かつて「優勝賞金1億円のeスポーツ」として話題になった「Shadowverse World Grand Prix」の関連大会である「RAGE Shadowverse」が一旦の区切りを迎えました。

「RAGE Shadowverse」は、デジタルカードゲーム『Shadowverse(シャドウバース)』を使用するeスポーツ大会。2024年夏のリリースと発表されていた後継タイトル『Shadowverse: Worlds Beyond(シャドウバース ワールズビヨンド)』がリリース時期を2025年の春に延期することを受けて、今後予定していた大会の開催スケジュールも変更されました。

そこで、同イベントを7年間取材してきた筆者が、これまでの総括をするとともに、今後の展開について見解を述べます。

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    30回目となる「RAGE Shadowverse 2024 Summer」で一旦の区切りとなった

「RAGE Shadowverse」が培った“誰でも参加できる”eスポーツ文化

『Shadowverse』は、2016年にサービスが開始されたタイトルです。これまで、およそ8年にわたり、日本のeスポーツ文化を盛り上げてきました。では、どのような点が特徴だったのでしょうか。『Shadowverse』のイベントについて2つのポイントで整理します。

1つが、誰でも参加できる賞金制eスポーツである点です。参加費が無料であるにもかかわらず優勝賞金は1000万円で、副賞で出場できる世界大会の優勝賞金は1億円とさらに高額です。

これほど高額な賞金の大会に「誰でも参加できる」のは、eスポーツ界全体を見渡しても珍しいでしょう。しかも、年4回開催されていたことも特筆すべきポイントです。

また、プロゲーマーを目指す選手の登竜門にもなっていました。『Shadowverse』はスマホ1つでプレイできる基本無料のタイトルです。特別なゲーミングデバイスを買いそろえる必要はありません。まさに「誰にでもチャンスがある」eスポーツ大会だったのです。

そのため、プロゲーマーやストリーマーに依存するのではなく、一般人が活躍できる点が非常にユニーク。eスポーツの“観戦”だけなく“参加”できるイベントとして、eスポーツ文化をZ世代に浸透させたと言えるでしょう。

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    過去大会の様子

2つめが、世界と戦える“数少ない”日本産のeスポーツタイトルとしての可能性です。いま世界的に人気のeスポーツといえば、『League of Legends(リーグ・オブ・レジェンド)』『VALORANT』『Dota2』『Fortnite(フォートナイト)』などの名前が挙がりますが、どれも海外産のゲームタイトルです。

日本のゲーム産業はアニメ・漫画と同様、世界中に存在感を示していますが、翻ってeスポーツ文脈のゲームという観点では、まだまだ発展途上。『ストリートファイター6』『鉄拳8』など、一部の対戦格闘ゲームは海外でもeスポーツシーンが盛り上がっていますが、そろそろ二の矢、三の矢がほしいところです。

そんななか、『Shadowverse』は世界に挑戦するeスポーツタイトルとして大きな期待ができるのではないでしょうか。

新作アプリ『Shadowverse: Worlds Beyond』については、多くの情報が未定ですが、その名前のとおり、世界を視野に入れているのかもしれません。2024年7月4日から7日までロサンゼルスで行われる「Anime Expo」に出展予定なので、そこで日本産eスポーツとして世界からどんな評価を受けるのか、期待が膨らみます。

新作のリリース延期が与える影響は小さくない

先述した通り、新作『Shadowverse: Worlds Beyond』のリリース延期が発表されました。1年弱のリリース延期という決断は、Cygamesにとっても断腸の思いだったに違いありません。

ちなみに、同社が販売・開発するゲームのリリース日が延期されるのは珍しいことではなく、過去には『ウマ娘 プリティーダービー』や『GRANBLUE FANTASY: Relink』など、度々「クオリティアップのためのリリース延期」が行われてきました。

ただ、今回の延期は少し事情が異なります。『Shadowverse: Worlds Beyond』の延期は「RAGE Shadowverse」の一時中断を意味します。また『Shadowverse: Worlds Beyond』移行後の活動に備えていたプロチームの活動に制限がかかり、eスポーツ興行の予定にも狂いが生じたことでしょう。

いずれにしても延期の余波は大きく、『Shadowverse』というコンテンツが「ただのゲームアプリではなくなってきている」のを再認識しました。

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    『Shadowverse: Worlds Beyond』のリリースが「2024年夏」から「2025年春予定」に延期。延期の公表と合わせて、現行アプリで代替の大会を開催すると発表があった

メタバース「ワールド機能」への不安

リリース延期の具体的な理由は明かされていませんが、ファンの中では「カードゲーム部分は完成しているものの、メタバース要素の開発の遅れが原因で延期した」という憶測があります。

詳しくは後述しますが、個人的にはこのメタバース要素(公式では「ワールド機能」)が気がかりです。ちょっとしたおまけ要素であればよいのですが、SNSやサードプレイスに近い形での大規模なプラットフォームとしての運用を想定しているのであれば、かなり挑戦的です。

