンクの劇的な再評価があげられる。若手アーティストたちによるポップ・パンク曲のヒットから始まったこの現象は、単なる2000年代カルチャーのリバイバルを超え、ジャンル自体の再興につながった。エモ/ポップ・パンクフェス「When We Were Young」が大反響を呼び、ブリンク182やフォール・アウト・ボーイなどのベテラン勢も充実した新作でカムバックしたいま、このジャンルへとリスナーの熱い視線が改めて注がれている。
そしてそのキーパーソンの一人が、アヴリル・ラヴィーンだ。いまより男性中心的だった2000年代に絶大な商業的成功を掴み、数少ない女性ポップ・パンク・アーティストとして確固たる存在感を誇った彼女。そのあり方は多くの女性の背中を押し、より多様なシーンへとつながる道筋をつけたといっていい。オリヴィア・ロドリゴやウィローといった女性スターたちが業界を先導する未来を、彼女はいち早く切り拓いてきたのだ。
折しもキャリア初のベスト・アルバム『Greatest Hits』をリリースしたばかりのアヴリル。世界に影響を与え続ける彼女の魅力に、数々の名曲を通しぜひ迫ってみてほしい。
上:『Let Go』(2002)、『Under My Skin』(2004)、『The Best Damn Thing』(2007)、『Goodbye Lullaby』(2011)
下:『Avril Lavigne』(2013)、『Head Above Water』(2019)、『Love Sux』(2022)、『Greatest Hits』(2024)
1.「Complicated」(2002年)
アヴリルの記念すべきデビュー・シングルにして世界的ヒット曲。彼女について知らなかったとしても聴いたことがある人は多いはずだ。親しみやすくキャッチーなメロディに、聞き馴染みのいいクリーンなプロダクション。ややこしくしないで、ありのままのあなたを見せてと率直に訴える瑞々しいリリック。一聴して誰もが好きになるような仕上がりだ。ヘヴィなサウンドを望んでいたデビュー時のアヴリルにとってソフトな曲調はやや不本意だったそうだが、20年経ったいまも色褪せない名曲であることは否定できない。近年ではテイラー・スウィフトやオリヴィア・ロドリゴとデュエットで披露する機会もあり、改めてその文化的インパクトを印象付けた。
また日本においてもとても人気の高い曲であり、2022年9月「THE FIRST TAKE」において特別なアコースティック・アレンジでその変わらぬ美声を披露したのも記憶に新しい。ニュー・アルバム『Love Sux』リリース直前というスペシャルなタイミングでの予想外の贈り物は、コロナでの来日延期を経たファンを大いに喜ばせ、1300万再生を突破(2024年7月現在)。アヴリルと日本のファンの結びつきの強さを改めて示した曲でもあるといえるだろう。
2.「Sk8er Boi」(2002年)
2ndシングル。アヴリルの代名詞的な曲は無論「Complicated」だが、その初期のイメージを決定づけたのはなんといってもこの曲だろう。「彼は男の子で / 彼女は女の子 / これ以上なんか言えることある?」というあけすけすぎる歌いだし、スケート・パンク/ポップ・パンクの魅力を不遜なユーモアとともに歌い上げるリリック、パワーポップからの影響も感じさせる爽快なギターサウンド。MVで披露したグリーンのTシャツにネクタイを合わせたルックも印象的で、彼女の新星ロックスターとしての立ち位置を確固たるものにした。ちなみにアヴリルがTikTok初投稿に選んだのもこの曲。伝説的なスケーター、トニー・ホークとのコラボで世間をあっといわせた。
3.「Im With You」(2002年)
アヴリルといえばポップ・パンクという印象があるが、実はバラード曲も数多くヒットさせている。そのなかでも特に高い人気を誇るのがこの曲だ。「バカみたいに寒いこんな夜に / この人生の意味を見出そうとしている」とぶっきらぼうな手つきで孤独へと迫る歌詞は、ティーンらしい切実でまっすぐな姿勢が胸を打つ。アヴリルの情感に満ちた歌声も絶品で、2000年代を代表するパワー・バラードのひとつといっていいだろう。リアーナやチャーチズなど多くのミュージシャンからも愛される曲であり、2020年にはヤングブラッドがBBC Radio 1でカバーを披露。後に二人は本作にも収録されている「I'm A Mess (with YUNGBLUD)」でコラボしている。エバーグリーンな魅力を持った名曲だ。
4.「Losing Grip」(2003年)
デビュー・アルバム『Let Go』からの最後のシングル。「Unwanted」と並び制作初期からあった曲だが、レーベル側がハードなサウンドに難色を示したため、アヴリルが自身の要望を押し通す形でなんとかリリースされた。ニューメタルやグランジの影響を感じさせる重たいリフに、不誠実な相手への怒りを躊躇なくぶちまける歌声。この強烈な曲をアルバム冒頭に持ってきたところに、当時の彼女が求めていた方向性が垣間見える。デビュー作では結果としてやや浮いてしまったが、2ndアルバム『Under My Skin』はこの路線を引き継ぐようによりダークでオルタナティブな仕上がりとなった。アヴリルのヒリつく初期衝動を感じられる一曲だ。
5.「Nobodys Home」(2004年)
前作『Let Go』から一転、よりグランジやオルタナ色を強めたアルバムとなった『Under My Skin』。そのなかでもテーマの重さという点で際立っているのがこの曲だ。どこにも居場所のない少女の苦境を切々と歌い上げるアヴリルの澄んだ歌声と、ヘヴィなサウンドの対比がドラマチックで美しい。作曲にエヴァネッセンスの元ギタリスト、ベン・ムーディーが入っているのも納得だ。2024年に入ってから「自分の幼少期のトラウマをシェアする」というミーム用のBGMとしてTikTokで局地的にバズを巻き起こしたのは、この曲で描かれる苦しみが時代を越え、生々しくリスナーに迫る力を持っているからだろう。アヴリルの新境地を示した作品だ。
