自動車雑誌ドライバーが過去に取り上げた記事が今に蘇る「DRアーカイブズ」。今回は1989年3-20号の「マツダ MX-5 ミアータ」を振り返る。
◇◇◇以下、当時原文ママ◇◇◇
1960年代に一世をふうびした英国製ライトウエイト・スポーツは、俊敏な運動性能を低価格で実現したオープンカー。そのテイストを、今、MX-5が再現!
■こだわりのピュアスポーツ
現代のスポーツカーは、速さと快適性を手に入れる代償として、大きく、重く、そして高価になってしまった。
しかし、最近になって1950〜60年代のブリテッシュ・ライトウエイト・スポーツを懐かしむ声が高まっている。それは、速く豪華になった現代のスポーツカーでは満たされない人々が、確実に存在しているからに違いない。
シカゴ自動車ショーでベールを脱いだマツダMX-5ミアータは、まさに、次第にグランツーリスモ化しつつある現行スポーツカーに対するアンチテーゼ。単なる速さではなく、クルマを操る楽しさを追求したピュアスポーツカーだ。
オープン2シーターのコンパクトボディ、FRの駆動方式、NA(自然吸気)DOHC……など、このMX-5には、マツダ・エンジニアリングのスポーツカーに対するこだわりが十二分に表現されている。
■爽快なオープンエア感覚
全長3948㎜、全幅1676㎜、全高1224㎜、ホイールベース2266㎜のサイズを持つMX-5のボディは、コークボトル調のウエストラインに象徴されるように滑らかな曲線とボリューム感のある面による構成。ライトウエイト・スポーツらしい、躍動的でキュートなスタイリングは、60年代のスポーツカーイメージを現代流にアレンジしたものといえそうだ。
だ円形のレンズカバーを持つ、ユニークなデザインのリヤコンビネーションランプ、フロントバンパー下方のだ円形の大型エアスクープなどは、丸みのあるMX-5のスタイリングを強調するポイント。そして、ワンフィンガータイプのメッキ・ドアハンドルや、7スポークタイプのアルミホイール(オプション)が、クラシカルなムードを演出している。
MX-5は、現代のスポーツカーとしてはウインドーが立ち気味。これは、CD値(オープン時0.44、クローズド時0.38)というハードウエアよりも、むしろオープンエアモータリング時の爽快感を重視しているためと思われる。
例えば、フロントウインドーが目の前に迫っている印象のあるRX-7カブリオレに対し、MX-5のコックピットはより開放感にあふれているはず。もちろん、“風を感じる”楽しさも、MX-5のほうが上だろう。
シート後方にスマートに収納されるソフトトップは、手動式の折り畳み幌。ただし、手動式といっても、運転席からでも開閉操作が行えるように工夫されているという。
さらに、装着すればクローズドボディに近いシール性と耐候性が得られるという、デタッチャブル・ハードトップがオプションパーツとして用意される。材質は、RX-7カブリオレのルーフパネルにも使用されているSMC(シート・モールディング・コンパウンド)。リヤウインドーにはガラスを採用し、重量は約20㎏。軽々とはいかないだろうが、脱着は比較的簡単に行えるという。
このハードトップを装着すれば、MX-5は丸みのあるルーフラインを持つクーペへと変身。つまり、メルセデス・ベンツSLのように、オープン、ソフトトップ、クーペの3つの姿を、状況や気分によって使い分けられるというわけだ。
■魅力的なカムカバーデザイン
MX-5のメカニズムは、スポーツカーの典型ともいえるオーソドックスなもの。87年秋の東京モーターショーで注目を集めたコンセプトカーMX-04とこのMX-5は、ボディサイズやサスペンションに多くの共通性を持ちながら、エンジンはロータリーからレシプロ、駆動方式は4WDからFRへと変わっていた。
パワーユニットは、ファミリアやエチュードで実績のある1.6L DOHC16バルブのB6型の発展タイプ。ボア78㎜×ストローク83.6㎜の1597㏄、圧縮比9.4の基本スペックに変わりはないが、縦置き後輪駆動用への設計変更を受け、B6-ZE型と改称されている。
シリンダーヘッド、吸排気系などはすべて新設計され、高回転での効率を重視したインテークマニホールドやバルブタイミングを採用。トップエンドまでスムーズに力強く吹き上がる、スポーツカー用ユニットならではの特性を追求している。
