以前から、リコーイメージングよりアナウンスのあった、ペンタックス(PENTAX)ブランドのフィルムカメラが先般正式に発表されました。カメラ銘は「PENTAX 17」。カメラ関連の媒体やSNS、動画投稿サイトなどでは現在何かと話題になっています。そして、ようやく筆者(大浦タケシ)の手元にもレビュー用のPENTAX 17がこの度届きました。早速操作感を中心に、この新しいフィルムカメラを紹介したいと思います。
ハーフサイズカメラなのでファインダーは縦長
まずは、大まかなスペックを改めて紹介します。使用するフィルムは、一般に35mmフィルムなどと呼ばれる135フィルム。いうまでもなく一番使われているフィルムの規格で、入手もしやすいものです。135フィルムのフォーマットは本来36×24mm(以下、35mm判ということにします)ですが、本モデルはハーフサイズと呼ばれる17×24mmのフォーマットを採用。35mm判の半分ですので、36枚撮りのフィルムの場合、その倍の72枚の撮影が可能。ちなみにカメラ銘の“17”は、このフォーマットの横サイズからとのことです。
搭載するレンズは固定式で、25mmの単焦点。35mm判換算で約37mm相当の画角とし、スナップ撮影や風景撮影など使いやすく思えます。レンズ構成は3群3枚のトリプレットタイプとなります。ピントはいわゆるゾーンフォーカスを採用しており、フォーカスリングに描かれたイラストを参考にユーザーがピントを合わせます(メートル表示とフィート表示の距離目盛も備えています)。撮影モードはフルオート、プログラムAEのほか背景ボケを大きくするモードや長時間撮影のモードなども備えており、ひととおりの撮影は楽しめそうです。
それではフィルムをPENTAX 17に装填しましょう。装填は簡単。裏蓋を開けてフィルムをカメラにセットしたら、フィルム先端を引き出しオレンジの指標を目安にフィルム巻き上げスプールの上に置きます。裏蓋を閉じ、シャッターを幾度か切り、その都度フィルムを巻き上げレバーで巻き上げていきます。カウンターが0になったら、このフィルムの装填は終わり。自動で巻き上げてくれるフィルムカメラであれば、裏蓋を閉めれば撮影可能状態になるまですぐに巻き上げてくれますが、本モデルはそのような機能は備わっていません。ちなみに、フィルムを撮り終わったあとの巻き戻しもユーザーが手動で行います。
フィルムの感度合わせについても、自動的にセットするDXコードに対応しておらず、使用するフィルムに応じてユーザーが手動で設定します。また、フィルムのパトローネに書かれた種類や撮影枚数などが確認できる小窓も備わっていませんので、必要であればフィルムの入っていたパッケージのフラップ部分を切って、カメラ背面にあるメモホルダーに差し込むようにします。さらに、前述のとおりピント合わせもユーザーが行いますので、本モデルはある意味“手間を楽しむカメラ”と述べてよいでしょう。
スタイルについては、トップカバーがレンズ上で右側と左側に分かれ、その間、いわゆる光軸上に光学ファインダーを置いた独特のもの。往年のコンパクトカメラにはなかったスタイルと述べてよいものです。ちなみに、このファインダーの位置としたことは、後述するゾーンフォーカスのピクトグラムをファインダー内に表示させることが理由として大きいように思われます。トップカバーには、シャッターボタンやフィルム巻き上げレバー、フィルム巻き戻しノブのほか、撮影モードダイヤルや露出補正ダイヤル、ISO感度ダイヤルなど、フィルムカメラとして必要なものを集約。ユーザーは、カメラの設定状況をゾーンフォーカスのピクトグラムも含め一同に確認できるとともに、メカっぽさを感じさせる部分にもなっています。
操作性は上々、撮影モードも充実
カメラを手に持って構えた印象としては、「おっ、いいじゃん」という感じ。ハーフサイズながら適度な大きさ、質量があり、さらに右手で持ちやすいようグリップを備えていることなどがその理由です。シャッターボタンやフィルム巻き上げレバーの位置なども絶妙で、それは写真を大いに撮る気にさせます。ファインダーを覗くと、ハーフサイズのカメラであることを改めて知らされます。画面が見慣れた横長でなく縦長。アルバダ式ブライトフレームは光の状態によって見づらくなることもありますが、ハーフサイズのカメラであることをユーザーに強く認識させてくれます。