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    2023年12月公開のディザーPVでは「自作アバターで3D空間を移動する」映像が披露された

全世界で5億人のユーザーがいる『フォートナイト』のデジタルカードゲーム版を狙っているとしたら、夢は膨らみますが、何かと心配な面もあります。特に、すでに多くのユーザーが指摘している通り、スマホに与える負荷や消費容量の大きさが真っ先に浮かびます。メタバース要素の規模感は未知数ではありますが、ユーザビリティを考慮したうえでの、現実的な規模感での実装を期待したいところです。

加えて、筆者の意見としては「プラットフォームを目指すのではなくコンテンツに徹するべきではないか」です。一般論として、ゼロからプラットフォームを立ち上げ&普及させるのは、一筋縄ではいきません。

一方、世界とのプラットフォーム争奪戦で敗れてきた日本ですが、「コンテンツ作り」においては世界と比較しても上手です。

iモード、ニコ動などの仕組みやプラットフォームは死屍累累ですが、それらから産まれた「絵文字」「ボーカロイド」は、世界に誇れるユニークなコンテンツ。世界のグッズ販売数でも、ポケモン、ハローキティは、ディズニー関連のIPを退けています。日本企業の創造力は、プラットフォームではなく、コンテンツでこそ生きるのかもしれません。

奇しくも、同社のビジョンは「最高のコンテンツを作る会社」。そのため、「徹底的にコンテンツで勝負すること」が良い結果に結びつくのではないでしょうか。

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    メタバース空間では、「プレイヤー同士が対戦する場所や、イベントが開催されるスペース」が実装される予定

さらに、『Shadowverse: Worlds Beyond』には、従来のカード対戦、コレクション要素に加えて、麻雀、釣り、MMOなどの、たくさんのミニゲームが実装されることが発表されています。

「麻雀」「釣り」「ゴルフ」は人が最終的に辿りつく、“三大趣味”とも言われているので、将来的にはゴルフも実装される気がします。

これは筆者の妄想ですが、いま流行中のポーカーを実装すれば、麻雀と合わせて、Cygamesの親会社であるサイバーエージェントとテレビ朝日が出資して2015年4月に設立した「AbemaTV」が運営する「ABEMA」で放送中の「Mリーグ」や「ABEMA Queen Of Poker」とのコラボまで夢が膨らみます。

『ファイナルファンタジーXIV』が、ゲーム内に麻雀(ドマ式麻雀)を実装したように、ミニゲームの実装は「間口を広げる」「アクティブ数の維持」の点では有効でしょう。

ただし、シャドバ部分とミニゲームの主従関係が逆転しないよう、「ミニゲーム新規をシャドバに流す」といった導線設計は必要不可欠。先述した「プラットフォームの是非」の話ともつながりますが、いち個人の意見としては、「シャドバでは限界があるから、ミニゲームやプラットフォームでユーザー数を増やそう」ではなく「シャドバの魅力を最大化するためにも、このプラットフォームが必要」の考えで作ってくれることを願っています。

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    2023年12月公開のディザーPVでは「麻雀」「釣り」「サッカー」などの映像が披露された

参加の象徴としてのRAGE、観戦の象徴としてのプロリーグ

最後に、イベントとしてどうあるべきか考えを記述します。「RAGE Shadowverse」には引き続き「誰でも参加できる賞金制eスポーツ」としての機能を期待したいところです。

一方、プロリーグとの連携については課題があります。最高峰の舞台であるプロリーグは、「RAGE Shadowverse」に出場する参加者たちの最終目標として位置づけられるべきですが、現状はここのつながりがいまひとつ明確ではない気がします。

「RAGE Shadowverse」が登竜門になっているものの、結果を出した選手が「プロリーグの練習生として登録される」などの制度はなく、また、プロ選手に「RAGE Shadowverse」のプレーオフへのシード権が与えられているわけではないため、必ずしもプロ選手が「RAGE Shadowverse」の決勝ラウンドに出場するとは限りません。

賞金制のプロアマ混合大会において、アマチュアにも等しくチャンスがあるというのは、間違いなく「RAGE Shadowverse」の「最大の魅力」ではあるものの、貴重なメディア露出の機会がプロリーグの訴求に紐づいていないのは、プロモーションやブランディングの観点ではもったいなさを感じます。

多くのジレンマを抱えているのは確かですが、いずれにしても「参加の象徴」である「RAGE Shadowverse」、「観戦の象徴」であるプロリーグの両輪を走らせつつ、それら2つをつなげる仕掛けの検討が求められるでしょう。

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    2024年2月に開催された「RAGE SHADOWVERSE PRO TOUR CHAMPIONSHIP 23-24」

取材・文 / 合同会社KijiLife(小川翔太)