性能は、米国仕様で116hp/6500rpm、13.8kgm/5500rpm(SAEネット)。従来のB6型と大差ない性能のようだが、SAE規格は日本のJIS規格よりも少し厳しいので、その実力はもう少し上と考えていいだろう。
さらに、振動騒音対策のためにオイルパンをアルミ化、軽量化と性能アップのためにエキゾーストマニホールドに溶接ステンレスパイプを使用しているのも “ZE”の特徴。カムカバーも、従来の結晶塗装の素っ気ないデザインから、金属の持つ素材感と伝統的DOHCのイメージを大切にしたものへと大変身。ボンネットを開ける楽しみをオーナーに与える“スタイリッシュなエンジン”となっている。
ミッションは5速MTのみの設定。ギヤレシオは、3〜5速のギヤ比が接近したクロスレシオを採用している。また、シフトレバーは、シフトストロークが非常に短く、スポーツドライビング時の素早いシフトワークを可能にする設計となっている。
■俊敏なハンドリングを追求
サスペンションは、MX-04から受け継がれた不等長Aアームの本格的ダブルウイッシュボーン式。これをぜいたくにも前後に採用している。さらにサブフレームを使ってサス全体の剛性を高めるとともに、低圧ガス封入式ダンパーとスタビライザーを前後に装着するなど、ダブルウイッシュボーン本来のハイポテンシャルを追求。
ラック&ピニオンのステアリングは、ノンパワーで18:1、パワーアシスト付きで15:1のクイックなレシオ。そして、ブレーキは、前ベンチレーテッドディスク/後ディスクの構成。デフは、ビスカスLSD付きがオプション設定されている。
そのほか、メカニズム面で見逃すことができないのは、理想的な重量配分とヨー慣性の低減を徹底的に追求している点。B6-ZE型ユニットは前車軸の後ろ、つまりフロントミッドシップにマウント。さらに軽量タイプのバッテリーを、トランクに配置するという徹底ぶりだ。
そして、初めからオープン専用に設計されたボディは、高いボディ剛性を確保するとともに軽量化を効率的に追求。エアバッグ装着の米国仕様で960〜990㎏の車重は、絶対的重量としては特に軽いとは言えない。だが、前後のバンパーやリヤエンドパネルをプラスチック製とし、さらにアルミボンネットを採用。前後オーバーハング部の重量軽減により、車体のヨー慣性モーメントを大幅に低減している。
これは、ショートホイールベースとともに、スポーツカーらしいきわめて俊敏なハンドリングを生み出す大きなポイントと言える。
また、PPF(パワー・プラント・フレーム)と呼ばれるアルミ製のフレームにより、エンジン、ミッション、それにリヤドライブユニットをリジッド・マウントし、ドライブトレーン系の振動低減と、アクセルレスポンスやクラッチのつながり感向上を図っている点にも注目したい。
■待望の国内デビューは今秋!
MX-5は、マツダの考えるピュアスポーツの理想を具現化したような意欲作。適度にタイトな居住スペースを持つインテリアも、T字形コンソール採用の機能的なインパネ、黒基調で統一されたカラーなど、スポーツカームードにあふれている。
MX-5のメイン市場となるアメリカには、今秋(1989年)から来年にかけて、オーストラリア・フォードのカプリ、ロータスのM100(ニューエラン?)といったコンパクトなオープンスポーツが投入される予定だ。
しかし、この2モデルは、ともに量産車のシャシーやパワートレーンを流用したFF。ライトウエイト・スポーツカーのテイストにこだわり、安直なクルマ造りを否定したマツダの姿勢は、日本国内だけでなく欧米でも高く評価されるだろう。
アメリカでの販売開始は6月ごろとなるが、日本では今秋、マツダの新販売チャンネル“ユーノス”のメイン車種としてデビューする。日本名は、MX-5ミアータではなく、ユーノス・ロードスターが有力。
気になるのはその価格。だが、低価格・高性能で大ヒットした初代RX-7の伝統を受け継ぐモデルとして、MX-5がアメリカに投入されることを考えれば、十分にリーズナブルなセンに設定されるはず。ライトウエイト・スポーツ・ファンは、秋まで期待をふくらませながら、ガマンの日々を送ってほしい。
〈まとめ=ドライバーWeb編集部〉