シャッターボタンを押したときの感触や、フィルム巻き上げレバーの操作感もイイ感じ。シャッター音はレンズシャッターであることもあり、小さく抑えられています。クルマの行き交うような場所では、その音は聞き取れないように思えます。巻き上げレバーについても、金属的なシャープな感触こそないものの、心地よく感じられます。ちなみに、シャッターチャンスだと思いあわてて一気にシャッターボタンを押し込んだときなど、実際にシャッターが切れるまでタイムラグが生じることがありました。今回借りた個体の問題なのかもしれませんが、ちょっと気になりました。
ピント合わせは、前述のようにゾーンフォーカス式。AFに慣れた身にはこの操作は忘れてしまいそう。前述のとおりファインダー画面の下部にゾーンフォーカスのピクトグラムが表示されるので、気にして撮影するとよいでしょう。ちなみにゾーンは、遠距離(5.1m~無限遠)、中距離(2.1~5.3m)、近距離(1.0~1.4m)、クローズアップ(テーブルフォト/0.47~0.54m)、クローズアップ(マクロ/0.24~0.26m)の6つから選択できます。
撮影モードはフルオート、プログラム、低速シャッター、BOKEH(絞り開放優先)、B(バルブ)、日中シンクロ、低速シンクロと豊富に搭載。絞りを開きボケを活かした写りが得られるというBOKEHモードは個人的にちょっと面白いなぁと思いましたが、レンズの実焦点距離が短いこと、開放絞り値がF3.5と大きなボケが期待できないものであること、最高シャッター速度が1/350秒にとどまることなどから、実用性は少々低く感じました。また、フルオートではピント位置がパンフォーカスに切り替わります。被写体の明るさによって自動的にストロボも発光しますが、スナップのような撮影では重宝しそうです。
ちょっと気になったのが、撮影モードダイヤルが動きやすいこと。指が触れてしまったことなどで動いてしまうことが度々ありました。カメラ自体がコンパクトで露出モードダイヤルも小さいので難しいかもしれませんが、ロックボタンが欲しいところです。露出補正ダイヤルについては操作感自体よいのですが、1/3段クリックで補正できるのは、個人的にはちょっとオーバースペック。フィルムは基本的にラチチュードが広いので、1/2段でもよいように思えます。この部分についてはメーカーの設計思想もあり、一概に悪いというわけではないですが。
レンズの描写性能が高く、かなりシャープな仕上がりになる
今回の作例撮影では、カラーネガフィルム1本、モノクロフィルム2本を撮ってみました。いずれも現像はラボにお願いし、掲載のためのデータ化は私自身がデジタルカメラを使いスキャンしています。
最近の若い世代がフィルムカメラに注目しているひとつに“エモい写真”が撮れることがあります。本来なら歓迎されない古いレンズの特性だったり、フィルム特有の写りなどが融合した結果をそう呼ぶことが多いようです。
しかしながら、本モデルでは、少なくともレンズの特性に限って言えば、それを期待するのは難しいと感じました。合焦した部分の解像感は高く、いわゆる抜けのよいクリアな写真となるからです。それは逆光撮影でも同様で、ゴーストやフレアがまったく現れないわけではないですが、最新レンズらしくよく発生は抑えられています。画面周辺部も良好な結像で、“エモい写真”とは遠くかけ離れた、ある意味現代的な写りの得られるフィルムカメラと述べてよいでしょう。
フィルムの価格が高騰し、メジャーブランドのものは整理され、選択の幅も狭まっています。発売されているものでも、種類によっては手に入りづらいものもあると聞きます。そのような状況のなか、新たにフィルムカメラをリリースしたペンタックスの決断には驚きを隠せません。スマホも含めデジタルカメラ全盛の今、同ブランドの挑戦とみてよいでしょう。このカメラに関してSNSなどにアップされた意見はおおむね好評で、期待の高さが分かりますし、それは日本だけでなく欧米でも同様のようです。
実際、作り込みは本格的な部分も多く、撮っていて楽しく感じるとともに、所有する喜びもそれなりに持ち合わせていますので、発売された暁には評価はさらに上がると思われます。そうなると、今後35mm判のフィルムカメラの登場にも期待が持てそう。単焦点の明るいレンズと距離計を搭載し、より本格的な撮影の楽しめる“PENTAX 36”の登場に夢は膨らんでいきそうです。
しかしながら、毎度ペンタックスに関する記事では書いていますが、ミラーレスもやはり出してほしい。フィルムカメラは過ぎてしまった技術であるのに対し、ミラーレスはこれからの技術。企業として未来がかかっているように思えてなりません。ぜひこちらも前向きに検討してほしいと思います。
*掲載した作例は、ネガをデジタルカメラで撮影し、適正な明るさにするなどレタッチを施しています。作例はすべてノートリミングで掲載しています。