6.「Girlfriend」(2007年)
初の全米1位を獲得し、それまでのイメージをがらりと一変させたモンスター・ヒット曲。極限までキャッチーに突き抜けたコーラスは、一度聞けば絶対に耳から離れないことうけあいだ。アヴリルといえば!な、ピンクとブラックのヴィヴィッドなビジュアルもここで固まった。本人は「ねえ、あなたのガールフレンドが大嫌い! / ありえないよ、新しい相手が必要なんじゃない?」というフックについて一種の冗談のつもりで書いたと語っているが、結果的にそれは新たな代表曲となった。サウンド自体は前作より直球なポップ・パンクとなっており、ハッピーなムードに振り切りつつ抑えるべきところを抑えるアヴリルのバランス感覚の良さが感じられる。
7.「What The Hell」(2011年)
ブリトニー・スピアーズやテイラー・スウィフトなどとの仕事でおなじみ、マックス・マーティン&シェルバックをプロデューサーに迎えた底抜けに明るいポップ・ロック・チューン。収録アルバム『Goodbye Lullaby』には人生の痛みを見つめた内省的でメランコリックな曲が数多く揃っているが、それと好対照をなすようにシングルにはキャッチーな曲が選ばれることとなった。全てを振り切るように「どうだっていい!」と叫ぶアヴリルの歌声とポップなメロディには、思わずウキウキした気持ちにさせられるはず。たゆみなく自由を求め続けるアヴリルの、パワフルで前向きな側面を強く感じることができる曲だ。
8.「Heres to Never Growing Up」(2013年)
セルフタイトルアルバム『Avril Lavigne』からのリードシングル。いつまでも飲んでバカ騒ぎしよう、大人になんかなっていられないと高々と叫ぶライブでの定番曲。プロデュースにはボーイズ・ライク・ガールズのマーティン・ジョンソンと、ニッケルバックのチャド・クルーガーが入っており、キックドラムの音が響き渡るアンセミックな仕上がりとなっている。当時デビュー10周年を迎えたばかりのアヴリルの、素直に大人しくする気はないという気概が伝わってくるパーティーチューンだ。失われた青春の日々を愛おしむかのようにプロムを舞台にしたMVは、リリースから10年を越えた今見返すといっそう味わい深い。ほろ苦くスイートな一曲だ。
9.「Head Above Water」(2018年)
デビューから順調にキャリアを積んでいたアヴリルだが、2014年の終わりに大きな試練が訪れた。突如ライム病という難病を罹患し、寝たきりの闘病生活を余儀なくされたのだ。全身の痛みと倦怠感、身体が死を受け入れ、機能を停止していく感覚。その時期を「人生で一番辛い日々」と振り返るアヴリルは、音楽活動を諦めそうになったときもあったという。そんな深い水の中でもがくような息苦しさから、文字通り水上へ浮かび上がるように生まれ出たのがこの曲だ。どうか私に強さをお賜りくださいと神へと祈りを捧げる壮大で感動的なバラード。ビルボードのクリスチャン・ソング部門にもランクインし、彼女の受難と再生を告げる見事なカムバックとなった。
10.「Bite Me」(2021年)
ブリンク182のトラヴィス・バーカーのレーベルへと移籍し、これまで以上の創造的自由を手に入れたアヴリルが選んだのは、自身のルーツであるポップ・パンクへの回帰だった。プロデュースにはトラヴィスだけではなく、ゴールドフィンガーのジョン・フェルドマンやラッパーのモッド・サンも参加。アヴリルらしい強気な歌詞、前のめりでパワフルなバンドサウンドは、まるで2000年代に戻ったかのような感覚だ。収録アルバム『Love Sux』にはマシン・ガン・ケリーやブラックベアー、マーク・ホッパスなどシーンの重要人物が多数参加。最初から最後まで妥協なくポップ・パンクを追求し、ロックスターとしての彼女の堂々たる帰還を宣言した作品となった。
Photo by Tyler Kenny
『Greatest Hits』において注目すべきは、1st~3rd、そして最新作『Love Sux』からの選曲が特に多い点だ。これらのアルバムの曲は基本的にロックやポップ・パンク曲が多く、それこそが現在のアヴリルのモードであることが感じられる。ポップやヒップホップに接近した4thや5thから、ロック色の強い「Rock N Roll」や「Smile」が選ばれているのもその表れだろう。
この姿勢の背後には、やはりポップ・パンク・リバイバルがあると考えるのが妥当だ。オリヴィア・ロドリゴを筆頭にした後輩女性アーティストの尊敬の声や若手ミュージシャンとの交流が、アヴリルに影響を与えたことは想像に難くない。デビュー22年目を迎えたアヴリルは、いままで以上にロックを志向している。
しかし同時にこのベストには、「What the Hell」や「Here's to Never Growing Up」などポップス寄りのヒット曲もきちんと収録されている。ここからアヴリルに入門したいリスナーがいれば、気になった曲が収録されているアルバムから手にとるのがいいだろう。アヴリルの充実したディスコグラフィーを、ぜひ楽しんでほしい。
現在は世界ツアーの真っ最中。グラストンベリー2024では7万人規模のステージを満員にし、英メディアからの絶賛を集めた彼女。2022年に引き続き、再びの来日公演を期待したい。
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